2019.5.16

[vol. 018]

マスターズが教えてくれたこと


旅するひと = 村口史子むらぐち・ふみこ

プロゴルファー。1966年東京都出身。OL生活を経てプロゴルファーを目指し、千葉CCに入社。90年春プロテスト合格。デビュー戦で最終日に8バーディ2ボギーの66で回り8位となり注目を集める。翌年初優勝。99年には年間3勝を挙げ、初の賞金女王の座に輝く。2004年、シード権を獲得しつつも最終戦終了後レギュラーツアーから電撃的に引退。現在はレジェンズツアー参戦、トーナメント解説、千葉テレビ『村口史子のグッドゴルフ』などレッスン番組への出演、コラム連載など様々な分野で活躍中。2017年よりオノフ契約。

オーガスタナショナルでラウンド!

マスターズで13番をプレー中のペイン・スチュワート

これまで世界各国のゴルフ場を見てきましたが、1999年に訪れたオーガスタナショナルは今も忘れられません。マスターズ開催週に現地に入り、オーガスタ市内の豪邸を1棟丸ごと借りて、そこを拠点に観戦したり、近郊のゴルフ場でプレーしたり。もちろん完全オフで1週間過ごすという夢のようなお話です。

トーナメント終了後、メディアやスポンサーなどの関係者にコースを開放する日があり、当時お世話になっていた企業の皆さんに誘っていただき実現しました。すでに女子ツアーは開幕していましたが、4月の第2週はたまたま試合のないオープンウィーク。オーガスタをプレーできるなんて滅多にないことですから喜んで参加させていただきました。

成田からアトランタまでおよそ13時間、そこからさらに東へ約150マイル(約240km)車を走らせてようやく到着するオーガスタは、ジョージア州でアトランタに次ぐ歴史がある都市です。 ガーデン・シティと呼ばれるだけあって緑がとても豊かで、川沿いの中心街や公園はゆったりとした時間が流れていました。もっとも私達は1週間のうち2日間は近隣のゴルフ場をラウンド、マスターズ最終日を観戦して翌日、オーガスタで1ラウンドというスケジュールでしたから、街歩きを楽しむ余裕はほとんどありませんでした……。

オーガスタの街並み

あの有名なマグノリアレーンを抜け、白亜のクラブハウス、そしてコースへ。オーガスタナショナルはまさに『世界で最も美しいゴルフ場』でした。目の前に広がる景色はテレビの何倍も鮮やかで、芝の緑とカラフルな花、バンカーの白が見事なコントラストを描いています。コース内の樹木は目を見張る大きさで、1934年から続くクラブの歴史を感じさせました。

私たちは10番からのスタートでした。マスターズでも難度が高いホールとして知られるパー4のティに立った時のゾクゾクした気分は今もはっきりと覚えています。普段はまったく信心深くない私でさえ、もしかしたらゴルフの神様はここにいるのかも!?と思えたほど、幸せな瞬間でした。

ガラスのグリーンと形容される高速グリーンの洗礼も受けました。最終日の翌日でしたからたぶんまだ刈っていなかったと思うのですが、それでも出だしホールのファーストパットをグリーンからこぼしてしまったのには、打った本人もびっくりでした。

オーガスタナショナル13番ホール

この年のマスターズはホセ・マリア・オラサバルが5年ぶり2回目の優勝を飾り、2位にデービス・ラブⅢ、グレッグ・ノーマンは3位でまたしても優勝ならずという結果でした。私達は18番のグリーンサイドにある関係者席から優勝争いを観戦することができたのですが、個人的に最も印象に残ったのは上位の選手ではありませんでした。

それは、決勝に進んだ56人中52位タイに終わったペイン・スチュワートでした。11番を歩いて観戦していた時のことです。セカンド地点に選手がやってくるのが見えました。スチュワート選手はトレードマークのニッカボッカ姿だったので、遠くからでもすぐに彼とわかります。

11番は左サイドの池に向かってグリーンが傾斜しているタフなパー4。アーメンコーナーの入り口です。慎重にグリーンをとらえたいところですが、彼の放った第2打はグリーンに届くどころか、ありえないほど低く出てそのまま池へ。明らかなミスショットでした。あれほどの一流選手でもこんなミスをするのかと私は驚きました。その後も何ホールか付いてまわりましたが、彼は表情ひとつ変えず淡々とプレーを続けています。その姿を見るうちに私は「下手くそな自分が少々のミスでカリカリするなんておこがましい」と考えるようになっていました。

マスターズの2カ月後、パインハーストで行われた全米オープンでスチュワート選手は劇的な優勝を飾りました。そしてその年の秋、飛行機事故に遭い、帰らぬ人となったことを私はニュースで知りました。

帰国後、再びツアーに戻った私は5月のヤクルトレディースと中京テレビ・ブリヂストンレディスオープンに優勝し、8月の新キャタピラー三菱レディースにも勝って年間3勝を挙げ、初めて賞金女王になることができました。これには、ミスをしても気持ちをコントロールできるようになったことが少なからず関係していると思います。

上段=オーガスタのダウンタウンの風景、下段=オーガスタナショナルにて

レジェンズツアーのお楽しみ

90年代は全米女子オープンやナビスコ・ダイナ・ショア(現・ANAインスピレーション)などの海外メジャーにも出場する機会を得ました。アメリカのコースは西海岸と東海岸で芝の質がまったく違うので戸惑いましたが、難しい状況のショットやアプローチに対しては、たとえ寄らなくてもギャラリーの方たちが拍手をしてくれる。目が肥えている人が多いと感じました。

