2020.7.17

[vol. 034]

東西リンクス紀行《前編》


旅するひと = 大江 旅人おおえ・たびと

アートディレクター。音楽、映像、ファッションなどのブランディングやデザインを数多く手がけ、オノフのブランドプロデューサーも務める。2018年、沖縄県那覇市天久にオノフのショップ&カフェ『houseONOFF』をオープン。ストレンジ・フルーツ代表。ゴルフ歴34年、ベストスコア72。

ロイヤル・ドーノックでスターターと。

ONOFFのふるさと

グレートブリテン島の北端、北大西洋に面したダーネスの町。

心に残るゴルフコースは皆、海沿いにあります。オノフのイメージを形作ったのも、撮影をしに出かけたのも、生活の拠点のひとつである沖縄で普段着のゴルフをする時も、海を見て、風に吹かれるコースをごく自然に選んできました。
オノフというブランドをスタートさせる時に指針となったゴルフコースがスコットランドにあります。ダーネス・ゴルフクラブ。超名門倶楽部が数多ある国においては極めて新参ですが、地元の有志の皆さんが集い、育てている9ホールの実にチャーミングなゴルフ場です。

オノフのロケーション撮影は、本場にあって、しかもあまり知られていないリンクスで行おうと決めていました。候補地を探しに探し、ついに見つけたのがグレートブリテン島の北の果てにあるダーネスでした。
スコットランドの人たちでさえ、ここをご存じの方はそう多くはないようです。日本人は過去に個人旅行で訪れた方が1人だけいらしたと聞きました。

コースは3人の地元ゴルファーによって設計されました。浜から高台へと上っていく地形を利用した打ち上げ、打ち下ろしが意外と多く、海風と相まってかなりタフにできています。殊更、飾り立てず、プレーヤーを甘やかさず、行けばゴルフと素直に向き合える。オノフの世界観を表現するのにこれほどしっくりくる場所はありませんでした。

ダーネスGCにて。右は映像作家の堀田明宏さん。無人のハウスではプレーフィを料金箱に収め、順次スタートしていくのが決まり。

マクリハニッシュからドーノックへ

スコットランド南西部、キンタイア半島の南端にあるマクリハニッシュの村。写真中央の入り江に面しているのがマクリハニッシュGC、海越えの1番ホール。

スコットランドでの撮影は2002年と16年の二度行い、02年の時はダーネスの他にも行くべきリンクスを2つ決めていました。1つめはマクリハニッシュ・ゴルフクラブ。薦めてくれたのはジェフリー・アーチャーなどの作品で知られ、スコットランドにも詳しかった翻訳家の永井淳さんでした。あの人から「グラスゴーに行くのなら、あそこは絶対にプレーしたほうがいい。1番ティに立ったらしびれるぞ」と言われたら、行かないわけにはいきません。

国際空港のあるグラスゴーから海岸沿いにレンタカーを走らせ、途中でロケーションのいい場所を見つけてはクラブやバッグを置いて撮影を続け、最終的にダーネスに入るというスケジュールを組みました。
マクリハニッシュまでは空港から4時間ほど。ポール・マッカートニー&ウイングスのヒットソング『Mull of Kintyre』にも歌われたキンタイア半島の南端の村にあり、辺りはのどかでとても美しく、半島の小さな港からはシングルモルトウイスキーで知られるアイラ島に行くフェリーが出ていました。

1876年開場のマクリハニッシュ・ゴルフクラブは広大な砂丘に起伏のあるフェアウェイと波打つグリーンを配した、評判通りの素晴らしいリンクスでした。海とそこに浮かぶアイラ島、ジュラ島を見渡すロケーションはここならではのものですが、その分、風の洗礼は避けられません。1番は出だしから大西洋越えの424ヤード・パー4。永井さんが言っていたように、まさに圧巻のスターティングホールでした。

北スコットランド東海岸に面したロイヤル・ドーノックGC。隠れた宝石と呼ばれ、世界各地から“巡礼者”が訪れる。

2つめのお目当てはロイヤル・ドーノック・ゴルフクラブ。マクリハニッシュからブリテン島を横断して東海岸に向かい、ネス湖から50マイルほど北上したところにある屈指の名門クラブです。クラブの設立は1877年ですが、1616年からすでにここでゴルフが行われていたという記録も残ります。コースも格式も申し分ないのに全英オープンが開催されたことがないのは、あまりにも遠すぎるからだと言われているそうです。

この時はコースに隣接するロイヤルゴルフホテルに宿をとりました。食事のおすすめはシーフード。スコットランドを旅していると、北に行くほど海産物がおいしくなるような気がします。そして朝食の定番はポリッジです。オーツ麦を煮たおかゆ(オートミール)ですが、アメリカのように甘くすることはほとんどなく、塩コショウで調味して食べるのが一般的なようでした。苦手な人もいるそうですが私は大好物。寒い朝も体を温めてくれる、ありがたい存在です。

早朝、ホテルを発ってさらに北上を続けると、宿や食事のできる店がある最後の町、タン(Tongue)に到着します。グラスゴーからすでに450マイル(720km)は走ったでしょうか。道中は絶景の連続で退屈している暇などなく、雲間から差し込む光が海を照らした時の神々しさは言葉では言い尽くせないほどです。

タンからダーネスまではあともう少し。1時間ほどの道のりです。
スコットランドの北の果てに見つけたゴルフの故郷、オノフの原点。三度目の来訪の予定はまだ決まっていませんが、いつだってまた行きたくなる場所です。

