2019.2.21

英国の不出世の天才女子ゴルファーといえば、ジョイス・ウェザレッドをおいて他にない。イングランドの裕福な家庭に生まれ、父が大のゴルフ好きで、兄のロジャーとともに子供の頃からゴルフに親しんだ。夏はスコットランドの別荘に滞在し、ロイヤルドーヌックでプレーしたという。

そんなジョイスが初めて大きな大会にデビューしたのは19歳のとき。1920年のロイヤルトルーンで行われたイングランドレディス選手権だった。決勝の相手は当時「無敵の女王」と呼ばれたセシル・リーチ。午前の18ホールでリーチはジョイスに6アップ。もはや「女王」の優勝は間違いないと思われたが、午後の18ホールがスタートして事態は一変。いきなり1番でリーチが1mを外し、3番でも短いパットがカップに届かない。ジョイスは果敢にピンを攻め、遂に15番でイーブンとなった。

ジョイス、押し気味の17番。彼女がグリーンでパットしようとしたとき、30mしか離れていない線路上を急行列車が走り抜けたのだ。騒音が響き渡る。当然、ジョイスは仕切り直すものと思われたが、そのまま打ってカップに沈めたのである。初出場でビッグタイトルを射止めた瞬間だった。

試合後、記者が「なぜ仕切り直さなかったのですか?」と聞くと、ジョイスは「何のこと?」と逆に聞き返したという。そして、「列車が通り抜けたんですよ」と言うと、「えっ、気がつきませんでした」と答えたというのだ。それほど集中していたのである。

ジョイスは、その後、引退するまでの9年間に英国を含むヨーロッパで38勝を挙げるが、いつも守っていたことは「正しいフォームが生まれるように全神経を集中すること」だったという。

1打にかける集中力を、ジョイスのように磨きたいものだ。

JOYCE WETHERED

1901年11月17日イングランド・デヴォン生まれ。1997年11月18日逝去。19歳から28歳までの現役9年間に、全英レディス選手権5勝、ブリティッシュ女子アマ選手権に3勝している天才女子選手。兄のロジャーも全英アマや全英オープンに優勝した名選手だった