2019.4.10

[vol. 016]

人形をクラブに持ち替えて


旅するひと = 桐竹勘十郎きりたけ・かんじゅうろう

文楽人形遣い。1953年大阪生まれ。67年三世吉田簑助に入門。2003年に父の大名跡を継ぎ三世桐竹勘十郎を襲名。芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、日本芸術院賞など。定期公演の他、『子ども文楽』や『にっぽん文楽in明治神宮』など文楽の伝承・振興に精力的に取り組んでいる。また、画業においても才能を発揮、日本漫画家協会会員としても活動中。今年4、7、11月は大阪で国立文楽劇場開場35周年記念公演、5、9、12月は東京・国立劇場の文楽公演に出演予定。

大人の遠足。開田高原へ

ほぼ1カ月ごとに大阪と東京を行き来し、その間に地方や海外で公演。さらに文楽を広めるためのイベントも度々行っています。ゴルフができるのは大阪か東京近辺が主で、年に数回程度ですが、いつも行きたいなあという気持ちでいます。

大阪に僕のゴルフの師匠であり、かかりつけの歯医者さんでもある村上先生という方がいるのですが、先生にはいつも「あんまりラウンドも練習もしてないのに、いつも大体同じスコアやから大したもんや」と言われます。最近は、時間を見つけてはスウィングチェックをしているので、効果が少しは出ているのかもしれません。

先生には以前、弟弟子と一緒に誘われて、岐阜の木曽カントリー倶楽部に出かけたことがありました。眺めのいい高原のコースで、ロッジも付いています。泊まりがけのゴルフなんて、私達にとっては贅沢極まりない一大イベントでしたから、行きの特急列車に乗車した時から遠足気分です。車窓の景色をつまみに喉を潤し、食べて、ゴルフして、夜はカラオケで大はしゃぎ。ゴルフの旅はかくあるべしと満喫しました。

上の写真は御嶽山の麓に広がる開田高原(標高1100~1300m)。左上=特急しなの。木曽福島まで塩尻から約30分、名古屋から約80分の鉄道の旅を楽しめます。右上=木曽川と中山道37番目の宿場、福島宿の崖屋造りの家並み。左下=木曽谷の地酒『中乗(なかのり)さん』と『七笑(ななわらい)』。右下=御岳山を望む木曽カントリー倶楽部。

人形遣いは左手主導。グリップも似ています

文楽は足遣いと左手を担当する左遣い、首(かしら)と右手を動かす主遣い(おもづかい)の3人で1体の人形を操り、複雑な動きや微妙な心の動きを表現します。足と左に各10~15年修業を重ね、30年程すれば主な役を任されますが、修業は一生続きます。

主遣いになって気づいたことがあります。人形の胴体は中空になっていて、そこに左手を入れて首の下についている胴串を持ちますが、その時、重要なのが左手の小指と薬指。そう、ゴルフのグリップととてもよく似ているんです。種類によっては重さ10kgにもなる人形を長時間支えるので、主遣いの左の掌には大きなタコができています。時々、これをゴルフのタコと勘違いされる方もいらっしゃいますが、そんな時は「職業柄なんですよ」と釈明しています。

以前、人形を遣ってショットすることはできないかと考え、実際にやってみたことがありました。大阪で10年以上続いているコンペの始球式を人形で、本式どおり3人で操ったのですが、結果は大成功でした。いつものように人形のうしろに立っているとフィニッシュでシャフトが当たってしまうため、左遣いは屈んだ体勢で呼吸を合わせ、クラブを振るんです。立ち回りや踊りは数え切れないほどしていますが、クラブを握るのはもちろん初めて。でも、ヘッドアップもスエーもせず、なかなかいいスウィングができたと思います。

ホールインワンとキタキツネ

例年、秋は地方公演に行くことになっていて、私たちの班はおよそ2週間をかけて東北や北海道をまわります。人形遣いだけでも22、3人が行き、公演後に宿泊、翌朝移動というのがいつものパターンですが、移動が長距離だと移動日があります。

昨年10月の地方公演で札幌から仙台に向かう途中、移動時間に余裕のある日がありました。若手たちは早速、空港に近いシャムロックカントリー倶楽部を予約して、久しぶりに北海道のゴルフを楽しむことになったのですが、実はこのゴルフ場、私が10年ほど前に人生初のホールインワンをした場所なんです。思い出の7番ホールのティに再び立った時は感慨深いものがありました。距離は145ヤードであの時と同じ。風はほとんど吹いておらず、ピンポジションも変わらずほぼセンターに切られています。となれば、クラブは同じ7番アイアンを抜かないわけにはいきません。いざ構えると、周囲もかたずをのんで見つめているのが伝わってきて、徐々に緊張してくるのがわかります。覚悟を決めてスウィングすると、ボールは惜しくもグリーン右サイドのバンカーへ。そこで気が抜けてしまい、結局ボギーに終わりましたが、記念写真は忘れずに撮ってきました。

北海道のゴルフはやはり格別です。洋芝のフェアウェイが雄大に広がってOBもほとんどありません。以前、若手たちがサンパーク札幌ゴルフコースをプレーしていたら、キタキツネが姿を現したそうです。実を言うと私は自他ともに認めるキツネマニア。ゴルフ場でキタキツネを見たという話はよく聞くのですが、私はなぜかいまだ会えず、悔しい思いをしています。

若手たちの目撃情報をもとに、次の年は私も同行することにしました。とてもきれいなコースなのに、ショットとパットをしている以外はラフの向こうの林を凝視しているというありさまで、「次、兄さんの番です」と何度言われたことか。もちろん前後の組に迷惑をかけるようなことはしませんでしたが、そんな調子ですからスコアは崩すし、キタキツネには会えないしで心残りな1日になりました。今年の秋もまた札幌に行く予定があるので、今度こそはと思っています。もしも会えたら、ゲンのいい北海道ですからいいスコアで上がれそう。そんなことを考えています。

左上=昨年、再訪したシャムロックカントリー倶楽部、思い出の7番ホールにて。残念ながらこの時はホールインワンとはいきませんでした。右上=自作のコンペトロフィー。絵や立体など、狐をモチーフにした作品は数え切れないほどあります。左下=サンパーク札幌ゴルフコース。この林のどこかにキタキツネがいると思うとワクワクします。右下=新鮮な海の幸のごちそうは、北海道公演のお楽しみ。

Find Information
木曽カントリー倶楽部
御岳山の眺望が見事な標高1100mの高原コース。4月下旬のシーズンイン~爽やかな夏~紅葉の秋といった季節感はこのロケーションならでは。
長野県木曽郡木曽町開田高原末川3077
18H 7010Y P72
開場/1975年
設計/浅見緑蔵
木曽おんたけ観光局
“日本で最も美しい村”開田高原など木曽御岳の情報はこちら。
シャムロックカントリー倶楽部 新千歳空港コース
新千歳空港に最も近いゴルフ場(車で約10分)。高低差約5mとフラットで、各ホール変化に富んだレイアウトを楽しめる。
北海道千歳市柏台1390-3
18H 6872Y P72
開場/1984年
設計/梶谷穂月
サンパーク札幌ゴルフコース
石狩平野に雄大に広がる27ホール。フラットな地形に大小の池を配し、南コースは9ホール中5ホールが池絡み。
北海道北広島市富ヶ岡456
27H 10467Y P108
開場/1998年
設計/三井建設
文楽協会
人形浄瑠璃文楽の詳しい解説や公演スケジュールを掲載。
Pickup Item

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