2020.04.28

【番外編】

2020・4・13 トーナメント面白話 1 
ニワトリとタマゴ / INTERVIEW 【番外編】

ニワトリが先か、タマゴが先か--。いくら考えても答えは出ないけれど、ゴルフの世界でも似たような問題がある。クラブが先か、スイングが先か。よくよく考えてみると「クラブが変わればスイングも変わる」が正解のように思えた。ドライバーが木製のパーシモンヘッドにスチールシャフトの時代は、体を弓なりにする逆Cの字型フィニッシュが主流だった。やがて金属製のメタルヘッドが登場するとフィニッシュフォームはI字型に変わるほどスイングも大きく変貌したからだ。が、しかし、真の正解ではなかった。

ドライバーと言えば、チタンヘッドにカーボンシャフトが定番となって久しい。けれど、ウッドクラブの変遷を辿れば、チタンヘッドの前は金属製のメタルヘッドであり、その前は木製のパーシモンだった。そのパーシモンヘッド主流時代がやがて終焉の時を迎えたのは、元号が昭和から平成に変わる頃だった。1986年(昭和61年)のカシオワールドに招待選手として出場した米ツアー選手たちが、聞き慣れない金属的なインパクト音で圧倒的な飛距離を披露。メタルヘッドドライバーを手にしていたスコット・ホークが2位に6打差をつけての通算12アンダーでブッチギリ優勝。パーシモンヘッドを使う日本人選手としては通算3アンダー・4位タイの岩下吉久が最高順位だった。

メタルヘッドドライバーを使ってのホークの勝ちっぷりは、日本のプロトーナメント界における「マシュー・ペリーの黒船来航」だった。時代が変わる。進取の気性の選手は、すぐにメタルヘッドを試し始める。その一方で、慣れ親しんだパーシモンヘッドにこだわり続ける選手は多かった。「メタルヘッドはフック、スライスの球筋を打ち分けにくい」「球離れが早いからボールをコントロールしづらい」というのが大方の理由だった。
飛距離は出せるかも知れない。けれど球筋を操れない。メタルヘッドという「ウッドクラブ界の黒船」を素直に受け入れられなかったのだ。

プロたちが口にする「メタルヘッドは球離れが早い」。あまりにも感覚的な言葉過ぎてアマチュアには到底理解できない。その謎を解明しようと取材に駆けずり回り、物理学的な回答をしてくれる人にようやく出会う。クラブデザイナーの故・竹林隆光氏だった。中空アイアンをはじめ、「アマチュアにもプロのスピン」で一世風靡したMT-28ウエッジ、中空のユーティリティHI‐858の生みの親であり、ゴルファーとしては75年香港オープンベストアマ、77年日本オープンローアマ獲得など輝かしい戦績を持った方だった。決して偉ぶることなく、物腰は柔らかく、温厚で、愚鈍な問いに対しても分かりやすく解説してくれた。

「球離れが早い、遅いの正体は何でしょうか」と切り出した。竹林氏はホワイトボードにドライバーヘッドのイラストを二つ描き、一方にはフェース面の内側すぐそば中央に、もう一方には後方部分中央に黒点を記した。

「メタルヘッドはその名のとおり金属ですから、中空構造ながらフェース面の重量は重いのでヘッド重心はフェース面寄りに位置します。パーシモンヘッドは木製であり、鉛をヘッド後方に装着していることもあって重心位置は後方にあるのです。
フェース面から重心位置までの深度がメタルは短く、パーシモンは長い。
実はゴルファーの誰もが、このヘッドの重心位置を察知できるのです。フェース面でボールを捕らえるスイングポジションがインパクトですが、重心深度の長いパーシモンヘッドよりも重心深度の短いメタルヘッドの方がインパクトポイントに重心が到達する時間が早い。それをプロたちは『球離れが早い』という言葉で表現しているのです」

ボタボタッと目からウロコが落ちて行った。フェース面とボールの衝突がインパクトだと思っていたけれど、感覚的には重心位置でボールを打っていたのか--。

「ヘッドの重心位置を察知するのは左手の親指の腹部分。ですから、重心深度が深いヘッドほど左手親指の向きはグリップの右側に向けるのが自然なのです」と竹林氏は付け加えた。

左手の手のひらを地面方向へ向けるようにしてグリップする。それがフックグリップとされていたが、重心深度の深いクラブをグリップする場合は、フックに握るのがスタンダードになる。そう予言しているように思えたのだった。

頭の中では、「黒船」理論によってこれまでのゴルフ常識が完全に覆された。
「クラブが先か、スイングが先か。やはりクラブに適したスイングが必要になるのですから、クラブが先で良いですか」と尋ねた。

問われた竹林氏は、珍しくニコリと白い歯を見せた。
「残念ながら違いますね。クラブよりもボールが先です。ゴルフはボールをカップに沈めるゲーム。そのボールを打つのがクラブであり、そのクラブを使いこなすのがスイングなのです。ボールの進化に追随するようにクラブが開発され、そして新たなスイング理論が築かれて来たのがゴルフの歴史だと思います」

確かに日本では、糸巻きバラタボールに変わって主流になったツーピーズボールが登場してから、金属ヘッドのウッドクラブが新たな潮流になった。クラブの進化、新たなスイング理論もすべては次世代のボール誕生が源なのだ。

元号は平成から令和へと変わった。昭和が平成に変わる頃、今から30数年前、すでにゴルフクラブもスイング理論も激変することを見抜いていた偉大なるクラブデザイナーが日本に居たのだ。

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