2020.1.23

[vol. 028]

旅の宝もの


旅するひと = 大宅映子おおや・えいこ

1941年東京都出身。評論家、公益財団法人大宅壮一文庫理事長。PR会社勤務を経て1978年からマスコミ活動を開始。扱う評論ジャンルは国際問題・国内政治経済・食文化・子育てなど幅広く、大所高所からの視野と同時に個人の立場で発言する切れ味のよいコメントが好評。『大宅壮一のことば「一億総白痴化」を予言した男』、『女の才覚 ~日本の女性が失くしてしまったもの~』、『親の常識』など著書多数。ゴルフ歴30年、ベストスコア80。

南島、27回目の冬休み

ニュージーランドのミルブルックリゾート。リマーカブルズ山脈を望む650エーカーの敷地に27ホールのゴルフコース、フェアウェイヴィラ、スパ、フィットネスセンターなどが点在する。

ニュージーランドの南島にあるミルブルックリゾートは会員制の総合リゾート施設です。創業者は石井栄一さんという日本の方で、彼が夫の親友だったことから私達も1993年のオープンと同時にメンバーになりました。
最初に話を聞いた時は正直なところ、都会から離れた田舎の町に人が集まるの?とも思いましたが、仮オープンの時に行ってみると、これが予想をはるかに上回る好印象。いっぺんで気に入ってしまいました。人も自然も建物もゴチャゴチャしたところがなく、ほとんど観光地化されていません。ニュージーランドという国自体、広さや気候は日本とさほど変わらないのに人口はわずか当時300万人足らず(現在は約500万人)。人が少ないことも関係していると思いますが、日本と比べると目にする広告の量が極端に少なく、街に落ち着きがあります。どこでもロード・オブ・ザ・リングのような映画のロケ地になれそうと思ったものです。

南島最大の大都会、クライストチャーチの第一印象も最高でした。街の中心をエイボン川がゆったりと流れ、花と緑にあふれる景色は愛称のガーデンシティそのもの。住宅街を歩いても、手入れの行き届いた美しい庭をよく見かけます。例年2月には個人宅の庭を対象としたコンテストが行われ、丹精込めたイングリッシュガーデンの出来栄えを腕自慢達が競います。受賞歴のある庭を巡る現地ツアーも行われていて、こちらもおすすめです。

左上=窓の外にフェアウェイが広がるミルブルックリゾートのレジデンス。
右上=花に囲まれて食事ができるクライストチャーチ植物園の中のレストラン。
下段=ミルブルックのゴルフコースで孫達と一緒に。

ミルブルックリゾートのあるクイーンズタウンへは、クライストチャーチから国内線でおよそ1時間。空港から20分ほどのドライブで到着します。
石井さんがかつてゼロからスタートさせたリゾートは今や5つ星の評価を得るまでになりました。ニュージーランド出身の伝説のプロ、Sir.ボブ・チャールズに設計を依頼したコースはコンディションもよく、周囲のダイナミックな景観を生かしたホールデザインを存分に味わえます。2008年にはグレッグ・ターナー設計の9ホールが新たに加わって、ニュージーランドでも数少ない27ホールのコースに。さらに近い将来、36ホールに増える予定だそうです。
私達は冬になると家族とミルブルックで過ごすようになり、娘や孫と一緒に真夏の休日を楽しんでいます。

以前は今ひとつだった食事も近年はだいぶ洗練されてきました。それには国産ワインの功績が大きいと思います。ルイヴィトンのグループ企業が南島北部に誕生させたワイナリー、クラウディー・ベイのソーヴィニヨン・ブランが世界のトップ10に入り、赤ワイン品種のピノ・ノワールもニュージーランドは世界三大生産地の1つとして確固たる地位を築いています。
美味しいワインができれば、料理の味も当然、磨きがかかります。ラムやサーモンを使った地元料理やフレンチ、イタリアン、日本食はもちろんのこと、タイ、インド、トルコ料理などのセンスのいいレストランが次々にオープンして選択の幅が広がりました。

