2020.4.15

[vol. 031]

出張先はトーナメントコース


旅するひと = 大江康彦おおえ・やすひこ

1960年生まれ。スーパーインテンダント(ゴルフコース管理者)、ベタープレイス株式会社代表取締役。帯広畜産大学卒業後、日東興業に入社。米国に赴任し、サンフランシスコ、アトランタ、ハワイで計11年間にわたりグリーンキーパーとしてのキャリアを積む。1997年、米国グリーンキーパーの最高資格(CGCS)を取得、以来、数々のPGAツアー競技に参加。帰国後は小樽カントリー倶楽部に赴任、99年日本オープンでは歴史に残る死闘の舞台を作り上げた。その後、ゴルフ場運営会社のメンテナンス本部長などを経て現職。ゴルフ歴37年、ベストスコア76。

6年目のリビエラ

歴史的建造物のクラブハウス前にギャラリースタンドが設営され、ジェネシス・インビテーショナルの開幕を待つザ・リビエラカントリークラブ(2020年2月 大江氏撮影)。

今年もカリフォルニア州ロサンゼルス郊外のザ・リビエラカントリークラブに行ってきました。ご存じのとおり全米屈指の名門で、創設から90年以上にわたり各界のセレブリティが歴史を刻んできたプライベートクラブです。重厚感たっぷりのクラブハウスはハリウッドが近いこともあってスター達の社交場となり、実際にここで映画撮影が行われたこともあるそうです。
ジョージ・クリフォード・トーマスJr.が設計したコースはこれまで全米オープンや全米プロなど数々のメジャー大会を開催した歴史を持ち、2028年のロサンゼルスオリンピックでも会場として使われることが決まっています。
例年2月に開催しているPGAツアー競技は今年から準メジャーに格上げとなり、名前もザ・ジェネシスインビテーショナルに変わりました。1992年、前身のロサンゼルスオープンの時代に16歳で鮮烈なデビューを飾ったタイガー・ウッズがホストを務めるビッグトーナメントです。今回の渡米の目的はこの大会のお手伝いでした。

2月13日から4日間開催されたザ・ジェネシスインビテーショナル。準メジャー昇格で賞金も増額され、総額930万ドル(約10億円)。優勝したアダム・スコットには167万4000ドル(約1億8000万円)の賞金に加え、通常より1年多い3年間のシード権が与えられた。

トーナメントの期間中は通常スタッフ約40人の他に、全米各地のトップクラブからキーパーや手伝いの若者がボランティアで参加します。その数およそ40人。リビエラにはポール・ラッドショーさんというグリーンキーパー界の神様のような方がいて、コース管理の世界では彼を頂点としたピラミッドができています。そのお弟子さんにあたる全米のキーパー達が部下をポールさんのもとに送り出し、最高峰のコースメンテナンス技術を体験させているのです。
現在、リビエラで陣頭指揮を執るマット・モートンさんもポールさんの直弟子にあたります。まだ42歳と若いですがその技術は高く評価され、日本のコース管理にも関心があり、私も懇意にさせてもらっています。

時代の最先端を行くマットさんの管理方法はまさしくサイエンスで、日々進歩しています。今年はGPSを駆使した一括管理が印象的でした。土壌の温度や水分はコース管理において欠かせないデータですが、以前はスタッフの手書きで集計し、分析していました。それが今は詳細なデータが携帯やパソコンにリアルタイムで送信され、自動的にコースの図面にマッピングされていくのです。
トーナメント中は選手のデータも刻々とキーパーに届きます。ティショットがどこにどれだけ飛んで、フェアウェイのどこからバーディが何人出ているかといったもので、コースセッティングや管理方法の判断がより明確になります。これは大いに参考になりました。

今から6年ほど前、マットさんと話をしていた時に、2月のトーナメントに日本の若手も呼んでみてはどうかと提案がありました。米国以外からの参加はほとんど前例がありませんでしたし、それも見学するだけでなく実際に作業を体験させてみようという、若手にとっては夢のような計画です。私はもちろん快諾し、以来、数名の若者を連れ、運転手兼通訳兼ガイド役で渡米するのがこの季節の恒例になりました。
通算6回目の派遣となった今年はとびきりうれしい出来事がありました。若手は通常、補助作業につくのですが、日本人ボランティアとして初めてグリーンを刈ることを任されたのです。

