2024.3.28

[vol. 063]

ゴルフと研究の共通点


旅するひと= 城戸淳二

きど・じゅんじ/1959年生まれ、東大阪市出身。山形大学 大学院 有機材料システム研究科教授。早稲田大学理工学部応用化学科卒業後渡米、89年ニューヨークポリテクニック大学(現ニューヨーク大学)大学院Ph.D. (工学博士号)修了。同年、山形大学赴任。93年、世界初の白色発光有機EL素子の開発に成功し、有機EL研究の第一人者に。大型有機ELディスプレイの実用化に向け、産官学の国家プロジェクトで責任者を務める。2013年紫綬褒章受章。『日本のエジソン城戸淳二の発想―成功は成功を呼ぶ!』『大学教授が考えた1年で90を切れるゴルフ上達法! 』など著書多数。ゴルフ歴13年、ベストスコア83。

51歳、山形でゴルファーになる

蔵王カントリークラブ(城戸氏撮影)。1つとして似たレイアウトがない、戦略性の高いコースです。

留学していたニューヨークから赴任先の山形に移り住んで35年。ここ米沢は夏は涼しく、生活環境が整っていて子育てにも最適。そして食べ物がとても美味しいところです。

コースに出るのは年間20~30回くらい。こちらはオフシーズンが長いので、およそ半年のあいだに集中してラウンドします。練習場にもよく通い、特にシーズンインを迎える春先は真剣です。片手シングルを目指して、日々研究に励んでいます。

よく行くのは蔵王カントリークラブとボナリ高原ゴルフクラブ。ボナリがあるのは福島県ですが、米沢からひと山越えるだけなので比較的通いやすく、この2コースともメンバーになりました。
蔵王は歴史あるクラブでメンバーには地元のお歴々の皆さんも少なくないので、この辺りで悪いことはできません(笑)。
コースは最初に林間コースのインを造り、そのあとで山岳コースのアウトを造ったそうです。だからアウトとインで雰囲気がガラッと変わり、どっちを先にスタートするかで面白さも変わります(調子がいい時はアウトからまわるのがおすすめです)。グリーンはコーライ芝の砲台でめっちゃ難しくしてあり、これも飽きずに楽しめる要素のひとつになっています。

蔵王カントリークラブ。右下は蔵王で開催している東京六大学ゴルフ対抗戦。私が最も重要視しているコンペで、早稲田は常勝(?)、個人的にも3年前に優勝を果たしました。

もともと大学時代には競技スキーをやっていて、50代になるまでゴルフにはまったく興味がありませんでした。突如始めることになったのは2010年、51歳の時です。
きっかけは年の暮れ近くの日曜日、地元の知り合いのお医者さん達との飲みの席でした。彼らの話といえば、その日行ってきたゴルフのことばかり。こっちは止まってるボールを打って何がそんなに面白いのかと思ってそれを聞いてるわけです。100を切ることがそれほどの大問題なのかとね。
で、つい言ってしまったのです。「私なら今から始めたってあっという間に追いつける」「1年で100を切ってみせる」と。

知り合いに練習場を紹介してもらい、翌春から通い始めました。誰にも教わらず、見様見真似の独学です。しかし、いざ始めてみると空振りする。あるいはダフる。飛ぶ飛ばない以前の問題でした。でもまあ今日は初回やし、と思って次の週に行くとまたダフる。お医者さん達は「どう?調子は」としきりに聞いてきます。

これはマズイと思い始めた私は、東京に出張するたび、○○ゴルフ入門といった本やらDVDやらを買い漁り、片っ端から見るようになりました。
すると、「レッスンプロによって言ってることが違う」ことに気づきました。「ということは、一番重要なのはなんやねん。共通項はなんやねん」と探究するのが俄然面白くなって、自分なりの練習方法を組み立てられるようになっていきました。

蔵王カントリーの入会を決めたのは始めて半年経った頃。1年で100切りの目標を達成するためにホームコースを持つことにしたんです。他に知らなかったし、周りのみんなも薦めるので蔵王一択でした。
その後、入会したボナリは蔵王と違ってリゾートの趣があり、景観も抜群。紅葉の時期は人気が高いので、見頃のピークにスタートをとるのは至難の業ですが、こちらも大いに気に入っています。

ボナリ高原ゴルフクラブ(城戸氏撮影)。左下=卒業生と。彼らとのゴルフは最高に楽しいです。右下=名物『会津地鶏の親子丼』。ボナリは和食も洋食もいけますが、なかでもこれはおすすめです。