現在はテレビ中継の解説やレッスン番組に出演しながらLPGAレジェンズツアーの試合にも出場しています。昨年はロイヤルリザム&セントアンズで行われた全英リコー女子オープン、一昨年はKPMG女子PGA選手権(イリノイ州・オリンピックフィールズCC)や全米女子オープン(ニュージャージー州・トランプナショナルGCベッドミンスター)にラウンド解説者として行きました。海外メジャーの会場は常に張り詰めた空気が漂っていて、練習場で選手をレポートするのも気を遣います。

今年も8月に全英女子オープンの解説でイングランドのウォーバーンGCに行く予定です。ウォーバーンGCはアリヤ・ジュタヌガン選手がメジャー初優勝を飾った16年大会と同じコース。仕事先ではたいていゴルフ場とホテルの往復で街を見る余裕はないのですが、3年前はロンドンの老舗デパート、ハロッズに1時間だけ立ち寄ることができました。

そして6月にはレジェンズツアー(LPGAシニアトーナメント)が始まります。今年は10月末の公式戦まで4試合が開催される予定で、私もできる限り出場したいと考えています。

なかでも6月5・6日のふくやカップマダムオープン(福岡雷山ゴルフ倶楽部)と10月26・27日の火の国レジェンズオープン(くまもと城南カントリークラブ)、10月31日~11月2日の公式戦、LPGAレジェンズチャンピオンシップ CHOFUカップ(下関ゴールデンゴルフクラブ)は過去にも出場しているなじみのある大会です。

下関も九州も美味しいものが多いので試合後の食事も楽しみ。美味しいお店の情報はちゃんとインプットしてあります。情報源は友人のたに ひろえさん。お手製のスクラップブックをもとにグルメ本を出版したほどの食通プロですから、試合で一緒になると知り合いのお店に必ず連れて行ってもらうんです。今年もひろえちゃん情報を頼りに満喫してきたいと思っています。

上の写真は現在使用しているクラブとレジェンズツアー、ふくやカップマダムオープンのトロフィ。上段左=昨年のふくやカップマダムオープンにて。右=たにひろえさん推薦! 福岡のお気に入り店『平尾 開』。新鮮な魚介や郷土料理を味わえます。下段左=昨年の火の国レジェンズオープンにて。右=熊本市内のおすすめは『五郎八(いろは)』。小さな居酒屋さんですが、馬刺しやホルモン焼きは絶品です。

ちょっと寄り道 熊本
  • 熊本城
    震災から3年半ぶりとなる熊本城の一般公開(特別公開)をいよいよ再開。第1弾は2019年10月5日~。天守閣完全復旧・内部公開となる第3弾は2021年春を予定。
  • 花の香酒造
    明治35年創業の酒蔵。今年オープンした花の香ギャラリー『花回廊』(写真)ではテイスティングバーを併設。蔵限定品も販売。
  • くまモンスクエア
    熊本県の営業部長、くまモンの活動拠点。熊本県の観光・物産情報も発信している。タイミングが合えば本人にも会える。
  • 浜田醤油
    阿蘇山系の豊かな水を使い、作られる熊本醤油の老舗。食材により甘さのレベルを使い分けるのが熊本流。
  • 御輿来(おこしき)海岸
    日本の渚百選。干潮時と日の入りが重なる日は特に美しく、夕陽に照らされた絶景を楽しめる。次回チャンスは6月8日、7月7日。
  • 下福良の棚田
    知る人ぞ知る美しい棚田。遠くに山々を望み、水が張られた時期は特に夕陽が映える景色を求めて写真家が訪れる。
  • 太平燕(タイピーエン)
    見た目はチャンポン、でも麺はヘルシーな春雨を使用。熊本県民に愛されるソウルフード。1934年創業の『紅蘭亭』は元祖といわれる店のひとつ。
  • 菊鹿ワイナリーAIRA RIDGE
    菊鹿シャルドネなどで知られる醸造所内に昨秋オープン。レストランやカフェの他、試飲カウンターのあるショップも。
Find Information
福岡雷山ゴルフ倶楽部
福岡天神から35分。雷山(らいざん)の麓に広がる景観のいいコース。コース内には99年にタイガー・ウッズが来場した際の飛距離ポイントも表示。
福岡県糸島市川原807
18H 6905Y P72
開場/1996年
設計/ポリテクニックコンサルタンツ 谷平 考
コースアドバイザー/倉本昌弘
平尾 開(かい)
福岡市中央区平尾の裏通りにある隠れ家的和食店。糸島の鮮魚を味わえる。
福岡県福岡市中央区平尾3-17-7 TYビル2F
17:00~23:00(L.O.22:00)。火曜定休
くまもと城南カントリークラブ
熊本市中心部から30分。全体にフラットな地形を活かした雄大なレイアウトで距離もたっぷり。系列の城南天然温泉旅館では良質なお湯を楽しめる。
熊本県熊本市南区城南町藤山1660
27H 10700Y P108
開場/1992年
設計/小笹昭三
五郎八(いろは)
水前寺公園駅から徒歩1分。馬刺し、ホルモン焼きが新鮮で美味しいと評判の店。予約がおすすめ。
熊本県熊本市中央区水前寺公園4-21
12:00~14:00、17:30~23:00 日曜定休
熊本県観光連盟
熊本の詳しい情報はこちらから。
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村口プロにご愛用いただいている商品の紹介です。ファッショナブルな大人の組合せですよ。