グリーンを刈った後は競技委員が詳細にチェックします。アンジュレーションがあっても真っ直ぐなラインを入れることができているか、刈り残しがないか、アンフェアな場所はないか。簡単そうに見えて熟練者でも難しい、高い技術を求められる作業です。しかも準メジャーで責任重大ですが、これはあくまで彼らの仕事です。私は見守るしかありません。
結果は文句なしでした。それは、彼らが担当した11、12、13、17番の4ホールのうち、最終日の13、17番でアダム・スコット選手がバーディパットを沈め、優勝を決めたことでも明らかです。キーパーにとって自分の担当したホールが勝負の分かれ目になるほど晴れがましいことはありません。

今年の大会は私にとっても忘れられない試合になりました。実は練習ラウンドの日にスコット選手と話をする機会があったのですが、その時は日本のコースの話題が中心でした。まさかこのような展開になって彼が優勝するとは、私は想像すらしていませんでした。

左上=ボランティア参加した日本の若手スタッフ。右上=リビエラのグリーンの芝はポアナという品種。大会中はスティンプメーターで12.5フィートに設定された。
左下=全米から集まったグリーンキーパーは精鋭揃い。
右下=絞り込んだフェアウェイや粘るラフ、小さめのグリーンが特徴的。周囲は高級住宅地が広がる。

西海岸スタイル

トーナメント開催週の作業は通常8日間にわたります。ジェネシス・インビテーショナルの場合はその間の滞在先が予め決まっていて、大会関係者はもちろんボランティアスタッフの宿も主催者側が近隣のホテルを用意し、コースまでのシャトルバスや食事など、準備万端で迎えてくれます。将来を担う若手のためにもゴルフコース、協会、スポンサーがサポートを惜しまない。実にうらやましい環境です。

管理作業は毎朝3時過ぎに始まり、終了後のミーティングまで続きます。連日、フル活動になりますから、遠地から行く者は時差調整が欠かせません。今年も少し早めにロサンゼルスに入り、若手を連れてPGAウエストなどのゴルフ場を見て回り、体を慣らしました。
コースを歩いて気づいたのは、以前はよく使われていたブッシュがほとんどなくなり、土で固めてしまっていたことです。アメリカは水の値段が高くコストがかさみますし、乾燥による火事の問題もあると思いますが、あれには驚きました。

ザ・リビエラカントリークラブはロサンゼルス郊外のサンタモニカから車で10分ほどの場所にあります。サンタモニカ・ピアの先をハイウェイ1号線でさらに30分ほど進むと到着するのがセレブ御用達の景勝地、マリブです。海岸線に沿って50km以上にわたり、ゴージャスな邸宅が建ち並ぶ景色は圧巻です。今年はゴルフ場で教えてもらったマリブファームというレストランに寄ってみました。桟橋の突端にある有名店で、観光客にも人気が高いそうです。自家菜園で育てたオーガニック野菜を使った料理はどれも洗練されていて、健康志向の高い西海岸のライフスタイルを垣間見ることができました。驚いたことに今年、系列店が神奈川県のリビエラ逗子マリーナにできるそうです。ヨットハーバーを眺めながらの食事もまた格別だと思います。

マリブピアとその先にあるオーガニックレストラン、マリブファームにて。海を見ながらの食事は開放感たっぷり。食事のあとは快適ドライブといきたいところだが、LAの車移動は渋滞が付き物。週末の観光地は特に覚悟が必要だ。

マウイの思い出

1987年からサンフランシスコ、アトランタ、そしてハワイと、各地で仕事をしてきました。最初の赴任地はゴールデンゲートブリッジを渡って30分ほど走ったサンラファエルという町のピーコックギャップ・ゴルフクラブでした。週末ともなると来場者のほとんどが日系企業の駐在員という時代です。
私はまだ見習いのような立場でしたが、それでも仕事は午後2時頃には終わります。空いた時間はひたすらゴルフ場を見て回ることに費やしました。上司のキーパーに紹介してもらい、1年間で200コースは見学したと思います。日本のコース管理との違いを知ることができた、かけがえのない時間でした。

