2018.10.10

[vol. 005]

夜更かしの愉しみ
栃木 / 矢板


旅するひと = 細田榮久

写真家。1973年にゴルフトーナメント取材を開始。以後、雑誌や広告を中心に活動。これまでに撮影したゴルフコースは国内外およそ400コースに上り、東京ゴルフ倶楽部、相模カンツリー倶楽部、小金井カントリー倶楽部、広島カンツリー倶楽部等のオフィシャルカメラマンも務めている。

ゴルフコースやプロゴルファーの写真を撮って45年。日本の300コース余り、海外は100コース余りを旅してきた。人からプライベートで行くならどこがいい? と聞かれることも少なくないが、最近はロペ倶楽部と答えている。そう、栃木県の、あの人気パブリックである。すると皆はたいてい拍子抜けをしたようになり、日本で言えば関西あたりの名門倶楽部とか、あるいは海外の隠れ家的なコースを答えてほしかったような顔をする。だが、のんびり旅する愉しさ、居心地のよさで言えば私は断然、ロペなのだ。

まず、着いた時の雰囲気がいい。門をくぐり、先のほうに見える灯りを頼りに薄暗い植え込みの中をそろそろと進むと、そこがエントランス。チェックインを済ませ、何はともあれ2階に向かえば、居酒屋の赤ちょうちんがずらりと並んで出迎える。仕事を終えて、車を飛ばして来た客のために遅くまで店を開けておいてくれるのだからここは楽しまなくちゃバチが当たる。駆けつけ3杯が4杯になり、5杯になっても心配はいらない。あとは部屋に戻って寝床に入るだけ。こちらも深夜0時までやっている温泉でひとっ風呂というのもいい。これがあるからロペに行く時は前泊に限るのだ。

提灯が灯り、風情たっぷりのエントランス。この建物を抜けた先のコース内レストランやホテルは一気に洋風になる造り。片や、姉妹コースのジュンクラシックカントリークラブは対照的に、ドイツの山荘風のハウスから和風の宿、茅葺屋根の食事処へ向かう洋→和の演出がされている。

和風レストランの内装は歌舞伎のイメージ。朝食、夕食、酒と季節の肴を手頃な値段で楽しめる。地酒も充実。
6:45~24:00(L.O.23:00)

別棟のワインハウス。勝沼にある自社ワイナリー、シャトージュンから届くオリジナルワインは土産としても人気。他にも世界のワインが揃う。
20:00~23:30

敷地内に湧出する温泉はロペの大きな魅力。夜、星を眺めて入る露天風呂は特におすすめだ。
6:00~24:00

宿泊施設はホテル棟もあるが、離れのメイプル・インやオリーブ・インをよく使う。シンプルな造りの低層の建物で、落ち着いて過ごすことができる。

ロペ倶楽部はジュンクラシックカントリークラブの姉妹コースとして1990年に誕生。開場年から7回にわたってツアー競技のジーン・サラゼン ジュンクラシックの舞台にもなった。池とバンカーの造形が美しく、ベント2グリーンを使い分けることでロケーションがガラリと変わる。当時としては斬新な造りで、本気で挑戦すれば今も十分に手応えを感じられるし、家族や仲間とリゾートゴルフを楽しもうと思えば誰もが気分よく遊べるようにできている。メンテナンスは上々、練習施設も充実の内容だ。

施設といいコースといい、これらはファッションメーカー、ジュンの創設者である佐々木忠氏のゴルフ好きが高じ、パブリックの理想を求めた結果、できあがったもの。氏は「欲しいものがないなら作ろう」の精神でメンズファッションに革新をもたらしたレジェンドである。

ロペでは昼食時、ハウスではなく9番の池を望むテラスレストランを利用するのだが、この建物を彩る調度品の数々はアメリカやヨーロッパから買い付けてきたと聞いたことがある。普段は目に触れないような裏手のほうまで手を抜かない空間づくりはお見事としか言いようがない。