100切りを飛び越して80台を出す

目標を達成した思い出のコース、磯子カンツリークラブ。

ゴルフ開始後1年間のリミットが近づいてきた2011年の2月、大アクシデントに見舞われました。競技スキーの練習中に転倒して右腕上腕骨を複雑骨折したのです。チタンプレートを入れ、骨がつながるまでゴルフは1年間お預け。半年は動かすのもダメと言われました。せっかく面白くなってきたところなのにそれでは筋肉が落ちるし関節も固くなる。第一、スウィングを忘れてしまいます。
そこで、3カ月でのラウンド復帰を目指して、退院後すぐに腕つり三角巾を外し、腕をぶらぶらさせることを自主的に選択。めでたく5月の連休には蔵王でラウンドしました。もちろん、それを聞いた主治医は呆れ果ててましたけど。

すると発見がありました。それは、人間の腕は非常に重いということ。こんなに重いものを振り下ろすのだからダウンスイングに力は要らない。っていうか、力も入れられませんでしたけど、単にストンと落として体をねじり戻せばヘッドは走ることに気づいたのです。まさに開眼でした。

磯子カンツリークラブ。左=ランドマークタワーを臨み、春は淡墨桜が美しい16番パー3。右=8番パー4。フェアウェイ左右とグリーン周りに大小15のバンカーが連なります。

数カ月後、友達からゴルフに誘われた私は二つ返事で身支度を整え、コースのある横浜へと向かいました。初めての磯子カンツリー。断るわけがありません。
当然、ドライバーは飛ばないので3オン狙いになるのですが、この安全運転が奏功してあれよあれよという間に前半40(!)。100も切ったことがないのに、ひょっとして70台か?と心がザワつきます。

私よりも遥かに上級者の友人達は少々危機感を感じたのか、はたまた純粋に私の快挙を喜んでくれたのか定かではありませんが、お昼に「よし、乾杯しよう」となりました。
私はラウンド中、絶対にビールを飲まないと決めていたのですが、気分がよくなっていたのと、かの有名な磯子の中華料理のおかげで「今日はええか」とお腹いっぱい。
後半はすっかり体が回らなくなり、OBも出て49のトータル89。ともあれ当初の目標を一気に飛び越え、1年で90切りを達成したのです。
おまけに後日、ゴルフに関する本を2冊も書くという、予想外のことまで起きたのでした。

食事の美味しいゴルフ場で真っ先に思い浮かぶのが磯子カンツリー。以前は新横浜にも点心の売店があり、妻に土産をよく買って帰りました。

私はビジネスも研究もゴルフも同じだと思うんです。まずゴールを設定すること。それができているかいないかで結果は大きく違ってきます。
そしてゴールにたどり着くまでのポイントは何か、そのために何をするか。仮説を立てながら1つずつ実践していくんです。漫然とボールを打つのではなくてね。で、失敗したら別の方法を試す。それを続ければ必ずゴールに行き着きます。
時には予期しなかったルートを開拓することもあり、それが発明や発見に結びついたりするんです。

旅好き&グルメ好き

ペブルビーチゴルフリンクス。海に突き出たグリーンに打っていく7番パー3は殊に有名(城戸氏撮影)。

以前から学会やら会議やらで出かけることが多く、アメリカから帰国したその足で成田で乗り換えて中国に行ったり、ヨーロッパに1泊3日で行ってきたこともありました。全然疲れないと言えば嘘になりますが、それほどヘトヘトにはなりません。多分それはちゃんと寝ているから。最近は若い頃よりも睡眠時間が長いくらいで、睡眠の質を上げれば免疫力も高まります。ちなみに照明はLEDよりも有機ELのほうが睡眠にいいんですよ。

そしてもう1つ、大事にしているのが食事です。どこかに出かける際は現地の美味しいものを必ず事前に調べます。だって、私の想定寿命が85歳とすると残り20年。人生であと24,860回くらいしか食事ができないんです。そう考えると一度たりとも疎かにはできません。

昔、暮らしていたニューヨークをはじめ、アメリカには行きつけの店が各地にあります。サンフランシスコには学会で20回は行ったでしょうか。その際、必ず立ち寄るのがHouse of Prime Ribというお店です。ここはまちがいなく全米一のうまさだと思います。
肉といえばすき焼きも外せません。好きすぎて、人類絶滅の日の前夜はすき焼きと決めています。下の写真は娘が京都の大学に合格したお祝いで連れて行っていただいた三嶋亭。京野菜といただくすき焼きは格別の美味しさでした。

