2018.7.23

[Season.2-7]

トーナメントプロとイップスを語る(その1)


こんにちは、ハバナトレーナーズルームの石原です。毎日暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年の夏は、猛暑が前倒しになっているようです。練習中も、ラウンド中も、プレーに集中するあまり、水分、塩分補給を忘れないよう、注意したいところですね!

さて、前回、前々回のコラムでは、アマチュアゴルファー、商社マンAさんにイップスインタビューをさせて頂きました。ゴルフを「職業」としているプロゴルファーだけではなく、趣味としてゴルフを楽しむ方にも、イップスは「魔物」のようにある日突然襲いかかってくるのですね。Aさんは、お仕事が多忙な時期に、ゴルフから離れざるを得なくなり、その期間にクラブの重さやヘッドの大きさなど、市場に出回る道具の傾向が大きく変わっており、感覚が狂ってしまったことで、どんな風にスイングしたら良いのか、どう力を入れたら良いのかわからなくなってしまった、ということでした。

Aさんのお話をお聞きしていて、「イップスに悩む方の裾野は広いな」ということを強く感じました。「イップス」という名称は、「病名」ではありません。「ニックネーム」のようなものなのです。病名ではない、ということは、「診断」もなく、当然「診断基準」もありません。今後、私の目標でもある「医療でイップスを治す環境づくり」には、その「診断基準」が必要で、そのためには、ゴルフの現場を知り尽くした方に、もっとお話を伺うことが不可欠だと痛感しました。

そこで、今回は数多くのアマチュアゴルファーを指導され、ご自身もトーナメントプロでもある、神田大介プロにお話を伺う機会を頂きました。神田プロは、ゴルフを始められる前に、野球をされており、プロ野球でもご活躍されていた経歴をお持ちです。ゴルフ発祥、現在では野球界にも蔓延するイップスについてゴルフ、野球、そして、プレーヤー、指導者と様々な角度から貴重なお話をお伺いすることができました。早速インタビューの模様をお送りさせて頂きたいと思います。

石原「早速ですが、ゴルフ、野球とイップスが起こりやすい2つ競技を高いレベルでご経験されたプロの目から見て、競技間の症状の違いなどはあると思われますか?」

神田プロ「確かに、ゴルフ、野球、ともにイップスという名前の認知自体は高いですが、両者は全く別物であると考えていますね。野球は、バッティングでのイップスというのはあまり聞きませんので、やはり送球で起こるものであると考えられますが、その場合扱う道具であるボールは直接手に触れている状態から、自分の感覚、運動で離します。しかし、ゴルフの場合は、クラブという道具を介してボールを叩きますから、使う感覚の細かさが全く違うような気がします。野球は投げることを繰り返して神経が研ぎ澄まされたことにより起こる傾向が、ゴルフの場合はクラブの使い方に慣れていない方にも起こる傾向があるように感じます。」

石原「確かに、手の動きがそのままボールの行方を左右する送球と、クラブを使ってボールに力を伝えるショットだと、大きく機序が異なりますね。プロからご覧になられて、イップスになりやすい方の特徴などはあると思われますか?」

神田プロ「そうですね、やはり真面目な考え方の方が多いような気がします。一回の失敗に対して、次は失敗しないように、と色々と考える方が多いですね。」

石原「やはりそうですか。実は、過去の文献にも、イップスになる方は完璧主義の傾向があるという一文を目にしたことがあります。」

神田プロ「そうですね、一回の失敗で残った中途半端な感覚が残ってしまっているのかもしれませんね。」

石原「なるほど。それでは、イップスはメンタルの要素が大きいという印象をお持ちでしょうか?」

神田プロ「私はそのように思いますね。結局練習場では症状が出ずに打てていても、コースで出てしまう方が多いので、やはりメンタルの要素が大きいように思います。」

石原「イップスの対策として、メンタルトレーニングが有効でしょうか?」

神田プロ「うーん。。。あまりイップスがメンタルトレーニングで改善したという話は、私の周りでは聞きませんね。。。」

石原「そうですか。。。私もそれは共感できます。。。」

インタビューはまだまだ続きますが、続きは次回たっぷりとお送りさせて頂きます!次回は、指導されている方にイップスの症状が見られた時の対処法や、私の研究チームで話題になっている「シャンク」との違いなど、参考になる話が盛りだくさんですので、お楽しみに!

神田大介プロ(1978年生まれ) 1996年ドラフト5位で横浜ベイスターズ入団。プロ通算4勝を上げるも、故障によりプロゴルファーに転身。2013年PGAトーナメントプレーヤー転向。その長身を活かした300ヤード超のドライブはゴルフ界屈指である。
1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)