2018.8.20

[Season.2-8]

トーナメントプロとイップスを語る(その2)


こんにちは。ハバナトレーナーズルームの石原です。毎日、毎日暑い日が続きますね。観測史上初の40度越えの地域が増えています。練習場で黙々とゴルフの練習をしていると、ついつい夢中になってしまい、水分補給を忘れてしまうことがありますが、非常に危険なので、常に水分、塩分を近くに置いておいて、こまめに補給しましょう!

さて、今回は、前回に続き神田プロをお迎えしたコラムの後編になります!

野球、ゴルフ、共に高いレベルでのプレー経験をお持ちの神田プロ。イップスが頻発する両競技の症状の共通点や、違いについてお話を伺える非常に貴重な機会です。

石原「ちなみに、神田プロが目にされてきたイップスは、どの場面で見られることが多い印象を受けますか?」

神田プロ「やはり、パッティングが圧倒的に多いのではないでしょうか。」

石原「そうですか。やはりパッティングですか。ちなみに、神田プロが現場で目の当たりにされてきたイップスは、具体的にどのような症状のパターンがありますか?」

神田プロ「私が見てきたものですと、3つのパターンに分けられると思いますね。①アドレスに入ってから動き出せなくなる、②クラブをトップの位置に上げてから下りなくなってしまう、③強くしか打てない(力加減がうまくできない)。主にはこの3つですかね。」

石原「なるほど。イップスは、『静から動の局面』『微妙な力加減の調節が必要な局面』で起こりやすいと考えられているので、いずれも合致しているようですね。非常に参考になります。神田プロは、現場でそのような症状に対して、生徒さんにどのようにご指導されているのでしょうか?」

神田プロ「利き手を逆に打ってもらったり、ルーティーンを作ったり、いくつか指導経験はありますが、根本的にはあえて指導という指導は、しないようにしています。練習場では症状が出ないのに、コースでは出てしまう方が多いことを見ると、やはり技術というよりもメンタルの部分が大きいと思いますので。だからと言って、メンタルトレーニングが効果的だという話も聞いたことがない。そうなると、やはり技術の方へ意識を向けてもらうよう促すことが、いい方向に向くのかな、と思います。」

石原「技術の方へ意識を向けることですか?」

神田プロ「ここ数年、メディアを通してイップスという言葉自体が市民権を得たように感じます。もちろん、周囲の理解を得られるなど、良い部分もありますが、ミスが続いたり、緊張などで思ったようにプレーできないと、すぐに『私、イップスなんです』という方が増えてしまっているというケースが増えているのも事実です。イップスはメンタルが大きな原因の一つであるのは、間違いないかと思いますが、特にアマチュア選手は、技術的にまだまだできることがありと思いますので、そちらに注意を向けることで、結果的に心理的な効果があることもあるような気がします。」

石原「なるほど、『何でもかんでもイップス』、ではダメですよね。それから、実は『イップス』と『シャンク』の違いについても、教えて頂いても宜しいでしょうか?」

神田プロ「シャンクですか?イップスとシャンクは、全く別物ですよ!」

石原「最近、イップスとシャンクは似ている部分があるのではないか、と言う研究者もいます。両者には、どのような違いがあるのか、教えていただけますか?」

神田プロ「シャンクは、そもそも完全に技術的な原因によるものです。どうしてもシャフトの根っこで、インパクトしてしまう、きちんとフェイスでインパクトできない、野球で言えば、ファールチップみたいなものですね。シャンクは、きちんと当たっている感覚を増やすという技術的な練習で改善することが一般的です。」

石原「野球でいうところの、ファールチップ、すごくわかりやすく、理解できました!そのお話をお聞きすると、シャンクとイップスは、混同すべきではありませんね。技術的なトレーニングで十分に改善できるシャンクに対して、メンタルの部分が大きいイップス。しかし、メンタルトレーニングは、今のところ、大きな効果はあがっていなそう、となりますと、神田プロからご覧になられて、イップスは、どのような考え方で取り組むべきだと思われますか?」

神田プロ「そうですね。イップスは多くの場合、競技問わず、何かしらの失敗経験が原因となって起こることが多いと思います。しかし実は、失敗経験に比べて、成功体験の方が圧倒的に多く経験しているはずなのです。それなのに、面白いことに、成功した経験は忘れてしまい、失敗した経験は記憶に感覚として残ってしまう。きっと、イップスは、失敗したことを『なんとか修正しよう、なんとか修正できる』と考える、器用な方に多いのでしょう。失敗は、どんなに上手な人にも起きるものなので、『どうにかしよう』と思いすぎず、『ダメでもいいや』くらいに構えていた方が、予防という意味でも、改善という意味でも良いかもしれませんね。」

石原「神田プロ、本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。」

実際に現場で数多くの方にレッスンをされているプロのお話は、大変貴重なものでした。新しい発見はもちろんのこと、私がこれまで取り組んできたことを再確認させていただく機会にもなりました。

まだまだ謎の多いイップスですが、引き続き真相解明に向けて地道に頑張っていきたいと思います。それではまた次回!

神田大介プロ(1978年生まれ) 1996年ドラフト5位で横浜ベイスターズ入団。プロ通算4勝を上げるも、故障によりプロゴルファーに転身。2013年PGAトーナメントプレーヤー転向。その長身を活かした300ヤード超のドライブはゴルフ界屈指である。
1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)