2017.9.21

[Part. 3]

動作の自動化


前回、イップスのキーワードの一つである「動作の自動化」について、簡単に触れさせて頂きました。おさらいの意味も込めて、改めて整理しましょう。

複雑にイメージされがちですが、イップスはシンプルに、「何も考えずに出来ていた動作が出来なくなってしまうこと」です。
この「何も考えずに出来る動作」は、少し専門的な言葉で「自動化した動作」と呼びます。

「自動化した動作」は、スポーツの世界だけではなく、日常生活にもたくさん見受けられます。毎朝起きて当たり前のように行なっている「歯磨き」や「顔洗い」なども、「ここをこう動かそう」などと考えずに行える自動化した動作の一つです。そしてイップスは、この自動化した動作において起こる症状なのです。

と、ここまでは前回のコラムでもお話させて頂きましたが、イップスの症状を説明する上で、動作の自動化は、非常に重要なキーワードで、まさに「肝」になる部分でもありますので、もう少し詳しくお話させて頂きます。

そもそも「運動の自動化」とは、運動学習の一つのステップであり、その最終段階にあたります。運動学習とは、次のように3つのステップに段階分けをすることができます。ぜひ、ご自身が「歯磨き」を学習されてきた過程をイメージしてみて下さい。

1:「認知」=「ものにする動作」を、主に目で見てイメージする段階
例:両親や兄弟が歯磨きをしているところを見て、実際には歯磨きを持たずにイメージする

2:「習熟」=認知した動作を繰り返し、認知した動作とのズレを修正する段階
例:「こんな風にやるのかな」と歯磨きをマネしたり、実際に歯を磨いてみて、「思っていたよりも弱く動かすんだなぁ」などと、上手に磨けるようにする。

3:「自動化」=動作を意識せず、他のことに意識をおいても動作を行なえる段階
例:テレビやスマホを見ながらなど、「歯磨きをしていること」を意識しなくても、歯磨きができる。

「例」の部分に、日常生活やスポーツの動作など、皆さんの周りにある「動作」に置き換えて想像して見て下さい。

■ゴルファーにとってショットは「歯磨き」と同じ??

上に挙げた3つのステップを踏んで、人間は動作を自動化し、「モノ」にしています。
もちろん「見て学ぶ」最初の「認知」も、頭の中のイメージを形作るのには非常に重要ですが、それだけで動作が自動化することは、ありません。憧れの選手のスイングを見て、「できそう」と思っても、実際に動いてみるとできないものです。

3つの段階である「習熟」のステップで、動作を繰り返し行い、失敗し、修正していき、何も考えずに動作を行える、最終段階「自動化」に繋がるのです。
そして、この動作を学習するステップは、もちろん歯磨きだけでなく、あらゆる動作に当てはまります。

お気付きの方も多いかと思いますが、ゴルフを熱心にやられている方にとって、(ゴルフを職業にしている方ならなおさら)スイングやショットは「歯磨きレベルに繰り返している動作」にあたるため、習熟を重ね、動作が自動化していることがほとんどです。

「まずは素振りから」「まずはキャッチボールから」

スポーツは、その競技の繰り返し行う動作を自動化する過程の連続であると言っても過言ではありません。
しかし、イップスは、皮肉なことに、苦労して「モノ」にしたこの自動化した動作において起こります。

次回は、なぜ自動化した動作においてイップスが起こってしまうのかを、具体的な例を交えながらお話しさせて頂きたいと思います。

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)