2023.4.20

[vol. 057]

歌もゴルフも始まりは故郷・岩手から


旅するひと=福田こうへい

ふくだ・こうへい/1976年岩手県出身。民謡・演歌歌手。23歳から民謡を習い始め、2012年日本民謡フェスティバルグランプリなど数々のコンクールに優勝。『南部蝉しぐれ』でメジャーデビューを果たし、翌年の日本有線大賞・日本レコード大賞新人賞、2020の年日本レコード大賞最優秀歌唱賞を受賞。全国各地へのコンサートツアーを精力的に行い、公演回数(年間約150回)は日本一を独走中。今年4月12日にニューシングル『天空の城』を発売した。ゴルフ歴29年、ベストスコア72。

就職先はゴルフ場

岩手県の南部富士カントリークラブ(27ホール)。設計は全英オープンを5度制したリンクスの名手、ピーター・トムソン。数ある設計コースの中でも最高傑作といわれている。

私の最初の就職先は地元のゴルフ場、南部富士カントリークラブでした。高校を卒業してから23歳までの5年間、コース管理の仕事をしていたんです。
朝は当然早く、3交代制で4時出勤・12時上がりということもあります。グリーンやフェアウェイの刈り込み、機械のメンテナンスなど日常の業務に加え、ベントグリーンを夏越しさせるための水管理や、雨の予報が続く時はバンカーに雨水が流れ落ちないようにかさ上げをする土木工事を行ったりしていました。

ツアー競技やアマチュアの公式戦をたびたび開催してきたコースですから一定以上のレベルを求められますし、その一方で70~80組入るような日はエンジン音のする機械を使える時間帯や場所が限られます。学ばなければならないことはたくさんありました。

日本百名山の岩手山(南部富士)や姫神山の景観に恵まれたコース。グリーンの芝はオーガスタナショナルでも使われたニューベントのPenn A-2を使用している。

それまでゴルフは未経験でしたが入社と同時に始め、3年目の21歳の頃にはパープレーでまわれるようになっていました。最大の要因は、仲間や練習環境に恵まれていたことだと思います。

当時、南部富士では作業を終えたあとに自分でバッグを担いでラウンドすることができました。相棒は私と同年代の研修生、畠山一志くん。9ホール全部ではなく、戻って来やすいルートをショートカットしながら6~7ホールまわり、ホールアウト後、アプローチの練習をして上がるのが日課です。日照時間が長い時季は2人で7時半くらいまでコースにいたこともあり、いつしかこの時間が一番の楽しみになっていました。

最初の頃、私は親父(※民謡歌手の福田岩月さん)から借りたクラブを使っていたのですが、しばらくして自分には合わなくなり、給料を貯めて初めてのマイクラブを購入。親父にも新しいクラブをプレゼントしました。
ゴルフ場に家族を招待できる制度を利用して親子でラウンドしたこともありましたが、正直なところ、親父のゴルフはあまり上手とは言えませんでした(笑)。

四季折々の風景を楽しめる南部富士。左下はハウスの横に鎮座する桜清水稲荷神社。地域の五穀豊穣・繁栄と、来場者の安全・技術向上を願って建立された。

今もゴルフ場に行くとどうしても管理の仕方に目が行ってしまいます。例えばラフの落ち葉にしても、集めて違う場所に移すといいんですが、ブロワーでOB杭の外に飛ばしただけというところもあって、そういうのを見かけると、風でまた舞い戻ってきちゃうなと心配になったりします。
他にも、サンドグリーンか土のグリーンなのか、カップを毎回切ってるか切ってないかといったことも気になって、何年経ってもこの職業病は治りそうにありません。

地元のおすすめ

八幡平市上坊牧野(うわぼうぼくや)に咲く一本桜。桜の野生種の一種、カスミザクラの大木が残雪の岩手山を背景に花を咲かせる。見頃は例年5月上旬。

ゴルフ場勤務を経て、私は歌手に、畠山くんはPGAの資格を取ってティーチングプロになりました。2人ともいまだに県内在住です。
地元には同級生のゴルフ仲間もいますし、つきあいは昔と少しも変わりません。帰る場所があるのはいいものです。

この辺りは温泉もありますし、食べ物にしても海の物・山の物が豊富に揃います。ゴルフ場も、ざっと挙げてみただけでも南部富士に安比高原、雫石、盛岡カントリー、八幡平カントリー、盛岡ハイランド、盛岡南、岩手ゴルフ倶楽部……。特に、豪快に打ち下ろしていくホールの爽快感は格別です。

雫石ゴルフ場はR.T.ジョーンズJr.設計の36ホール。池を効果的に配し、グリーンは高速。リゾートコースと甘く見るとスコアはまとまらない。

盛岡は今年1月、ニューヨークタイムズの『2023年に行くべき52カ所』のひとつに選ばれました。日本では盛岡市と福岡市の2カ所だけという快挙に地元は大いに賑わっています。

市の中心部は城下町だった頃の風情が今も残り、歴史的建造物も多いので街並散策を楽しむことができますし、桜の名所の城跡公園やアユ釣りができる中津川など自然もたっぷり。『混雑を避けて歩いて楽しめる美しい場所』であることが評価されたそうです。
民藝運動ゆかりの地だけあって工芸品や民芸品を扱う店が多く、買い物に疲れたらレトロな雰囲気の喫茶店でくつろぐのもおすすめです。

上=中津川の対岸に見える建物はござ九・森九商店(1816年創業の雑貨商)。左下=市のランドマーク、岩手銀行中ノ橋支店(旧盛岡銀行本店。1911年築)。右下=旧第九十銀行を保存活用した『もりおか啄木・賢治青春館』の喫茶コーナー。

