2017.11.16

[Season.1-7]

イップスの改善に「ルーティーン」


前回までに、イップスを改善していくための最初のステップである「状況を整理する」ことをお話しさせて頂きました。

モニタリングシート、リサーチシートは、実際にお試し頂いたでしょうか。
今回からは、イップスを改善していく具体的な方法について、お話させて頂きます。

まず一つ目にご紹介させて頂くのが、「ルーティーン」です。ルーティーンについては、イップスの対策以外の目的も含め、ゴルフ界では、ごく一般的に行われているため、「聞いたことがある」という方も多いのではないかと思います。

ルーティーンは「決まった手順」「お決まりの所作」「日課」などの意味を持つ英語で、スポーツの世界でも、そのままの意味で使われています。子供たちが、有名なスポーツ選手のモノマネなんかをしたりするとき、それはその選手のルーティーンだったりすることもよくありますね。

ゴルフは、ショットの際、いつアドレスに入るのか、アドレスに入ってからどのタイミングでショットを開始するのかなど、プレーヤーに広い範囲で自由が与えられていることが特徴です。野球の野手の送球のように、可能な限り早く投げなければいけないということは求められていませんので、イップスを起こすか起こさないかに限らず、ゴルファーの多くは「ルーティーン」を採用しています。

ルーティーンの作り方は、決して難しいものではありません。自分が最も「しっくり」くる動きのパターンを、どの環境でも状況でも行なえるよう練習で繰り返し擦り込む作業です。

本番では、繰り返し身に付けた一連の動作を行なうだけ。スポーツは、試合会場や、置かれた状況など、「初めて」の状況が多いものです。経験のないものに対して、脳は慎重になり、また不安になりがちなものです。その対策として、「いつも通り」に行なえる動作を持っていることは、大きな安心材料になります。最も不安を感じる「動作そのもの」(ゴルフの場合はショット)を、決まったルーティーンの中に組み込んでしまい、注意が集中しすぎることを防ぐことが期待されます。

競技性、動作自体に特に高い再現性の求められるゴルフのような競技では、ルーティーンとの相性が非常に良いと言われています。

しかし、イップスを起こしてしまうプレーヤーの中には、ルーティーンを作っても、ショットのときに一気に不安が高まり、体が思うように動かなくなったりしてしまう方もいらっしゃいます。

そこで、私が有効であると考えるのは、動作の決まりだけではなく、「リズム」の決まりを作ることです。イップスの多くは「不安」から生まれます。もし環境が許すのであれば、「タン・タン・ターン」でも「チャー・シュー・メーン」でも何でもOKですし、アドレスに入る前や入った後にも決まった言葉で自分に話しかけるような(セルフトーキング)声を出してショットを打つことが効果的です。

実際にこのセルフトーキングなどを取り入れたルーティーンの導入がイップス改善に効果的だったという、海外の文献もあります。
ぜひ試して見てください。

ゴルフ界以外でも、ラグビーワールドカップで大活躍した選手が、プレースキック前に独特のルーティーンを活用していたことは、有名な話ですね。

競技問わず、常に自分のリズムでプレーを行うことは必要とされていますが、そのためには、その「自分のリズム」を意識したり、作ったりすることが重要です。ルーティーン作りに「こうしなきゃいけない」というルールはとりわけありませんので、是非ご自由に作って見ましょう。

次回は、他の対策もご紹介していきますので、お楽しみに。

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)