東京生まれ/グラフィックデザイナー
STRANGE FRUITS,INC.でONOFFを担当。
小値賀島(おぢかじま)をご存知ですか?佐世保からフェリーでおよそ3時間、高速船でも1時間半。五島列島の北端、東シナ海に浮かぶ人口2千数百人の小さな島です。車でぐるっと周っても30分ほど。観光施設もコンビニもありません。
でも、ここには宝物のようなゴルフ場があります。のんびり散歩をする人がいて、その傍らで牛や山羊が草を食んでいる。プレーヤーは海風に吹かれながら、ただただボールを追いかける……。以前、ゴルフ発祥の地で見たような、そんなところが日本のいちばん西のほうの片隅の、小さな島にあったのです。
小値賀島を訪れたのは昨年の夏の終わり。オノフの2018年版カタログとCMのロケ地を探していて、出逢ったのがここでした。午前中に羽田を発って、着いたのは日が暮れる頃。大しけのため、「こんなことは滅多にない」と地元の方たちが驚くほどの船の揺れに耐えながら到着した島は、思い描いていたとおりの場所でした。
夜明けと同時に目に飛び込んできたのは、こちらが染まってしまいそうなほどに濃い木々の緑。海に出れば、岬と入り江が連続する海岸線の美しさに目を奪われます。島の北部にある柿の浜は真っ白な砂浜と島いちばんの透明度を誇るきれいな海。夏は海水浴場として賑わうそうです。
唯一のゴルフコース、浜崎鼻ゴルフ場は島北西部の小さな半島にレイアウトされた全5ホールのシーサイドリンクス。パー3が3ホール、パー4とパー5がそれぞれ1ホール。4回まわるとパー72になる計算です。今から40年ほど前、夏場はキャンプ場として使われる草原に、当時赴任してきた1人の銀行員がゴルフへの思いを断ち切れず、土地の所有者に頼み込んで手作りしたのが始まりと聞きました。英国人貿易商のA.H.グルーム氏が日本でもどうしてもゴルフをしたいと土地を拓き、神戸ゴルフ倶楽部を創った話を思い出します。
その後、同志によるクラブ組織の浜友会(はまゆうかい)が結成され、島人によるゴルフ場の自主運営、自主管理は今日まで続いています。民宿のご主人、山田清澄さんもメンバーのひとり。30年前にここでゴルフデビューとコースデビューを果たし、76歳になった今も毎朝ラウンドしているというから驚きです。
「メンバーは朝組と夕方組がおって、私はもっぱら朝組。毎朝、だいたい8時頃にはスタートしとっとよ。今は暑かけん、のんびり休憩しながら2時間くらいかけて5ホールば2回やな。毎月1回、会のコンペがある日はみんなでグリーンの手入ればしてから始める。コンペの日でなくても、時々、気がついたら刈っとる人もおるけどね」
納屋のような、素朴な“管理棟”には会が所有する芝刈り機が保管されています。その隣にはキャディバッグ置場。すべてメンバーの手づくりです。
月1回のコンペはハンディが決まる真剣勝負。最近はあまり出場していないという山田さんですが、優勝歴20数回、最高ハンディ0までいったこともあると話してくれました。
「狭いし、引っかけたらすぐにOBだが飽きんね。海越えのパー4は特に面白くて、200ヤードそこそこやのに、逆風の日は打っても打っても届かん。今日は天気がいいから夕方、また来るとよか。夕日の時間は最高に美しかけんね」
小値賀島での滞在は民泊か、古民家を改造した宿を利用します。築100年以上の建物をリノベーションした宿が島内に6か所あり、まるごと1棟、貸し切りで滞在することが可能です。
古民家の宿は、島を訪れる前から興味がありました。とてもきれいに手を入れてあり、モダンな家具や洗練された調度品がしっくり馴染んで快適。キッチンやバスルーム、空調、リネン、床暖房など、設備は最先端のものが用意され、まったく不自由を感じません。
食事は、新鮮な魚の美味しさに感動しました。町には食事処がいくつかあり、お刺身やお寿司は必食です。また、小値賀は胡麻や落花生の生産でも有名なところ。私達が行った8月末から9月のはじめはちょうど収穫期にあたり、刈り取った胡麻の穂を天日干しする風景があちこちで見られました。
滞在中、近所の農家さんが落花生や野菜を届けてくださったことがありました。せっかくなのでカタログ用に撮影してから食卓へ。落花生は教わったとおり、塩茹でにしていただきました。採れたてでなければできない食べ方だそうで、ほくほくした食感があとを引き、みんなの手が止まりません。
美味しい思い出はもうひとつ。これも近所の方が届けてくださった卵です。小値賀の元気な鶏が産んだ卵は、これまでの人生で最高に美味しい卵かけごはんに。とても贅沢な朝食になりました。
島ではみんなが畑を持っていて、農家さんでなくても家族が食べる分と、誰かにおすそ分けする分を育てているそうです。小値賀の美味しいものは、豊かな海と肥沃な赤土と、島のみなさんのあたたかさでできていると感じました。
日の出前から夕暮れまで、島内を走り回って撮影に明け暮れる毎日でしたが、島のみなさんの笑顔を見ると、肩の力が抜けていくのがわかります。島には町立の小学校があって、子どもたちは誰にでも元気に挨拶してくれます。 先日はすぐ隣の野崎島が世界文化遺産に登録されるという大きなニュースもありました。
初めて行ったのになぜか懐かしい。小値賀島はやさしくて、暮らしとゴルフがすごく近くにあって、そして、とても豊かなところでした。
今回ご紹介しました小値賀島でロケされましたONOFF 2018 CM Part1、Part2もぜひごらんください。
Find Information
- 浜崎鼻ゴルフ場
- 長崎県北松浦郡小値賀町浜津郷
- 1976年開場。5ホール・1053ヤード。現在の会員数は60数人。観光客も事前に申し込めばメンバー同伴でショートラウンドが可能。約2時間・1人 3500円 ※クラブやボールは各自持参
- 古民家ステイ 鮑集(ほうしゅう)
- 島の中心、笛吹郷の海沿いに建つ商家の屋敷が居心地のいい宿に。家電類や調理器具、食器、アメニティなども揃っている。180㎡、定員6名。素泊まり1人1万500円~
- 古民家レストラン藤松
- 長崎県北松浦郡小値賀町前方郷3694
- 捕鯨・酒造りで財を成した島屈指の商人、藤松家の屋敷を改装。新鮮な魚や野菜などを使った島の家庭料理を食べられる。前々日までに要予約、コース料理のみ3500円~
- おぢかアイランドツーリズム
- TEL:0959-56-2646
- 以上の問い合わせは「おぢかアイランドツーリズム」まで。
- 島のお土産①
- 噛み締めるほどに旨味が広がる『かつおなまぶし』。ハガツオを熱湯で茹で、島で切り出した木で丁寧に燻している。1000円(税別)~ 大きさにより各種
- 島のお土産②
- 島で育った落花生をロースト、オーガニッククーベルチュールチョコレートと九州産きなこでコーティングした人気のお菓子。『ちょこきなぴい』583円(税別)
- しまうまショップ
- 島のお土産のお問い合わせは「しまうまショップ」まで。
Pickup Item
島を旅する時には、軽快なスタイルで周遊したいですね。荷物も出来るだけ少なくして。国内旅行ならゴルフ道具などは宅配便を利用すればさらに軽快になって、いろいろなところを回れそうです。