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ONとOFF vol.7 私のゴルフライフ #2 脇阪寿一さん(後編)
行くほど好きになれる場所

Profile
脇阪寿一 わきさか・じゅいち(レーシングドライバー)
1972年生まれ、奈良県出身。レーシングドライバー、TGR Team SARD チーム監督、日本体育大学非常勤講師。1991年にレーサーのキャリアをスタート、96年全日本F3選手権チャンピオン。国内最高峰カテゴリーSUPER GTでは2002年シリーズチャンピオン、06・09年にドライバー&チームのダブルタイトルを獲得。トヨタ自動車レース部門の開発ドライバーも務め、16年TOYOTA GAZOO Racing アンバサダー就任。イベントプロデュースや広報活動などを精力的に行っている。ゴルフ歴約30年、ハンディ7、ベストスコア72。
応援に来ていただけませんか?

M昨年春のことです。クラブチャンピオンの方から連絡をいただきました。
「5月に関東倶楽部対抗の予選があります。お忙しいところ本当に申し訳ないのですが、もしスケジュールが空いていたら、私たちの応援に来ていただけませんか?」
「何とか都合をつけてあなたも来てください」という言葉ではない、そのお気遣いもうれしくて、「ぜひ伺います」とお答えしました。
関東倶楽部対抗はKGA(関東ゴルフ連盟)に加盟するゴルフクラブによる団体競技です。初めて観た団体戦の雰囲気は独特で、ゴルフは個人競技、ラウンド中は1人の世界というイメージが吹き飛びます。
緊張感もすさまじく、キャリアを積んだトップクラスの選手でも1番ティでは鼓動がこちらまで聞こえてきそうな表情をしています。
対戦相手に敬意を払い、仲間を信じ、手にできるのは倶楽部の名誉だけ。また新たな世界を知った1日になりました。
それから1年後のこの春、大変なことが起こりました。
今年の関東倶楽部対抗予選の選手の1人に僕が選ばれて、去年見たあの舞台に立つことになったのです。これは夢にも思っていなかった展開です。
それでも選んでいただいたからには皆さんに恥をかかせてはいけないと、当日はその一心でプレーして、気づいた時には18ホールが終わっていました。
残念ながら決勝進出には届きませんでしたが、貴重で忘れることのできない経験をさせていただきました。
今は素晴らしい舞台に立たせていただいたことへの感謝しかありませんし、同時に、自分が進むべき方向もはっきり見えました。
「みんなのために、もっと上手くなりたい」。初めて、そんな気持ちになったんです。
アプローチ・イップス

M競技ゴルフは一部のエリートの人たちだけの世界だと思っていました。でも実際に飛び込んでみると違いました。支えてくださる方たちの期待を背負い、1打1打に集中する。この感覚は、レースで経験してきたものと、どこか重なっている気がします。
関東俱楽部対抗の代表チームの一員に選んでいただいた頃、実は誰にも言えない悩みを抱えていました。アプローチ・イップスです。振り返って考えると、打ち方自体にすでに原因はあったのだと思います。
レーサー仲間と遊びでゴルフをしていた頃はそれでも何とかなっていました。でも選手に加えていただいた今はそうはいきません。
練習では寄るのに本番になるとトップする、ダフる、思うようにクラブが動かない。これでは皆さんに迷惑をかけてしまいます。
いつものように原因を見つけ、仮説を立て、解決案をひとつずつ試すことにしました。それまでの打ち方を小手先で修正するのではなく、根本から正さなければとリビングに鏡を持ち込み、フルショットからすべてを見直しました。
先輩方も、とても気を遣ってくださいました。腫れ物に触るような優しさではなく、「みんな通ってきた道だから」と、ご自身の経験をもとにアドバイスしてくださるんです。
皆さん仕事がありますから限られた時間で練習しています。どうすれば短時間で意味のある練習になるかといった話もとても勉強になりました。
今、僕のiPhoneにはゴルフのメモが山ほど入っています。自分の中の引き出しが少しずつ増え続け、イップスも快方に向かっています。
若い頃は体力もありましたし、身体能力だけで勝負できる部分も大きかったと思います。
プロスポーツ選手は多くの場合、身体能力の衰えとともに第一線を退きます。
けれどゴルフは人間として成長することで、まだ進化できることがわかってきました。
倶楽部対抗予選では、一度4パットをしました。以前の自分なら、「もう終わった」と気持ちが切れていたかもしれません。でも、その日は違いました。最後まで自分のゴルフを続けようと考えることができたんです。
30年ゴルフを続けてきましたが、最初の25年間とはまったく違うゴルフになっていたと思います。
誰かのために

初めて出場させていただいた関東倶楽部対抗、神奈川予選会場の相模野カントリー倶楽部で。緊張しました。
M僕はずっと、自動車とレースに育ててもらいました。競技者としても人間としても多くのことを教わってきました。レースでは現場に数十人、さらに工場には何百人もの人たちが1台のクルマを支えています。
ゴルフも自分ひとりでプレーしているように見えて、その向こうに支えてくれる人たちがいる。だから誰かのためにゴルフをしている感覚になるんです。
代表チームの監督は僕よりもずっと年上ですが、練習のたびにドライバーの飛距離勝負を挑んできます。もちろん一緒に黒ティからです。
本気で勝負してこられるその姿を見ていると、「54歳なんてまだ若い」と思えてきます。
自分はこれをやりたかったんだと、ようやくひとつの答えにたどり着いた気がしています。
目指したいものもできました。監督のように笑顔で若い選手と真剣勝負を続けること。生涯、競技者であり続けること。
だから仕事へのモチベーションも上がります。仕事を頑張るから、またゴルフができる。
今では、それほどまでにゴルフが人生の一部になっています。
30年前、ただ楽しく始めたゴルフが、まさか人生をもう一度変えてくれる存在になるとは想像もしていませんでした。ゴルフを通じたこれまでの数々の出会いがなかったら、僕はきっと今とは違う表情をしていたと思います。

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