渡米した当初は半年くらいで帰って来る予定でしたが、ハワイでの仕事を終え、帰国するまでに11年が経っていました。見るものすべてが刺激的で、勉強したいことが次から次へと湧いてくるのです。アトランタにいた頃はオーガスタナショナルでも3年ほど仕事をする機会に恵まれました。

マウイ島の町、キヘイと、ローカルフードのアヒポキ。

ハワイの赴任先のシルバーソード・ゴルフコース(現 マウイ・ヌイ・ゴルフクラブ)は一時、エリエール・ゴルフクラブと呼ばれていたゴルフ場で、マウイ島の南西部のキヘイという町にあります。仕事に明け暮れた毎日や、何度も通ったローカルタウンのシーフードレストラン、アヒポキ(マグロを使ったハワイ料理)を買いに行った老舗スーパーのタカミヤ・マーケットなど、思い出は尽きません。あの時、私が植えた椰子の木は今頃、立派に成長して、フェアウェイやグリーンに影を落としていると思います。

海外で過ごした時間、経験、そこで身につけたスキルはこの上ない財産です。これまでザ・リビエラカントリークラブに連れて行った若手達も日本各地のゴルフ場で活躍を始めています。なかには霞ヶ関カンツリー倶楽部に務める者もいて、彼らにとって東京オリンピックが次の大きなステップとなるのはまちがいありません。最高の舞台でトッププレーヤーが遺憾なく実力を発揮し、世界中を沸かせる日が無事に訪れるよう祈っています。

LA周辺 見どころガイド
  • ザ・ゲッティセンター
    ウエストロサンゼルスの丘の上に建つアートの複合施設。数々のギャラリーをすべて無料で鑑賞できる。斜面に広がる庭園はLAで最も眺めのいい場所のひとつ。
  • サンタモニカ・ピア
    サンタモニカ・ステート・ビーチに突き出た桟橋と、昔ながらの遊園地パシフィックパークはLAを代表する景色のひとつ。夕暮れ時の散策は特におすすめ。
  • ビバリーヒルズトロリーツアー
    主要スポットを結ぶトロリーサービスをビバリーヒルズ市が提供している。運行日は基本的に週末の日中。ルートは高級店が並ぶロデオドライブからシビックセンターまで。
  • アカデミーミュージアム
    2020年12月オープン予定。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーによる映画文化と産業の博物館。開館記念イベントは宮崎駿監督の作品展が予定されている。
  • サンタカタリナ島
    南カリフォルニアの沖合35km(フェリーで1時間またはヘリで15分)。マリリン・モンローもかつて暮らしたリゾートアイランド。日帰りでゆったり過ごしたい時に最適。
  • サンタバーバラ
    ロサンゼルスから海岸線をおよそ2時間。赤い瓦屋根のスペイン風の街並みが広がる景勝地。ナパやソノマと並ぶワインカントリーとして人気が高い。
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ザ・リビエラカントリークラブ
18H 7040Y P71
創設/1926年 設計/ジョージ・C・トーマスJr.
メジャーやライダーカップの舞台になってきた名門中の名門。二クラスが絶賛した10番パー4など名物ホールが多数存在。二度のLAオープンと全米オープンを制したベン・ホーガンにちなみ、ゴルフファンからHogan’s Alley(ホーガンの小路)とも呼ばれる。
Visit California(カリフォルニア州観光局)
カリフォルニアの観光情報はこちらから。
マリブファーム
“FRESH,ORGANIC,LOCAL”をコンセプトとするオーガニックレストラン。今年3月、日本初上陸となる『マリブファーム逗子マリーナ』(写真)がマリブホテル内にオープンした。
ハワイ州観光局
ハワイの観光情報はこちらから。
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新しい年度が始まりました。新しい春に、新しいアイテムでゴルフをお楽しみください。