2021.1.26

[vol. 039]

ショートトリップの行き先


旅するひと = 阿川 佐和子あがわ さわこ

1953年生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米し、帰国後、エッセイスト・小説家に。『ああ言えばこう食う』(檀ふみとの共著。講談社エッセイ賞受賞)、『ウメ子』(坪田譲治文学賞受賞)、『婚約のあとで』(島清恋愛文学賞受賞)、『聞く力―心をひらく35のヒント』(2012年年間ベストセラー第1位)、『正義のセ』、『強父論』など著書多数。最新刊に『ばあさんは15歳』(中央公論新社/2021年)。2014年菊池寛賞受賞。2007年の父・阿川弘之氏に続き親子受賞した初のケースとなった。ゴルフ歴17年、ベストスコア89。

撮影/枦木 功

51歳デビュー

5日連続でラウンドしたバリ島で。

ゴルフを始めたのは今から17年前のこと。51歳の誕生日の1週間後に、あるテレビ番組のコンペに誘われたのがきっかけでした。それまでゴルフとは無縁の生活を送ってきたので知識も関心もありません。社会見学でもしてくるかと軽い気持ちで出席を決めました。

周囲に言われるまま靴と中古クラブを買いに行き、少々の練習をして千葉県のあるゴルフ場に出かけると、ベテランゴルファーのタレントさんが真剣な面持ちでおっしゃいます。 「たくさん打つのは仕方ない。だが、後ろの組を待たせるようなことは決してあってはならない。構えたらモタモタせず、素振りは1回限りとするように」

ちょっと緊張しましたが、いざスタートしてみるとこれが実に面白い。初めてのラウンドであっという間に夢中になりました。その日から、緑の中に白いものがあるとボールに見えてしまうし、ネットが張ってあるのを見かけると練習場かしらとキョロキョロしてしまう有り様です。 研鑽を重ねた結果、100を切れるようになり、タイ、バリ島、ハワイと各地に遠征する機会も増えていきました。

バリ島では5日間で5ラウンドしたこともありました。タイのゴルフ場と同じようにキャディさんがマンツーマンで付き、ティからグリーンまで片時も離れずお世話をしてくれます。同伴プレーヤーも同じ状況ですからそれぞれがキャディさんとばかり顔を突き合わせることになる。仲間との会話がほとんどないままホールアウトという不思議なラウンドになることもしばしばでした。

左=軽井沢で行われたゴルフ大会で長年のお友達と。
中=御殿場にて。
右=バリ島のキャディさんは可愛らしくてサービス満点。

ここ数年はプライベート旅行をする時間もままならず、遠出をするのは仕事だけという状況が続いています。そんな中にあって唯一、休日旅の気分を味わえるのがゴルフ。最近はもっぱら関東近辺のコースに出かけています。 先日はお友達に誘っていただき、大洗ゴルフ倶楽部に行ってきました。これが二度目の挑戦で、今回は1泊2日2ラウンドと時間もたっぷり。予想通り松林の洗礼を受けましたが、私にしては上々のスコアで上がることができ、ちょっとほっとしています。

回数を重ねるうちにレディスティでは物足りなくなってきて、近頃はレギュラーからまわる面白さがわかるようになりました。もちろん、初ラウンドの時に聞いた「素振りは1回」の教えは今もちゃんと守っています。

左=プレー中にはこんな出会いも(いずれも本人撮影)。
右=あとちょっとでホールインワン! 東児が丘マリンヒルズゴルフクラブで。

1人ラウンドの貴重な経験

ゴルフ倶楽部成田ハイツリーはいつ行っても居心地のいい場所。

ここ数年、よく通っているのが千葉県の成田ハイツリーというゴルフ場です。知り合いのご夫婦に誘っていただいたところ大いに気に入り、私も入会を決めました。 開場当初からのメンバーであるお2人によると、ここは創設者である高木工業の社長の高木さんのお名前から「高い木」=「ハイツリー」というコース名になったとか。 高木さんはコースをそれは大切にして、首にタオルを巻いた作業着姿で自ら樹木の手入れをされていたので管理の人によく間違われていたそうです。 私が入会したときはすでに亡くなられていてお目にかかることはできませんでしたが、その精神は今も受け継がれ、隅々まで手入れの行き届いたコースと見事な植栽が目を楽しませてくれています。