左=京都の三嶋亭で娘の合格祝い。中=鰻もしばらく食べないと禁断症状が出るくらいの好物です。東北№1は郡山市の山尾。まちがいありません。右=サンフランシスコの名店、House of Prime Rib。

海外のコースで一番のお気に入りはペブルビーチゴルフリンクス。ここでゴルフができることを神様に感謝したくなるくらい、それは素晴らしいところです。これまでに2度行きましたが、とにかく絶景だし、18ホールそれぞれに個性があって、メンテナンスがよくて難しくて。すべてが揃っているんです。

国内では沖縄のサザンリンクスが大好き。ペブルビーチ同様、海ギリギリに造られていて戦略ルートにも大きく関わってきます。沖縄にはいいコースがいっぱいありますが、あそこはダントツです。
そしていつか行ってみたいのがオーガスタナショナル。死ぬ前に一度はと思っています。

左上=ペブルビーチゴルフリンクス(城戸氏撮影)。右上=ペブルビーチリゾート内のスパニッシュベイで。妻も同じ頃にゴルフを始めました。下=沖縄のザ・サザンリンクスゴルフクラブ。7番は豪快な海越えの名物ホールです。

春の山形 おすすめ情報
  • 山形城跡・霞城(かじょう)公園
    山形市街のほぼ中央、山形城の城跡を復原整備した都市公園。市内随一の桜の名所として人気があり、新幹線の車内や山形駅のホームからも花見ができる。見頃は例年4月上旬頃~中旬頃。
  • 天童温泉・倉津川の桜
    将棋駒の生産で知られる天童市内にある温泉街。春は倉津川の両岸約1.4kmに枝垂桜が咲き誇り、4~5月はライトアップも行われる。見頃は例年4月中旬頃~5月上旬頃。
  • 白川湖の水没林
    ダム湖が満水になる4月中旬~5月中旬頃限定の春の風物詩。新緑のシロヤナギが水の中から生えているような幻想的な風景が広がる。湖岸公園にはオートキャンプ場やパークゴルフ場も。
  • 蔵王温泉大露天風呂
    日本屈指の古湯の野趣と開放感にあふれた渓流露天風呂。強酸性硫黄泉の源泉掛け流しの湯を楽しめる。シャワーはなく石鹸、シャンプー等の利用不可。今季は4月22日営業開始予定。
  • サクラマス
    春の訪れを告げる山形県のシンボル魚。旬を迎える4~5月、最上川や赤川などで捕れるものは川マスと呼ばれ、脂の乗りが最高。写真は素焼きに茹でたニラを添えた郷土料理『ニラ鱒』。
  • 湯田川孟宗(ゆたがわもうそう)
    5月中旬に旬のピークを迎えるタケノコ。収穫から5時間以内の朝掘りの風味は格別。流通量はわずかだが、数多くの旅行客がこの味を求めて湯田川温泉を訪れる。
Find Information
蔵王カントリークラブ
18H 6336Y P72
開場/1961年 設計/三好徳行
東北初の18ホール。豪快な打ち下ろしや一級河川がフェアウェイを横切るホールなど蔵王山麓の自然を生かしたレイアウトで、コーライグリーンの手ごたえも十分。営業は3~12月予定。
ボナリ高原ゴルフクラブ
18H 7010Y P72
開場/2000年 設計/ロナルド・フリーム
標高850mの国立公園内にあるフラットな高原コース。海外のコースランキングにもたびたび名を連ねる。戦略性と景観に優れ、特に紅葉の頃の借景の美しさは圧巻。営業は4~11月予定。
磯子カンツリークラブ
18H 6607Y P72
開場/1960年 基本設計/館 粲児、改造設計/大久保 昌
横浜で60年以上の歴史を刻んでいる名門クラブ。手入れが行き届いたコースは絵のように美しいと評判。レストランの中華料理は中華街に寄る必要なしと言われるほどのクォリティを誇る。
ザ・サザンリンクスゴルフクラブ
18H 6311Y P72
開場/1988年 設計/㈱琉球リゾート
那覇空港から車で約50分、本島南部にある本格派シーサイドリンクス。切り立った断崖の上に18ホールが展開し、海越えショットも楽しめる。全室オーシャンビューのホテルを併設。
やまがたへの旅
山形県の公式観光サイト。スタイルに合わせた旅の提案やおすすめ情報が満載。