2017.10.5

[Part. 4]

イップスへの入り口


先日とある学会でイップスに関する発表をさせて頂きました。

お医者さんを始め、病院、研究関係者の方など、多くの方々に発表の場にお越しいただき、おかげさまで、盛況のうちに発表を終えることができました。選手のみならず、専門家の方々の間でも、イップスに対する関心が高まっていることを痛感いたしました。

さて、前回までにイップスの重要なキーワードの一つである「動作の自動化」について、そしてまたイップスは「自動化した動作の中で起こる」というところまで進めさせて頂きました。
しかし、

『「自動化した動作でイップスが起こる」って言われても、いまいちイメージがわかないよ!』

そんな方もたくさんいらっしゃると思いますので、今回は自動化した動作の中で、「どんな風に」イップスが起こってしまうのかということについて、具体的にお話させて頂きたいと思います。
「自動化、自動化」と毎回しつこいようで大変恐縮ですが、もう少しお付き合いください。

■調節しようとしてはいけない運動

前回お話させて頂いた運動学習の第2ステップである「習熟」のステージで、繰り返し運動を行なう中で、脳は一連の運動として動きをパッケージ化して記憶し、動作の自動化が達成されます。

ゴルフで例えると、「ショットを打つ」という運動は、腕のたたみ方や、関節運動の切り返しのタイミング、インパクトの力加減など、全て「ショット」という「ひとかたまりの」パッケージとして記憶していると置き換えることができます。

イップスは、そのパッケージ化された動作(自動化された動作)に対して、意識的な運動調節をしてしまうことで、脳が一種のパニックになっている状態あると考えることができます。

■「5万人の大観衆の前でのハエ叩き」できますか?

みなさん、一度はハエ叩きをしたことはあるかと思います。そうです、あの「ハエ叩き」です。

自宅でハエを発見しました。道具(ハエ叩き)を持って、対象(ハエ)に近づき、構えて(振りかざして)から仕留める(叩く)。もちろんハエ叩き自体を一日に何百回もされている方はいらっしゃらないかと思いますが、生まれてから様々な運動学習を重ねている中で、「道具を持って振りかざして対象を叩く」という動作自体は、ほとんどの方が自動化していることでしょう。

ご自宅では、ハエに気づかれないよう「ドキドキ」するかもしれませんが、特に強く何かを意識することなく、いつも通りのハエ叩きができるでしょう。

しかし、舞台が東京ドーム5万人の大観衆の前で、確実に1回で仕留めなければいけないという状況であったらどうでしょうか。

いつも通りにできる人もいれば、「観衆の視線」などにより、過剰に失敗を恐れてしまう人もいることでしょう。そしてその失敗への恐れは、「ハエの動き」や「叩くこと」ではなく、「叩く動作そのもの」に意識が向いてしまうこともあるのです。

「叩く動作そのもの」への過剰な意識が、自動化した動作に意識的な動作の調節を加えてしまう。
これは、まさにイップスへの入り口であると考えられています。

試しに皆さん、上記の(ハエ叩き)(ハエ)(振りかざして)(叩く)の部分を、それぞれ(ゴルフクラブ)(ボール)(バックスイング)(インパクト)と置き換えて想像してみて下さい。

なんとなく頷ける部分がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

さて、これまではイップスはどんな症状で、どんな風に起こってしまうのかを説明させて頂きました。次回からは、いよいよイップスを「治す」というステップに移りたいと思います。それではまた次回をお楽しみに!

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)