キャディさんともすっかり仲よくなりました。地元から通っているベテランキャディさんは時々、キュウリやトマトをくださいます。コース内の木や花にもとても詳しくて話がつい弾んでしまうことも。このほのぼのとした雰囲気がたまりません。 華美なところがなく、小洒落た演出もないけれど、自由気ままに過ごせて居心地がいい。何度通ってもまた行きたくなるゴルフ場です。

広大な敷地に18ホールがゆったり展開。コース内は丹精された庭園の趣で桜、睡蓮、紅葉など四季折々に違った表情を見せる。

成田ハイツリーへは夫婦で行くことが多いのですが、前日になって夫の都合がどうしてもつかなくなったことがありました。仕方ないな、予報も雨だし。また今度ね。と思って翌朝起きるとすっきり晴れている! どうにも諦めがつかずブツブツ言っていると「1人で行って来たら?」という夫のひと言が。誰かの組に入れてもらえばいいや、と家を飛び出しました。

ところが行ってみるとどうも様子が想像していたのと違います。すでに10時近くになっていたので、入れてもらえそうな組どころか人がいないのです。最後の頼みの綱の研修生クンは忙しそうにしていてこちらもダメ……。結局、1人でまわることになりました。

キャディさんをお願いするまでもないからとセルフにしたので完全に1人きり。前はとっくにいないし、後ろも来る気配がありません。そこで私は思いつきました。1人2役で2人分のスコアをつける2ボールプレーをしようと。 マスター室の了解を得て、白とオレンジのボールを用意して、それぞれに「シロサワちゃん」「アカサワちゃん」と名前を付けて1人マッチが始まりました。

貸し切り状態のコースで2球ずつ。楽しそうと私も最初は思っていましたが、実際にやってみるとこれが大変。同じようなところに2つきちんと飛ぶことがなく、たとえ同じところから打てても2球目だからうまくいくということもなく、しっかりバラけてくれるのでいつもの何倍も疲れます。 ボール探しに追われ、「アカサワちゃん、どこ行った?」「シロサワちゃん、しっかり!」と独り言が多くなって、寂しさを感じるどころではありません。2人分のスコアは途中で分からなくなるし、最後は腰も痛み出す始末でした。

左上=ハウス前のテラスは目の前にコースが広がる特等席。
右上=練習グリーン。よく手入れされてスペースも広々。
下段=ハウス内には倶楽部の歴史を振り返る展示スペースやコース設計を手がけた石井朝夫プロの功績を紹介するコーナーも。

寄り道の楽しみ

大栄インターに向かう途中にあるタイ食材のお店。掘り出し物がいっぱい。

成田ハイツリーの最寄インターは東関道の成田と大栄。距離がさほど変わらないのでメンバーや常連さんも成田派と大栄派とに分かれます。私は長らく成田派でしたが最近、大栄派に鞍替えしました。レストランのシェフをしているゴルフ仲間が、近くにおすすめの青果店があると教えてくれたからです。 大栄インターから3分ほどのところにある『大栄青果小売市場』というそのお店はとにかく安くて新鮮! 日によって品物も値段も変わりますが、抱え切れないほど大きな束のネギが100円だったり、20本くらい入ったキュウリが198円だったこともありました。 手作りのこんにゃくや揚げ餅など、出合えたらラッキーという不定期販売の人気商品もあって目が離せません。

市場の少し手前には『広川』という落花生のお店もあります。明治創業の老舗問屋さんが開いている売店で、ここはゴルフ場で教えてもらいました。さや煎りや料理に使う生豆などそれぞれにおいしく、お土産にも最適。寄り道がますます楽しくなりました。

左上=『大栄青果小売市場』。さつまいもやキャベツなど自家農園産の野菜は特にお買い得。 右上=千葉名物、落花生の『広川』は天日乾燥にこだわる老舗。下段=タイの食料品を扱う『ソンチッチャルーン』。フレッシュなハーブやタイのソーセージも手に入る。