現場を取り仕切ったのは佐々木氏の片腕としてジュンクラ、ロペ両コースの立ち上げに携わった前支配人の豊崎徹氏で、我々が仕事で訪れた際も実に手厚く接してくれた。

彼は以前私に「佐々木はね、サラゼンさんに出会ってからコース設計に目覚めてしまったんですよ」と話してくれた。いいものは何でも取り入れて形にしてしまう柔軟さは「ゴルフに関して我々が素人だったから」。常識では考えられないほど頻繁に行ってきたコース改造については「そのほうが楽しくなるから。理由は単純ですよ」とも言っていた。

名物の茶店のフリードリンクや風呂上がりのヤクルト飲み放題、そしてプレー後に靴を磨いてくれるサービスはいまだ健在。“おもてなし”なんて言葉がこれほど広まるずっと前からここでは客をもてなしてきた。秋は紅葉もちらほら見えてまた格別。日頃、ゴルフ場は仕事の現場として見ているが、ここに一歩足を踏み入れるとそんなことはすっかり忘れて休日モードに切り替わる。来月あたり、休みが取れたら家族を連れてまた行こうかと考えている。

アイランドフェアウェイが池に浮かぶ名物9番パー5。池を避けて迂回するルートを選択すればバーディの確率は高くなるが、やっぱりここは浮き島狙いだ。トーナメントでは最終18番として使用。グリーン奥はテラスレストラン。

サンタフェ調で統一されたテラスレストラン。館内の飾りや調度品の一つひとつにこだわりあり。

春~秋はところてん、冬はミニたい焼き。茶店のサービスは今も継続中

ロペは1日中いても飽きないし、食べ物も旨い。が、早く到着した日や2泊目に移動する日などは外に出ることもある。私は近所で食事をするなら蕎麦か寿司、あるいは名産の牛肉と決めている。このあたりは水がいいそうで、となれば当然、酒も優秀。なかでも天鷹という銘柄はおすすめだ。

寄り道先も水絡みで、塩谷町にある尚仁沢湧水はこの辺りでは有名な景勝地。全国名水百選のひとつで、美味しい水ランキングで全国1位になったこともあるという。もうひとつ、おしらじの滝はロペ倶楽部から車でおよそ1時間。コバルトブルーの滝壺が幻想的と近年人気急上昇中のスポットだ。ただし、滝壺はたいていいつでも見ることができるが、水が落ちる様子は水量の多い時期限定。今頃はたぶん流れていないのであしからず。付近は携帯がつながりにくいのでその点もご注意を。

また、矢板には鉱泉が点在。観光客向けの雰囲気はないが、秘湯好きにはおすすめだ。

Find Information
ロペ倶楽部
栃木県塩谷郡塩谷町大字大久保1859-1
18H・6,777Y・PAR74
栄鮨(さかえずし)
海の近くでもないのに寿司? と思うかもしれないが騙されたと思ってどうぞ。
矢板市片岡2096-78
11:00~14:00、17:00~22:00 木曜休(祝日営業)
無量庵(むりょうあん)
庭園を望む落ち着いた店内で蕎麦や会席料理を食べられる。
矢板市片岡2215-1
11:00~20:00 木曜休
レストラン ピアノ
肉ならここ。ブランド牛『たかはら矢板牛』のステーキを唯一食べられる店。
矢板市上町6-45
11:30~13:50、17:00~21:30 水曜休
天鷹酒造(てんたかしゅぞう)
1914年創業の酒蔵。土産の調達の他、蔵見学もできる(見学は要事前予約)。
大田原市蛭畑2166
9:00~17:00 元旦を除き無休
ともなりそば処 信生庵(しんじょうあん)
スタッフは地元の女性という素朴な店。営業時間が短いので注意。
矢板市川崎反町59-160
11:00~14:30 無休
Pickup Item

遠い地でゴルフをするときには、アクセントになる小物が欲しいですね。目立つデザインのネームプレートで話題を作ったり、久しぶりに会う友人に名前を入れてプレゼントするのもいいですね。