2018.1.25

[Season.1-11]

「とあるゴルファーのイップス改善例(状況の整理)」


こちらのコラムも、おかげさまをもちまして、今回で11回目を迎えることができました。イップスをじっくりと学ぶ、正しく理解する、そして「あぁ確かにそんな感じ」と納得する。少しでも皆様が抱くイップスに対する疑問に、お答えすることを目標に書き進めさせていただいてまいりました。

11回目の今回は、いよいよイップス改善の実践です!そして、実践の舞台は、オノフ・フィッティングラボルームです!

■とあるゴルファーのイップス改善の一例

早速、これまでお話させて頂いたイップスの内容を踏まえ、私が普段どのように改善のお手伝いをさせて頂いているのかを「中継」させて頂きます。あくまで一例にすぎませんが、今現在まさに「イップスに悩んでいる」または「イップスに悩んでいる方がお近くにいる」という方には、共通する部分や、参考になる部分があるかと思いますので、ぜひご参考にして頂けたらと思います。

まずは、今回の対象者さんは、Oさん。ゴルフを始められたのは、入社されてからだそうです。一体どんな背景で、過去のコラムでも参考資料としてご紹介させて頂いた「イップスリサーチシート」と「イップスセルフモニタリングシート」にご記入して頂いた内容を見ていきましょう!

イップスをどのように知りましたか?

→ 入社後ゴルフを始めてから上司より教わった。

イップスになったと思われるきっかけはいつ頃起きましたか?

→ ゴルフを始めて2年目から

お答え頂いた時期からこれまで症状に変化はありましたか?

→ 極力無心でプレーするように努めた。時々思うように打てることがあるが、ほぼ改善はされなかった。

イップスが起こる時の状況

→ 負けたくない相手、認められたい人、知らない人がいるとき
→ 細かな調整が必要な距離
→ それまでのショットがよく、バーディーが狙えそうなとき
→ 逆にこれ以上「叩く」とスコアが自分の希望を上回りそうなとき

周囲に自分がイップスであることを打ち明けているか

→ 言わずとも見ていてわかると思っている
→ 伝えてもどうにもならないのでわざわざ話題に出したくない、恥ずかしい

回答いただいた内容を整理すると、イップスを初めて経験したのは入社後にゴルフを始められて2年がたった後のようです。これまでのコラムでは、イップスは何も考えないで行える動作「自動化した動作」に起こるというお話をしてきましたが、2年という期間で、ある程度の頻度でスイング動作を繰り返すことで、動作が自動化することは、十分にあり得る話です。

また、ゴルフを始めた当初は、見よう見まねでゴルフの動作を学び始め、自分の動きの習得に集中していたのではないかと思いますが、何も考えずに動作が行えるようになりはじめた2年目くらいの頃に、シートにも回答していただいているように、

「負けたくない相手、認められたい人、知らない人がいるとき」
「細かな調整が必要な距離」
「それまでのショットがよく、バーディーが狙えそうなとき」
「逆にこれ以上「叩く」とスコアが自分の希望を上回りそうなとき」

など、「人間関係」や「失敗に対する不安」に過剰に意識が向くようになり、獲得した動作に「邪魔」が入った、という見立ても、Oさんのイップスの背景の解釈を後押ししてくれます。

そして、もう一つのヒアリングシートである「セルフモニタリングシート」にもご回答いただきました。こちらは、自分のイップスの「状態」がどの程度のものなのか、「何ができて、何ができないのか」ということを整理する目的のものです。

回答していただいた内容は

○できる

素振り
練習場で大きい対象へのショット
ゴルフ場での緊張しない相手との緊迫しない場面でのショット

×できない

練習場で小さい対象へのショット
ゴルフ場での緊張しない相手との緊迫する場面でのショット
ゴルフ場での緊張する相手とのラウンド全般

整理してみると、

「実際にボールを打つことのない素振りの動きや、的の小ささや、人間関係を意識する必要のない状態ではOK」
「的が小さかったり、人間関係や特定の場面などによって失敗を意識するとイップスが起きてしまう」

という風にまとめられます。言い換えると、やはり「失敗への強い意識が、自動化された動作を奪っている」わけですね。

イップスは、改善方法はまだまだ確立されていませんが、こうして自分の状況を整理することで、「こういうきっかけでこうなった」「こうなれば治るかもしれない」という見通しが少しずつ見えてくると考えられます。

さて、整理は終わりました。次回はいよいよ最終回になりますが、Oさんのイップス改善お手伝いの後半、エクササイズ編です!それではまた次回、よろしくお願い致します!

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)