ある日の帰り道、落花生のお店から青果市場に向かう途中に不可思議な看板のお店を見つけました。平屋で大きなガラス窓のある建物なのですが、中の様子が分かりにくく、どこか近寄りがたい空気を感じます。ネットで調べてみてもヒットせず、ゴルフ場のスタッフさんに聞いても知っている人はいませんでした。

その後もお店の前を通るたび、気になって仕方がありません。運転席から目視すること数回、ついに車を停めて入ってみることにしました。 恐る恐るドアを開けると、なんとそこはタイの食料品店。入り口近くのレジに、おそらく日本人ではない方がいて、その傍らにはテーブルと椅子の置かれたちょっとしたスペースもあり、タイのカレーやラーメンを食べられるようになっています。

小型の業務用スーパーのような売り場はグリーンカレーの素やココナッツミルク、麺類と品数豊富。店員さんとのやり取りは英語交じりの片言の日本語で行います。 うれしかったのは冷蔵ケースの中にレモングラスやコブミカンの葉っぱが並んでいたことでした。都内でも新鮮な野菜やハーブを扱っているお店は貴重で、ずっと探していたタイのソーセージも手に入れることができました。

ちょっと難しい店名はいまだに覚えることができていませんが、東南アジアに来たような雰囲気を毎回楽しんでいます。 近頃はラウンド中も「うちの冷蔵庫にアレはまだあったかな?」などと考えてしまい、ゴルフをしに行っているのか買い出しに行っているのかわからなくなってきました。 インターからわずか10キロほどの道のりでこれだけの収穫。開拓の余地はまだまだありそうです。[談]

地元推薦 成田グルメ

    成田名物、鰻の2大人気店をはじめ、地元ゴルファーの皆さんに聞いたおいしいお店をご紹介します。

  • 駿河屋
    1798年創業。成田山総門脇にある鰻料理の老舗。幻の大井川共水うなぎをはじめとする厳選素材を秘伝のタレが引き立てる。ラストオーダー16時(変更の可能性あり)。テイクアウト可。
  • 日本料理 菊屋
    江戸中期から続く料理店。ハリウッド映画の超有名監督や俳優も食したという鰻料理の他、季節の食材を使った日本料理も定評がある。テイクアウト、オンラインショップにも対応。
  • 中華 仁康(にこう)
    新勝寺の裏手に昭和40年開業。町中華ファンの間では知られた存在で、名物の餃子は阿川氏もお気に入り。モチモチの厚皮と野菜の甘みたっぷりの餡が癖になる。テイクアウトも可能。
  • ヴィネリア
    成田駅から徒歩3分のイタリア料理店。石窯で焼き上げるピッツァはナポリ産の小麦粉を使用。もっちりなのに軽い食感で人気がある。テラス席、個室も利用可。テイクアウトあり。
  • DINING PORT 御料鶴
    JALのグループ会社が手がける農家レストラン。機内食を再現したメニューや国際線ラウンジのカレーなどを味わえる。敷地内の農園ではフルーツ狩りも。成田空港から車で約10分。
Find Information
ゴルフ倶楽部成田ハイツリー
18H・7027Y・P72
開場/1978年 設計/石井朝夫
30万坪の敷地にゆったり展開する丘陵コース。
メンテナンスに定評があり、四季折々の草花や花木も美しい。LPGA認定コースとしてプロテストも行われている。
FEEL成田
成田市観光協会の公式サイト。観光情報やグルメ情報はこちらから。
大栄青果小売市場
大栄インターから約3分。プロも仕入れに来る青果店。自社生産の野菜は特に新鮮・格安。
広川
明治19年創業。天日乾燥・氷温熟成にこだわる落花生の加工問屋。小売りも行っている。
ソンチッチャルーン
大栄インター近くのタイ食材店兼レストラン。品数豊富で旅気分も味わえる。
Pickup Item

楽しい仲間とのラウンドにちょっとしたプレゼント持参されたらいかがでしょうか。パーを取ったらプレゼントとかもいいですね。