上の写真はロイヤルゴルフホテル。客室からはロイヤル・ドーノックGCと海の景色を望むことができる。
右下はスコットランド名物の手長エビ。

沖縄の拠点

沖縄本島の東海岸にあるカヌチャゴルフコース。

1年の半分を沖縄で暮らすようになって約10年が経ちました。ここは素朴さと洗練とが上手に共存していて、お年寄りを敬うことを忘れていない素敵なところ。もちろん、ゴルフをするにも最適です。地元ゴルファーは仕事帰りか仕事の前に近所のコースに寄ってスループレー。みんなが普段着のゴルフを1年中楽しんでいます。

私は沖縄にいる時はカヌチャゴルフコース、東京にいる時は大洗ゴルフ倶楽部で、やっぱり海を見ながらゴルフをしています。
大洗はゴルフを始めた当初からずっと通い続けているゴルフ場です。最初のうちは先輩に連れて行かれてまったく歯が立たず、何度も痛い目にあいましたが、次第に設計の素晴らしさを理解できるようになり、各地の井上誠一設計コースの巡礼にも出かけました。
実は、オノフのブランドを立ち上げる時、最初に作ったコンセプトのビジュアルは大洗の景色を使って作りました。コースを歩いてスナップショットを撮り溜めた時のことを今もよく覚えています。

カヌチャに通うようになったのはオノフの初期モデルが出た頃、辛 炫周(シン・ヒョンジュ)プロが合宿をしていた時に彼女の練習スナップを撮りに行ったのがきっかけでした。そこが今では自分が日常的にゴルフをする場所になっています。風光明媚なリゾートコースという印象 があるかもしれませんが、フェアウェイのアンジュレーションが複雑で、加えて海風の計算が難しく、何度回っても飽きません。付帯施設が整っているので、オフシーズンはプロゴルファーやトップアスリートがトレーニングに励んでいる姿も見かけます。

2018年、沖縄県那覇市天久にオープンしたhouseONOFF。ショップにバーやライブラリー、レッスンスペースなどを併設、大人の隠れ家として親しまれている。

友人が集まった時にも使えるようにと建てた小屋がカヌチャから車で3分の場所にあり、ゴルフがとても近い生活を送っています。今回のコロナ禍でリモートワークがニューノーマルになり、近年は地方に仕事の拠点を移す人も増えてきました。私も今後はさらに沖縄に重心を移し、こちらを拠点に仕事ができないかと考えているところです。ただし、この辺りにWi-Fiがもう少し整備されてからの話ですが。

2018年には那覇市内にオノフのブランドコンセプトをそのまま体験していただける場所として、また、地元のゴルファーの皆さんが集う場所としてhouseONOFFをオープンさせました。ほぼフルラインアップで揃えたクラブやグッズ、それに合わせて世界中から選りすぐった服や小物類を扱うショップを中心に、館内にはバーなども備えています。最初はちょっとわかりにくいかもしれませんが、那覇空港から車で5~6分の埠頭を見下ろす高台にあります。沖縄にいらした時はお立ち寄りください。

左=伊良部島にある9ホールのパブリックコース、サシバリンクスにて。
右=仲間とのゴルフ合宿3日目の成果がこれ。沖縄の自宅にて。

大江氏推薦・沖縄でまちがいなしの3軒
  • 島豚七輪焼 満味(まんみ)
    やんばるで育った豚をやんばるで食す島豚ひと筋の専門店。
    「腕利きのシェフが焼いたあぐー豚は絶品。シンプルに塩コショウでどうぞ」
  • 沖縄そば いしぐふー
    小麦から育てた麺をはじめ器に至るまで、すべてにこだわる沖縄そばの店。
    「本当の沖縄そばを味わえる。houseONOFFにも支店を開いてもらったほど気に入っています」
  • ファーマーズマーケット やんばる
    JAおきなわの農作物直売マーケット。やんばるの特産品も豊富。
    「かなりレベルの高い食材が集まっている市場。よく買い出しに行っています」
Find Information
ダーネス・ゴルフクラブ
9H 5555Y P70(9H×2) 開場/1988年
地元ゴルファーが設計した9ホール。2面あるティを使い分けて2周する。18ホールのビジターフィは30ポンド(約4000円)、手引きカートのレンタルフィは2.5ポンド(約340円)。
ロイヤル・ドーノック・ゴルフクラブ
18H 6754Y P70 クラブ設立/1877年 設計/オールド・トム・モリス他
スコットランド最北部の名コース。米ゴルフ誌の世界ベスト100コースで5位に入ったチャンピオンシップコースの他にストラーコースがあり、こちらも英国トップ50リンクスにランクされている。
カヌチャゴルフコース
18H 6946Y P72 開場/1993年 設計/アガサリゾートデザイン
80万坪という国内有数のスケールを誇るリゾート内のコース。森に包まれ、海を見下ろすアウトと大浦湾を間近に望むシーサイドのイン。それぞれに趣の異なる絶景ゴルフを楽しめる。
houseONOFF
沖縄県那覇市内。リノベーションした琉球古民家にセレクトショップやバー、ライブラリーなどをゆったり配した大人の隠れ家。
Pickup Item

沖縄に似合う色は何でしょう。オレンジ、イエロー、グリーンが浮かびます。旅行に出かけにくい環境ですが、想像の中でする旅も、旅の一種だそうです。