2021.6.15

[vol. 043]

空を見上げて


旅するひと = 森田正光もりた まさみつ

気象予報士、株式会社ウェザーマップ会長。1950年名古屋市生まれ。日本気象協会を経て、1992年日本初のフリーお天気キャスターに。同年、民間の気象会社ウェザーマップを設立。日本生態系協会理事、環境省の広報組織・地球いきもの応援団などの活動による環境問題や異常気象についての分析にも定評がある。趣味の将棋はアマ三段の腕前。現在TBSテレビ『Nスタ』(月、火)に出演中。『天気のしくみ-雲のでき方からオーロラの正体まで-【Web動画付き】』(共立出版)など著書多数。ゴルフ歴14年、ベストスコア118。

日食ハンター

アルゼンチン、メンドーサの高積雲。見たことがないくらいの雲が広がっていました(森田氏撮影)

2010年イースター島、2017年アメリカ、2019年アルゼンチン。私が旅に出る最大の目的は残念ながらゴルフではなく、皆既日食。これを見るためだけに地球上どこへだって足を運びます。一度見てしまうと何度でも見たくなる、周りからは「日食熱に浮かされてる」とか「もはやこれは日食病」とか言われています。

2010年の前にもハワイと上海ですでに二度挑戦していたのですが、雨や曇りで見ることができず、イースター島はまさに三度目の正直。 始まる前はにわか雨が降ったり次々と雲がわいて「またダメかぁ」と思ったりもしましたが、現地時間7月11日14時08分に皆既日食と遭遇することができました。
遠くの空から月の影が動いてきて、辺りが一瞬にして暗くなり、急にひんやりしてきます。神秘的ともいえる感覚です。視覚だけでなく、体感や意識の中にも日食は入り込んでくるのです。
そして現れるダイヤモンドリング……。片道30時間かけて行った甲斐がありました。

日本では2035年9月2日 に北関東で皆既日食が起こります。本州では1887年8月19日以来、実に148年ぶりの皆既日食。これを見るのが私の次なる目標です。

左=2010年7月、イースター島で見た皆既日食。右上=イグアスの滝で見た二重虹(いずれも森田氏撮影)。右下=2019年アルゼンチンへの日食旅で。

ゴルフのデビューは57歳

思い出のコースのひとつ、千葉県の姉ヶ崎カントリー倶楽部。

翻ってゴルフはどうかと言えば、出かける先は専ら近場です。
始めたのは50代も半ばを過ぎた頃。ゴルフダイジェスト誌から気象に関する原稿を頼まれ書いたところ、編集者の方から「いっそのこと、始めませんか?」とお誘いを受けたのがそもそもの始まりでした。

聞けば、私の『50代から始めるゴルフ』を企画にするとおっしゃいます。もともとスポーツが不得意でゴルフ用語もまったく知らない私がイチから道具を揃え、練習場に通い、コースを経験していくのです。
最初のテーマは「130を切る」でした。130とは当時、少々高めだった私の血圧の数値です(笑)。コースデビューでは180叩いたものの、その後なんとかこれはクリアすることができました。次の「60代までに100を切る」はとうとう実現することができませんでしたが、それでも連載は今も続いています。

お恥ずかしいほどの腕前ですが、楽しい思い出は尽きません。俳優のえなりかずきさんとのラウンドもそうでした。場所は千葉県の姉ヶ崎カントリー倶楽部。ボーカルグループRAG FAIRの元メンバーで気象予報士でもある奥村政佳さん、現在当社社長を務める森朗が一緒です。
なにしろ、ベスト70台のえなりさん以外は3人とも100が切れないヘタクソときています。うしろの組に迷惑をかけないようにと緊張しましたが、とてもいい方達で、お互いに声を掛け合って実にいい雰囲気。遠くから我々のプレーをあたたかく見守りながら、「あー、惜しい」「ナイスショット!」と応援してくださいます。これがなんとも楽しくて、忘れられないラウンドとなりました。

ブリストルヒルゴルフクラブ。フェアウェイに沿ってレジデンスが点在しています。左下は名物のメンチカツカレー。

忘れられないといえば、ゴルフ場で嫌いなものが食べられるようになったことがありました。同じく千葉県のブリストルヒルゴルフクラブに知り合いに誘われて行った時のことです。
レストランの人気メニューのひとつにメンチカツカレーというのがあるのですが、実は私はひき肉料理が苦手。美味しかった思い出があまりなく、遠ざけるようになっていました。
それでも「だまされたと思って!」という周囲のすすめに抗いきれず、食べてみるとこれが旨い! サクサクの衣に包まれたジューシーなひき肉は重たい感じがまったくありません。スパイシーなカレーとの相性もよく、食わず嫌いが一瞬にして解消してしまったのです。今こうして思い出すだけでもまた食べたくなる、衝撃の美味しさでした。

