2017.12.27

[Season.1-10]

「心の面からイップスを改善する2つの具体的な方法」


おかげさまでこちらのイップスコラムも、今回で10回目を迎えることができました。ゴルフ界のみならず、野球やテニスなど様々な競技で近年話題に上がることが多いイップスですが、まだまだ謎が多いがゆえに、「メンタルが弱い選手がなる」「技術不足が原因」と誤った認識が広まってしまっています。そして、その認識はリアルタイムでイップスに悩む選手にまで届いてしまっていて、症状を、より深刻にしてしまう原因にもなっているような気がします。残り数回ですが、今わかっている範囲のイップスの正しい情報をお伝えさせていただきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただけたら幸いです。

さて、前回までにお話しさせて頂いた「グリップの太さや握り方を変えながら、ショットの成功率を高めると同時にショットに対する不安を軽減させていく」というイップスの改善方法。イップスは、野球、ゴルフ、テニス・・・と、一見無関係に思われがちな様々な競技で報告されておりますが、どうやらどの競技も『握る』という動作、細かい動きが得意な部分に、イップスの原因があるという点は共通しているようです。

体に起こる共通点が「握る」という動作の肘から先の部分だとしたら、「心」の共通点は、「不安」ですね。不安感情などを担当している脳の部分は、実は既に自動化した動作を保存してある脳の部分と繋がりがあって、自動化した動作を逐一邪魔しているのではないか、とも考えられています。

その「感情が動作に与える影響」の視点に立った改善策を2つ紹介したいと思います。

■サイキアップ

イップスは、一種の「不安状態」であると考えることが出来ます。スポーツメンタルの世界では、メンタル状態、「不安」と「興奮」の両極に分けて、選手がどの状態にいるのかを評価することがあり、ちょうど中間の状態が良いとされています。

傾いたメンタルを最良の状態に導くためのテクニックとしては、不安側に傾いた選手を興奮側に導く方法と、興奮側に傾いた選手をややなだめる方向に導く方法がありますが、前者を「サイキアップ」後者を「リラクゼーション」を呼びます。イップスは、「不安」との関わりが強いため、サイキアップの考え方が有効であると考えられます。しかし、これらは主に試合前などに行われ、「最良の状態で試合を迎えられるように」という概念で行われることが多いですが、試合前にメンタルが最良の状態でも、試合中特定の場面で不安を感じ、イップスが起こる選手は多いです。つまりイップスは、瞬間的に起こりうるものであるため、その瞬間にサイキアップをしながら、そのプレーを行うことで、不安をかき消しながら、イップスが起こるリスクを軽減させていくという考え方です。

具体的には、「声を出しながら投げる」「前向きな言葉を口にしながら投げる」「息を大きく素早く吐きながら投げる」などが挙げられます。これらの行動は、メンタルをポジティブな状態に導く効果が期待できます。(ゴルフでは大きな声はマナーとしてあげれませんが)

■フェイスセッティング

人間の感情は、表情に現れやすいものです。脳が不安を感じているときは、不安そうな表情が出てしまいます。嬉しいときは、もちろんその逆です。表情と脳の感情を司る部位は、表情筋という顔の表情を作る筋肉を介してリンクしているのです。そして、その通路は脳から表情への一方通行ではないと言われているため、「明るい」表情をしていれば、脳にも明るい信号が送られ、脳のポジティブな部分が刺激されると言われています。

最も効果的な方法は、「口角を上げる」ことです。
口角を上げることは、接客業の教育の場面でも度々指導されるようですが、口角を上げることで、もし不快や不安を感じるような場面でも、脳がポジティブな状態なのだと勘違いするとも言われています。もちろんイップスの起こりそうな場面で、リアルタイムで口角を上げた表情を作るのが良いでしょう。

さて、次回は、いよいよ「とある」イップスに悩む方に実際に改善プロクラムに取り組んでいただこうかと思います!お楽しみに!

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)