こんにちは。ハバナトレーナーズルーム石原です。早速ですが、前回の商社マンAさんとの対談の続きです。
石原「『道具の変化』『プレーをしていない期間』・・。お話を伺う限り、それはイップスの入り口としては典型的であると言っても良いかと思います。ちなみに、具体的には、スイングの感覚が狂ってしまったことで、どんな現象が起こりましたか?」
Aさん「実際には、仲間からドライバーだけスイングがおかしいということを言われたので、感覚だけでなくスイング自体もおかしくなっていたのだと思います。」
石原「どんな風になっているのですか?」
Aさん「簡単にいうと、二段モーションになってしまうのです。スイングのトップを作ってから、さらにもう一段階体をひねってトップを作るような動きをしてしまうんですよ。自分ではそんな動きをしようとはしていないのですが。」
石原「そのような動きが出始めたきっかけは?」
Aさん「仕事が忙しくなってゴルフができなくなってしまった期間に、市場に出ているドライバーのヘッドが大きく、軽いものに変わっていたとお話ししましたが、やはりその道具の変化が大きいように思いますね。久しぶりに打とうとした時に、あまりにも感覚に違いがありすぎて、ボールの手前の地面を叩いてしまい、それがちょっとしたトラウマになってしまったように思います。それからは、ドライバーは、「振る」というより、ただ「当てる」くらいのショットしかできなくなってしまいました。」
石原「重いヘッドの時代では、ある程度ヘッドの重さに任せてスイングできていたのだろうということに加え、プレー頻度から考えて熟練者のスイングですので、既に動作が自動化していたと考えられます。その速くて自動化したスイングは、何も考えずにボールにインパクトできていたと思いますし、逆に何も考えないでスイングしなくてはインパクトできないスピードなのが自動化したスイングだと考えることもできます。しかし、ヘッドが軽くなり「筋肉で操作しなきゃ」「ちゃんとボールにインパクトしなきゃ」と、自動化したスイングの速さの中で、過剰に運動調節をしようとしてしまうことで、動作が崩れてしまったのだと思います。」
Aさん「なんで、二段モーションのようになっちゃうのですかね??」
石原「それは、動作の切り替えの「よりどころ」みたいなものを欲しがっているのが原因ではないかと考えられます。イップスは、とにかく過剰に運動を調節したがってしまう傾向にあります。そして細かく調節するには、今自分の体の部分や、扱っている道具がどこにあるのかということを、「知ろうとしすぎる」傾向にあることにもつながります。一般的なトップの位置でも、本来は「カチッと」ハマっていたはずなのでしょうが、イップスの場合、きっと「フワッ」とした感覚で、インパクトに向かうまでの動作の開始をするには不安が残っている状態なのでしょう。そのため、さらに可動域いっぱいまで体を絞るようにして、動作開始の「よりどころ」または「きっかけ」みたいなものを作っているのではないかと考えられますね。」
Aさん「なるほど。私は今はドライバーを避けるために、2番からアイアンです。周りとは違うラウンドにはなりますが、それでもなんとかスコアはまとめることはできます。でも、それ以上は、スコアは縮まらないな、と思うので、なんとかしたいですね。」
石原「そうですね、まずはストレスのない環境で、ゆっくりと、ヘッドを見ながらでいいので、スイングしてみる。それからヘッドを見ているつもりで、実際は見ないでゆっくりスイング。次に早いスピードでヘッドを見ながらスイング、最後にヘッドを見ているつもりで、早いスイング、という流れで、もう一度スイングの形作りが必要ですね。それから人に見られるストレスを感じないように、混雑しない時間帯などに練習場に行って、実際に打ってみる、など、段階を踏んで徐々にストレスに慣れさせていくという改善法が有効かと思います。臨床心理学の分野で「スモールステップ」と呼ばれる治療法に近いものがあります。」
Aさん「そうですね、色々と試してみようかと思います。ありがとうございました」
石原「こちらこそありがとうございました。大変勉強になりました。色々と試していただいて、ストレスのないゴルフライフになることをお祈りしています」
2回にわたり、Aさんとの対談をお送りさせていただきましたが、やはりこのように、なんとかごまかしは効くけど悩んでいる「軽度のイップス」に悩まれている方は多いのではないか、という印象を受けました。このようなゴルファーの皆さんのお力になりたいと改めて決意を固めることができました。
それでは、また次回をお楽しみに!
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)