2019.4.26

[vol. 017]

旅とゴルフとニュースの現場


旅するひと = 蟹瀬誠一かにせ・せいいち

国際ジャーナリスト、キャスター、明治大学国際日本学部教授。1950年石川県生まれ。米AP通信社記者、フランスAFP通信社記者などを歴任し、88年にTIME誌の東京特派員として帰国。91年からTBS『報道特集』など報道番組のメインキャスターとして日米経済摩擦、米国大統領選、東欧の公害、カンボジア情勢など国際ニュースを中心に取材。現在は『賢者の選択リーダーズ』(日経CNBCなど)メインキャスター。51歳からゴルフを始め、ベストスコアは73。

クラブライフ古今東西

普段は東京クラシッククラブでプレーすることが多い。オープン4年目とまだ新しいが、カントリークラブとしてのスタイルを貫いていて、広大な用地にニクラスが設計した7220ヤードのコース、その周りに国内では初となる乗馬施設(厩舎、放牧場、ホーストレッキングコースなど)やグランピング、菜園、子供たちの教育施設がゆったりと広がって、家族や仲間と共に楽しめる。

そんなカントリークラブの魅力に触れるたび、昔訪れたフォックスヒルズのことを思い出す。そこはヒースロー空港から11マイル(約18キロ)のサリーにあるカントリークラブ&リゾートで、400エーカーの敷地にマナーハウス、ゴルフコース、テニスコート、プール、スパ施設などが点在する。

今から17年前、娘(※女優・ダンサーの蟹瀬レナさん)のバレエ留学先を妻と見に行くための渡英だったが、私たち夫婦はちょうどその頃ゴルフを始めたばかり。帰りに2人で寄ってみようということになった。コースは18ホールが2つ。どちらもツアー競技の開催歴を持つ本格派である。

滞在中のある朝、スターティングホールに向かうと、前方に1組のご夫婦がラウンドしているのが見えた。朝もやの中を手引きカートで歩いて行く様はまるで映画のワンシーンのようだ。

ティの脇には小さな小屋があり、背中の曲がった老紳士が「ティタイムかい?」と中から姿を現した。ハンチングを被り、トラディショナルな服装に身を包んだそのスターター氏は、私を見るなり「では構えて」、「打ってごらんなさい」と言う。突然のことに驚きながら言われるままにティショットをすると、「君はまだここにはちょっと早いな」と呟いて彼は小屋に引き返して行った……。

飛距離自慢の幼稚園、
スコアにこだわる小学生、
景色が見えて中学生、
マナーに厳しい高校生、
歴史が分かって大学生、
友と群れ集う卒業生。

これは、夏坂健さんの本に書かれていた一節である。今の私は友と過ごす喜びを日々味わうまでに成長したが、当時の私は幼稚園か、あるいは小学生か。彼の眼にはどんな風に映っていたのだろう。

東京クラシッククラブにて。妻と共に50歳を過ぎてから始めたゴルフは現在も実力伯仲。

香港ゴルフクラブも印象に残るゴルフ場だ。1889(明治22)年にわずか7人のメンバーによって創設され、今年130周年を迎えたアジア屈指のクラブである。かつてはRoyal Hong Kong Golf Clubと呼ばれていたが、英国統治の終了によりRoyalが取れ、現在の名前になった。

香港は私にとって、1997年の返還時も取材をした思い出深い場所であり、それから10年ほどして、今度は取材でなくゴルフをする機会に恵まれた。回ったのは3コース54ホールある中で最も新しいエデンコース(1970年開場)。戦略性が高く、欧州・アジアンツアーが共催する香港オープンの舞台にもなっている。繁華街から30~40分で行ける名門コースは、ホールによって高層ビル群を望みながらのプレーとなり、これも一興だ。

クラブハウスは洗練された造りでダイニングの食事も素晴らしく美味い。英国スタイルのクラブに本格中華は一見ミスマッチのようだが、これがなぜかしっくりくる。私たちがテラス席で食べた飲茶の味も格別だった。ただ、隣のテーブルから株式投資の会話が聞こえてきたり、前の組のご婦人メンバーが2千万円もするアクセサリーを身に着けてプレーしていたと聞かされたりしたのには驚いた。当時の香港は景気拡大の真っただ中。中国の統制色も今ほど強くはなかった頃の話である。