五木ひろしさんからのお誘い

1960年開場の磯子カンツリークラブ。時代に合わせたコース改造、改良を重ね、コンディションも常にベストの状態を維持している。

この業界でゴルフをご一緒する機会が多いのは五木ひろしさん、北山たけしさん。五木さんには磯子カンツリークラブにたびたび誘っていただいています。

横浜市内にある都会のコースは極端なアップダウンがなく、距離もそれほど長くはないのですがこれが意外と難しい。ここからなら難なく打てるだろうと思っていると、微妙なつま先上がりや左足下がりの複合ライになっているという具合で対応力が試されます。
ひと筋縄ではいかない、考えるゴルフの面白さを再認識させてくれるコースです。

隅々まで手入れの行き届いたコース。東京湾を望む高台にあり、周辺は住宅地。横浜駅から電車で20分の街中とは思えない空間が広がっている。

磯子はレストランの食事が美味しいことでも知られていて、特に中華料理が有名です。開場当初から香港の料理人を招いていたという歴史があるそうで、名物のシュウマイをはじめとするメニューはどれも絶品。中華街に寄って帰る必要がありません。
五木さんはいつもお土産にパンを持たせてくださるのですが、これも文句なしの美味しさです。

上=点心専用の厨房で毎日手作りしているシュウマイと、こちらも名物の『ぴんそば』(五目焼きそば)。下=苺のタルト(季節限定)と磯子あんぱん。デザートやパンも自家製で長年のファンが多い。

36歳でメジャーデビューして12年。今もコンサートツアーで1年中、日本のどこかに出かけています。1ステージで最低2時間は歌うので、最後のほうは着ているシャツが汗でグチャグチャです。
特に体力づくりなどしていないのに、こうして歌い続けることができているのはひとえにお客様の声援のおかげ。いつも最高のエネルギーをいただいています。

ゴルフは年間4~5ラウンドできれば、というペースですが、それでも何とか90は切ることができています。声をまっすぐきれいに伸ばすには腹式呼吸が肝心で、自然と腹筋や背筋が鍛えられ、それがスウィングにも役立っているのかもしれません。
目下の夢は、トーナメント最終ラウンドの翌日のコースをまわること。どれほど手ごたえがあるのか、機会があったらぜひ体験してみたいと思っています。

左下=ある空港で。移動が多いと時にはこんなこともあります。右下=番組収録の空き時間に。長い物を持つとつい……。

八幡平・盛岡
春~夏の観光情報
  • 八幡平ドラゴンアイ
    5月中旬~6月中旬、積雪量・雪解け・天候などの条件が揃うと姿を現す神秘的な景色。国立公園八幡平の山頂付近にある鏡沼の雪解けの様子が、まるで龍の眼に見えることからその名がついた。出現時期が短いので見られるかどうかは運次第。
  • 八幡平アスピーテライン
    全長約27kmのドライブコース。冬季通行止めが解除となる4月中旬からおよそ1カ月間は道路の両側に数メートルの雪が残り、『雪の回廊』の景色を楽しめる。
  • チャグチャグ馬コ
    200年以上の歴史がある伝統行事。農耕馬に感謝の意を込め豪華な晴れ着で飾り、100頭ほどの馬が滝沢市の蒼前神社に参拝後、盛岡八幡宮までの約13キロの道のりを4時間かけて行進する。今年は6月10日開催予定。
  • 盛岡さんさ踊り
    東北を代表する祭りのひとつ。和太鼓の敲き手と踊り手およそ3万人が盛岡市の中央通をパレードする。2014年に『和太鼓同時演奏の世界記録』としてギネス認定。毎年8月1日~4日に開催される。
  • 盛岡三大麺
    コシのある麺が特徴の『盛岡冷麺』(写真)、うどんに肉味噌をのせた『盛岡じゃじゃ麺』、ひと口サイズの温かいそばを次々と食べる『わんこそば』。市民のソウルフードは観光客も必食。
  • 温泉
    秘湯から規模の大きな温泉宿まで八幡平~盛岡周辺に多数点在。写真は八幡平の山間のいで湯、松川温泉。開湯以来約270年の歴史があり、川沿いに佇む3軒の宿には日本秘湯を守る会の会員宿も。
Find Information
南部富士カントリークラブ
27H 9838Y P108
開場/1972年
設計/ピーター・トムソン

岩手山(南部富士)の眺望と戦略性の高いレイアウトを楽しめる27ホール。過去に三菱ギャラントーナメントや岩手県オープンなどを開催し、トーナメントコースとしても知られている。昨年、GPSカートナビを導入した。
雫石ゴルフ場
36H 13552Y P144
開場/1984年
設計/R.T.ジョーンズJr.

ゆるやかな丘陵地に36ホールが展開。フェアウェイに洋芝を使用し、ベント1グリーンは高速で刺激たっぷり。敷地内に266室の雫石プリンスホテルと日帰り入浴も可能な温泉施設『雫石高倉温泉』を併設している。
磯子カンツリークラブ
18H 6607Y P72
開場/1960年
基本設計/館 粲児 改造設計/大久保 昌

横浜で60年以上の歴史を積み重ねてきた名門クラブ。時代に即したコースの改造・改良工事を行い、コンディションは常にベストの状態を保っている。レストランの料理はゴルフ場のクォリティを超えた美味しさと評判。
盛岡観光コンベンション協会
盛岡市内の見どころやイベントなどの情報を網羅した公式HP。
八幡平市観光協会
岩手山や安比高原など、八幡平市の観光情報はこちらから。
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コラムに登場する東北地方。いつかゆっくりとまわってみたい土地でもあります。自然やいろいろな施設を回りながらのゴルフ旅。民俗学が盛んな場所なので、趣深い日本の旅になりますね。