上段=ミルブルックリゾートのダイニングにて。
左下=クライストチャーチには英国伝統の本格的なハイティ(アフタヌーンティ)を楽しめる店も。
右下=郊外のワイナリーに出かけるのもおすすめ。写真はニュージーランド最大のブドウ栽培面積を持つ南島北端の町、マールボロ。大小150以上のワイナリーがある。

年に一度の名コースツアー

同窓生グループのスコットランドツアーでラウンドが実現。セントアンドリュース・オールドコース。

50歳でゴルフを始める前は15年間、テニスに打ち込んでいました。努力した分だけ報われるテニスと違い、そうとは限らないのがゴルフです。何年やっても突然、当たらなくなるし、シャンクも出る。木に当たって池に落とす人もいればグリーンに乗せる人もいます。これほど不平等なスポーツは他にありません。でも、この理不尽さが面白いのも事実です。強引に押し通すだけでもいけないし、時には引いたり、すり寄ったり。私はテニスという素直な正妻を捨てて、ゴルフという悪女にハマってしまったんだ……。そんなことを考えたりもしています。

世界中に素晴らしいゴルフ場がたくさんありますが、ポルトガルに別荘を持っている友人のところへ集まってゴルフをしたことがきっかけで、2002年に国際基督教大学の卒業生が集まってICU GOLF LOVERSという名のグループを結成しました。年に一度、世界のどこかで1週間、ゴルフ三昧というグループです。行先はスコットランド(セントアンドリュース、ターンベリー、グレンイーグルス)、ペブルビーチ、マウイ島のカパルア等々。他にもポルトガルやスペイン、ニュージーランド、スキーリゾートで知られるコロラド州ベイル、国内では沖縄、北海道にも行きました。

20人のメンバーは夫婦5組、残りは1人。私の期が中心で上も下もいます。行先も予約もその年の役員が直接手配しますから市販のツアーの半額ほどでできるのです。個が確立していて語学もできるICUならでは。 だから全員、現地集合・現地解散が決まりです。
このゴルフツアーは2018年にいったん終了しましたが、実にたくさんの思い出を残してくれました。

左上=ターンベリー(スコットランド)。右上=カパルア ゴルフクラブ(ハワイ・マウイ島)。
左下=ベイル(米コロラド州)。右下=ICU GOLF LOVERSのメンバーの1人が毎回撮影&編集。
みんなにプレゼントしてくれたフォトアルバム。

グリーンブライヤーでの出来事

1778年開業のザ・グリーンブライヤー。アメリカ歴代大統領45人のうち27人が訪れた。全710室の客室の中には中庭のある7ベッドルームの超豪華スイートも。

ウィスコンシンで仕事をした帰り、ホワイトサルファースプリングスにあるザ・グリーンブライヤーまで足を延ばしたことがありました。そこはアメリカの歴代大統領が避暑に訪れることから”サマー・ホワイトハウス”と呼ばれるようになった全米屈指のリゾート。巨大なホテルに18ホールのゴルフ場が3コース付帯し、そのうちの2コースでPGAツアー競技が開催されています。
ウェストバージニア州の人里離れた温泉地にあるので辿り着くまでが大変ですが、一歩足を踏み入れればそこはキラキラの別世界。まるでひとつの街のようになっています。滞在している人達がまたゴージャスで、女性はロングドレスを当たり前のように着ています。私も海外のリゾート地で過ごせるくらいの準備はして行ったつもりでしたが、普通のレベルではありません。後悔しても時すでに遅し。品よくドレスを着こなすマダム達を横目で眺めるばかりでした。

そんな華やかな表舞台とは正反対の『Bunker Tours』なるものが行われていることを、私は客室のテレビで流れていたホテルの案内番組で知りました。バンカーといえばゴルフ場の砂場と思いますよね。それが違うんです。
それはアイゼンハワーの冷戦の時代、ホテルの地下に造られ、機密扱いにされてきた巨大なThe Bunker(地下シェルター)。米国議会の議員とそのスタッフを収容するのが目的で、緊急時には1100人が1カ月以上暮らすことも可能だったそうです。中には議会場はもちろん、病院やショッピングモールまで完備していたというから驚きです。
約30年間にわたって極秘裏に維持と更新を続け、使用可能な状態を保ってきましたが92年、ついに情報解禁となり、ワシントンポストが報じたことで広く知られる存在になりました。その後95年にThe Bunkerは廃止され、ザ・グリーンブライヤーとのリース契約も終了して、今では1人39ドルの見学ツアーが行われています。