写真はいずれも香港ゴルフクラブ。クラブハウスは威風堂々とした佇まい。雰囲気のいいダイニングルームで食べる食事もさすがの美味しさ。

宮古島でベルリンの壁と再会する

正月はこれまで何度か宮古島で過ごしてきた。宮古島東急に滞在し、エメラルドコーストでゴルフをするのがいつものパターン。ホテルでは琉球舞踊など正月の催しもあり華やかだ。

エメラルドコーストは沖縄エリアのゴルフ場の中でもトップクラスだと思う。全体にフラットだが戦略性が高く、何よりロケーションが素晴らしい。ハイライトは16番、海越えのパー4。バックから402ヤードとそれほど長くはないものの、風の影響もあってなかなか手強い。フェアウェイに食い込むエメラルドグリーンの海には私のボールも落ちているはずだ。

また、コースの隣には『まいぱり』という名の熱帯植物園があり、沖縄各島に原生する植物を観ることができる。のんびり散策した後に飲むマンゴージュースがなかなかの美味しさで、隠れた名物になっている。

上の写真はエメラルドコーストゴルフリンクスの名物、海越え16番。左上は宮古島東急ホテル&リゾーツ。空港から車で15分とアクセスも良好。その他の写真は熱帯植物園『まいぱり』にて。

宮古島で全く予期せぬ出会いがあった。といっても人物ではない。ベルリンの壁である。宮古島をよくご存知の方は「なーんだ、あれね」と思われるかもしれないが、『うえのドイツ村』という観光施設に実物が展示されている。

ブランデンブルク門前に設置されていた無傷の壁52個のうちの2つで、ドイツから寄贈されたものだという。高さ3.2メートル、幅1メートルに細長く切り取られた壁の片側(西側)はカラフルな落書きがあるが、反対の東側は灰色のコンクリート一色。しかも底部が長くL字型になっている。穴を掘って西側に逃亡するのを阻止するためだ。

1991年、東ヨーロッパや崩壊直後の旧ソ連を私は幾度も取材した。射殺されるなどして“壁の犠牲者”となった人は子供2人を含む136人。冷戦時代の暗黒の歴史が昨日のように蘇り、ドイツ分断と東西冷戦の象徴との遭遇に胸が熱くなる。ベルリンからも東京からも遠く離れた、平和な南国のテーマパークにその壁があるのは何とも不思議な光景だった。2000年、九州・沖縄サミットに出席したシュレーダー首相もここを訪れている。

ボナリ高原をプレー後、ダリを観る

あまりの美しさに感動したコースが国内にもうひとつ。福島・猪苗代のボナリ高原ゴルフクラブがある。安達太良山や磐梯山の百名山に囲まれ、かつて硫黄鉱山として栄えた土地にロナルド・フリームが設計した。コースから見る景色は紅葉の時期になるとさらに美しさを増し、クラブを振ることすら忘れるほどだ。

四季折々、ホールの向こうに見える景色に向かってクラブを振る。スコアのことはしばし忘れ、家族や仲間たちとその時間を共有する。これもまたゴルフの大いなる愉しみのひとつだと思う。

ゴルフの後のお愉しみはサルバドール・ダリのコレクションで知られる諸橋近代美術館。スポーツショップのゼビオ株式会社の創立者、諸橋廷蔵が収集した美術作品と美術館用地、建物を財団法人に寄付し、1999年に故郷である会津磐梯高原に開館した。ダリの絵画、彫刻、版画作品など約330点、印象派からシュルレアリスム期までの絵画作品約40点、英国現代作家パメーラ・クルックの絵画約30点を収蔵し、ダリのコレクションは米フロリダのダリ美術館、スペインのダリ劇場美術館に次ぐ規模を誇る。学芸員の方の丁寧な解説もわかりやすく、見応え十分だ。

大自然に囲まれて夏は快適。秋は圧巻の美しさと出会えるし、夜空の星を見上げて入る温泉も格別。日常を離れてゴルフと芸術に浸れる猪苗代は旅先におすすめである。2015年に行った時はゴルフ場近くの温泉旅館に宿を取ったが、客は私だけ。3.11の風評被害がまだ続いていることを痛感した。これまでも環境NPOの仲間たちと復興チャリティコンペを福島で開催するなどしてきたが、私たちのできることで引き続き力を合わせて応援していきたいと思っている。

