2018.12.11

[Season.2-12]

「イップス改善のために。(最終回)」


こんにちは。ハバナトレーナーズルームの石原です。今回で、約一年半に渡りお世話になりました、こちらのコラムも、最終回になります!基礎、理論編のシーズン1の12回では大変ありがたいことに御好評いただいたことで、現役のプロを始め、イップス経験のある方へのインタビューなど、実践的内容のシーズン2をお送りする機会も頂きました。

私が高校球児だった18年前、イップスに悩まされていましたが、当時はまだまだインターネットも今ほど普及しておらず、悩まされていた「症状」とイップスという「言葉」が結びつくことはありませんでした。イップスという言葉自体は、少なくとも野球界にはあまり知れ渡っていなかったこともあるかもしれません。 しかし、近年、アスリートがインタビューなどでイップスについて語る機会が増えたこともあり、メディアが一斉に取り上げ、ゴルフ発祥の「イップス」は、競技の枠を飛び越え、野球やダーツ、テニスやボーリング・・・と急速に認知度が高まりました。

メディアが伝えるイップスに関する情報に中には、正しいものももちろん多く存在しますが、学術的根拠に乏しいイメージ先行の記事も決して少なくはありません。全24回のコラムを通して、繰り返しお伝えさせて頂いて参りましたが、イップスには、未だに確立された治療法はおろか、すべての人が共有できる定義すらありません。そのため、コラムで私がお伝えすべきことは、まずは今現在わかっているイップスの正しい情報と、実際にイップスはどのようにプレーヤーたちを悩ませているのかという現状であると考えました。そして、それらの情報を元に考案した改善法も、お伝えさせていただきました。

今回は最後のコラムになりますので、イップスになってしまった時、どんな風に目の前のイップスのことを捉えるべきなのか、そして改善していく取り組みのアイデアを、可能な限りシンプルにお伝えさせて頂きたいと思います。

まず、イップスをどう捉えれば良いのか?

「失敗のイメージが強すぎるあまり、『どうにかしよう、どうにかできる』と思いすぎて、手先や指先が無意識に頑張りすぎている状態」

このように考えて頂きたいと思います。決してメンタルが弱いとか、技術レベルが低いとか、まして「自分はゴルフに向いていない」などと考える必要は全くありません。さらに、シーズン2−10で向江プロがインタビューでお答えくださりましたが、『どうにかしよう、どうにかできる』という意識は、人間が最も『どうにかするのが得意、どうにかできると脳が自信のある』部位、人差し指に仕事を過剰にさせようとするのではないかと考えられます。これは、まだ文献などでの学術的根拠はありませんが、いちイップスを研究してきた者として、非常に的を得られたご意見だと思います。

「どうにかしようとしすぎない」こと。

すごく難しいことだと思いますが、指先でコントロールして「どうにかしよう」と、しなくなれば、イップスは徐々に改善の方向に向かうことは間違いないでしょう。

イップスの場合、目の前で起きていることは、自分の意識の範囲外で起きていることなので、複雑に考えでしまいがちですが、このようにシンプルに症状を捉えることは、非常に重要なことです。

それでは、どのように改善のための取り組みを考えれば良いのか?

「プレーの難易度を下げて成功体験を積む」

字面にすると、抽象的に見えてしまうかもしれませんが、イップスの初期段階では、ほとんどの方が何を意識してもうまく行かない、いわば泥沼状態に陥りがちです。そこで失敗体験を繰り返してしまうと、失敗のイメージが積み重なってしまい、徐々にその動作を行うこと自体に「嫌悪感」が生まれてきてしまいます。いつも通りの道具で、いつも通りの握りでトライして失敗してしまうのであれば、指先が動かしにくい太めのグリップを使ってみたり、人差し指を動かしにくい握り方でスイングしてみたり、それぞれに「動作が成功しやすい」方法を見つけてトライしてみてください。

皆様は、これからもスコアに悩んだり、怪我に悩まされながらも、充実したゴルフライフを続けて行かれるものと思われます。しかしその中で、「イップス」という邪魔者に、突然襲い掛かられてしまう可能性は誰にでもあります。飛距離や、アプローチの技術は、練習量を重ねていくうちに向上していくものと思われます。しかし、イップスはやみくもに練習を繰り返しても、むしろ悪い方法に向かってしまうことがあります。いや、悪い方向に向かうことの方が多いでしょう。

そんな時は、可能であれば、是非このコラムを読み返してみてください。きっと良きヒントになるのではないかと思います。私も、今よりもっと、優れた改善法を皆様にお伝えできるよう、日々精進していきます。

それでは、一年以上に渡り、イップス一本のコラムにお付き合い頂き誠にありがとうございました。これからも充実したゴルフライフを続きますこと、心よりお祈り致しております!

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)