グリーンブライヤーといえば、かつて私が日本のグリーンブライヤー(ザ・グリーンブライヤーウェストヴィレッジ。現・グランディ那須白河ゴルフクラブ)の理事をしていた時のことです。そこで行われた日米の会議に出席した際、来日していたサム・スニードに会うことができました。
昨年のZOZOチャンピオンシップでタイガー・ウッズが米ツアー史上最多に並ぶ82勝目を挙げたことが大きな話題になりましたが、その大記録の持ち主がサム・スニードその人です。
彼は2002年に90歳で亡くなるまで、ずっとザ・グリーンブライヤーでヘッドプロを務めていました。
感動の対面を果たした私は彼に「アイアンがうまく当たらなくて困っています」と伝えると、「ちょっと振ってごらんなさい」と思わぬ展開に。言われるままスウィングすると、「左手の中指と薬指を使って少しキュッと引っ張り下ろすように動かすといいよ」とマンツーマンでレッスンしてくれたのです。そのとおりに試してみると、「ああ、それでいい。もう大丈夫だ。じゃあね」と、スタスタと行ってしまいました。
職人気質の気難しい人だと思っていましたがとても話しやすく、わずか数分間の指導だったのに効果はてきめんでした。史上最も美しいスウィングと評された伝説のプロから直々に受けたレッスン。これもまた大きな宝ものになりました。

ザ・グリーンブライヤーの館内はどこもゴージャス&エレガント。敷地内には評判のミネラルスパやカジノクラブなどを完備。会議室は40カ所。エントランスロビーだけでも10カ所ある。

クライストチャーチ~クイーンズタウン 見どころガイド
  • クライストチャーチ植物園
    1863年創設。ニュージーランド最大、30ヘクタールの規模を誇るボタニックガーデン。午前7時から開いているので朝の散歩にも最適(入場無料)。有料のガイドツアーも行われている。
  • パンティング・オン・ザ・エイボン
    エドワード朝時代さながらの衣装の案内役が漕ぐ小舟に乗り、穏やかな流れのエイボン川をゆったり進むアクティビティ。“庭園の街”の眺めを堪能できる。大人1人NZ$30(約2200円)。
  • テカポ
    テカポ湖とその周辺は世界有数の星空観賞スポット。ユネスコの星空保護区にも指定された。日中、ミルキーブルーに輝くテカポ湖の美しさも必見。現地ツアーが各種行われている。
  • Church of the Good Shepherd(善き羊飼いの教会)
    テカポ湖畔に建つ小さな石造りの教会。祭壇の奥にある窓から湖とサザンアルプスの景色を望むことができる。近年は撮影スポットとして旅行者に大人気。結婚式を挙げるカップルも多い。
  • 蒸気船クルーズ
    ニュージーランドで3番目に大きいワカティプ湖を昔懐かしい蒸気船TSSアーンスロー号で遊覧。食事や羊の毛刈りショーなどをセットにしたツアーも各種実施している。
  • ミルフォード・サウンド
    南島の西海岸側に広がる景勝地(世界遺産)。クイーンズタウンから車で約4時間。日帰りや1泊のクルーズツアーもあり、氷河が創りあげたフィヨルドの絶景を間近に眺めることができる。
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ミルブルックリゾート
オセアニアのベストゴルフリゾートに選ばれた実績を持つ5つ星リゾート。ゴルフコースは地元の景勝地の名前がついたThe Remarkables Nine、The Coronet Nine、The Arrow Nineの27ホール(9591m P107)。ツアー競技のニュージーランドオープンの開催コースにもなっている。プレーフィNZ$85~NZ$195(約6,200円~14,100円)。
ニュージーランド政府観光局
ニュージーランド旅行について知りたい情報が満載。
ChristchurchNZ
クライストチャーチ、カンタベリーの公式観光ガイド。
Queenstown New Zealand
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旅愁という翻訳唱歌をご存じでしょうか。旅先の風景に、故郷を重ねてしまうのは世界共通のようです。