上の写真と上段はボナリ高原ゴルフクラブ。ダイナミックなレイアウトで数々のコースランキングで上位に入る。下段は諸橋近代美術館。窓の外に美しい自然と庭園が広がる。

ちょっと寄り道 猪苗代
  • 達沢不動滝
    猪苗代新八景のひとつ。パワースポットとして知られ、東野圭吾原作の映画や大河ドラマのロケ地としても使われた。
  • 中ノ沢温泉
    単一口源泉湧出量日本一を誇る、強酸性硫黄泉の白濁湯が特徴の本格的な温泉。11の旅館が軒を連ねる。
  • 中ノ沢温泉名物
    日の出屋『天ぷらまんじゅう』と宝来堂製菓『かりっと揚げ饅頭』はそれぞれ食感が異なりクセになる味。土産に最適。
  • 十割蕎麦
    蕎麦の里と謳うほど猪苗代は蕎麦が有名。打ちたてを町内のいたるところで食べられる(写真は芳本茶寮。わっぱめしとのセット)。
  • 磐梯フィッシングロッジの限定ラーメン
    猪苗代の釣り堀が『なんでんかんでん』とコラボ、期間限定で食べられるラーメンが大人気。不定期メニューのため要問合せ
  • 猪苗代エリア
    詳しいマップはこちらから
Find Information
東京クラシッククラブ
全長7220Y、IP280Yとして設計当初から計画。どのホールにもニクラスの設計思想が活かされている。プレーはメンバーの同伴が必要。
千葉県千葉市若葉区和泉町365
18H 7220Y P72
開場/2016年 設計/ジャック・ニクラス
Foxhills Country Club & Resort フォックスヒルズ カントリークラブ&リゾート
美しい自然に囲まれたコース。マナーハウス(全70室)に泊まるステイ&ゴルフのパッケージプランは350ポンド(約51,000円)~。
Foxhills Stonehill Road, Ottershaw, Surrey KT16 0EL, England
36H 13642Y P145
開場/1975年
Hong Kong Golf Club 香港ゴルフクラブ
クラブ創設は1889年。アジアきっての名門クラブだけあって、グリーンフィも1,900香港ドル(約27,000円)と高級。
Lot No.1 Fan Kam Road, Sheung Shui, New Territories, Hong Kong
エデンコース:18H 6106Y P70
開場/1970年 設計/ピーター・トムソン
宮古島 東急ホテル&リゾーツ
宮古島を代表するリゾートホテル。ゆったりと設計された客室バルコニーで過ごすサンセットタイムも格別。
沖縄県宮古島市下地字与那覇914
エメラルドコーストゴルフリンクス
東洋一美しいと言われる前浜ビーチの景色を満喫できるシーサイドコース。自然の入り江を越えて打つ16番など絶景ホールが連続。
沖縄県宮古島市下地字与那覇1591-1
18H 6912Y P72
開場/1988年 設計/宮澤長平
まいぱり
エメラルドコーストゴルフリンクスに隣接する熱帯果樹園。
沖縄県宮古島市下地字与那覇1591-1
10:00~17:00 水曜定休
うえのドイツ文化村
明治時代に上野村民がドイツの難破船を救助したゆかりの地に建つテーマパーク。
沖縄県宮古島市上野宮国775-1
9:00~18:00 火曜定休
ボナリ高原ゴルフクラブ
標高850メートルの高原に展開するドラマチックなコース。断崖越えの3番パー5はモンスターホールとして有名。
福島県耶麻郡猪苗代町沼尻2855
18H 7010Y P72
開場/2000年 設計/ロナルド・フリーム
諸橋近代美術館
貴重なコレクションを裏磐梯の美しい景観の中で鑑賞。2019-2020年は開館20周年記念展を開催。
福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093-23
9:30~17:30 10月下旬~4月上旬冬期休業
猪苗代観光協会
猪苗代のさらに詳しい情報はこちら。
Pickup Item

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