川崎国際生田緑地ゴルフ場は井上誠一氏の設計。住宅地に囲まれた都会のコースです。

遅くなって突然始めたからでしょうか、ゴルフ場は新鮮な驚きだらけです。例えば、コースの中に別荘があるのを知ったこと。ブリストルヒルではフェアウェイの脇に邸宅が建っていて、こんな世界があるのかとびっくりしました。

普段はまったく縁のない、スコアを競う経験もしました。TBSの関係者で『カワコクの会』というプライベートコンペを川崎国際生田緑地ゴルフ場で開いていた時期があり、それまでゴルフをしなかった私に「とうとう始めたか!」とお声がかかり、参加したのです。
幸い、順位は全体の真ん中ぐらいに入り、なんと人生初のバーディを取ることもできました。10年以上前のことですがあのうれしさは忘れることができません。
現在のTBSの社屋の辺りにはその昔、ゴルフの練習場がありました。当時は素通りしていましたが、もし今も残っていたら、赤坂に行くたびに通っていたかもしれません。

昔のスコアカードを眺めていると一緒にまわった人達やコースのこと、お天気のこと、様々な記憶がよみがえってきます。今はスマホの中に記録を残すことができますが、紙のスコアカードはやはり味があっていいものです。
コースは一昨年の暮れに行ったきり、練習も1年近く自粛が続いています。大空の下でのびのびと楽しめるような日が早く来るよう願っています。

お天気とゴルフ

ブリストルヒルゴルフクラブ 夏の風景。

現在放送中のNHKの朝ドラ『おかえりモネ』は、主人公が気象予報士を目指すお話です。フィクションではありますが、主人公が生まれた1995年の超大型台風12号をはじめ、時系列的にも気象学的にも矛盾なく描かれていると感心しています。
台風12号が三陸沖を進んだのは1995年9月17日。この日は台風の特異日で、1947年には各地に甚大な被害をもたらした「カスリーン台風」が12号と驚くほど似たルートで日本列島に接近しています。
ここで私はある考察を試みたのですが……。説明が長くなりそうなので、ご興味のある方はこちらをご覧ください。

今年のマスターズの3日目、松山英樹選手は「雷雨による中断のあとはグリーンスピードが少し落ちたのでいい感じで打つことができた」、「悪いショットで終わったが、中断後にいいショットが続いた」と話していたそうです。
プレーを再開した11番以降は1イーグル4バーディで単独首位に立った松山選手。天候がそれまでの流れや気持ちまでも変える可能性があることをあらためて感じた出来事でした。

とは言うものの、私は目の前のボールを打つのに精いっぱいで、ラウンド中にグリーンや風向きを読む余裕など少しもありませんし(笑)、スタート前やホールアウト後の空いた時間は空を見上げて写真ばかり撮っています。

今年は前倒しで夏がやってきて、暑い時期が長く続くことになりそうです。気象庁はこの夏の気温を全国的に平年並みか高めと発表していますが、西日本で特に暑くなるのではと私は見ています。コースや練習場に行かれる際は熱中症予防に一層努められることをおすすめします。

森田さん推薦 空の絶景

釧路湿原の夕日(森田氏撮影)

釧路湿原(北海道)

世界遺産にも指定されている国内最大の湿原。釧路市湿原展望台からは果てしなく広がる湿原や釧路市街、阿寒の山々などを望めます。晴れた日の夕暮れは『世界三大夕日』のひとつと言われる絶景にも出合えます。

宍道湖(島根県)

国内7番目の面積を誇る汽水湖。刻々と表情を変える夕景の美しさで知られ、日本夕陽百選に選定。小泉八雲や田山花袋など多くの文人墨客にも愛されました。夕日の沈む方角は出雲大社などがある神々の里、出雲です。

Find Information
姉ヶ崎カントリー倶楽部
36H 東6831Y・西6828Y P144
開場/1960年 設計/谷口 忠、菅 浦一、金子安三 監修/林 由郎
36ホールの林間コース。ダンロップオープンなどの開催歴がある東コースは全組キャディ付き、西コースは選択制。コースコンディションやキャディの質の高さにも定評がある。
ブリストルヒルゴルフクラブ
18H 7020Y P72
開場/2009年 設計/ロドニー・ライト
都心から約1時間の千葉県富津市内。フェアウェイは洋芝。 季節の旬の野菜をふんだんに使った料理が自慢のレストランは食事のみの利用も可能(要予約。L.O.13:00)。
川崎国際生田緑地ゴルフ場
18H 6225Y P72
開場/1952年 設計/井上誠一
多摩丘陵の地形を生かした設計で起伏のあるフェアウェイや深いバンカーなど手応え十分。 グリーンはベントと高麗の2グリーン。東名川崎ICから4㎞、向ヶ丘遊園駅から車10分。
Pickup Item

初夏のゴルフには特別な味わいがあります。色付く樹々、少しクリーミーな空の色。オノフとともにお楽しみください。