2019.10.1

[vol. 023]

二度、行きたくなるコース


旅するひと = 池井戸 潤いけいど・じゅん

作家。1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。1998年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)、「花咲舞」シリーズ(『不祥事』『花咲舞が黙ってない』)、『空飛ぶタイヤ』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『民王』『陸王』『アキラとあきら』『ノーサイド・ゲーム』などがある。ゴルフ歴12年、ベストスコア78。

空との相性

秋のシーズン真っ盛り、天気予報では絶好のコンディションになるはずが……。朝まで冷たい雨が降り、すっかり冷え込んだ福岡県・古賀ゴルフ・クラブにて。写真/小林 司

これまで全国津々浦々でゴルフをしてきました。ゴルフ雑誌『ワッグル』に旅のエッセイを連載していることもあり、都市圏を除けば、足を延ばしていない県を探すのが難しいほどです。
とくに思い出に残っているのは過酷な条件下でのラウンドです。北海道で体験した物凄い霧の中でのゴルフ。高知では17番まで順調だったのに18番で突然の豪雨に見舞われ、1ホールを残してリタイアしたことがありました。宮古島では巨大扇風機が目の前で回っているような猛風の中でプレーを敢行したこともありますし、大分には2回行って2回とも大雨で18番まで回れなかったゴルフ場もあります。

もうおわかりでしょう。僕がゴルフに行く日は天候に恵まれないことがとても多いのです。だからプレー日が近づくと、今度は大丈夫だろうかと気を揉みます。ただ、こんなふうに不完全燃焼に終わったコースはなぜか記憶に残ることが多いのも事実。いつかもう一度、という気持ちにさせられます。

夏泊で倍返し

スコットランドの気候風土に酷似した北緯41度の半島に展開する夏泊ゴルフリンクス。個性的なホールが連続し、コースレートは74.2を誇る。写真/小林 司

タフなコースにメタメタにやられ、いつかもう一度、と誓っていたのが青森の夏泊ゴルフリンクスでした。ここは僕が知っている中でも指折りの美しいゴルフ場ですが、初めて回った6年前は芝保護のためフェアウェイまで伸ばしていた時期にあたったこともあり、それは痛い目に遭いました。

「次回の連載は夏泊にリベンジしに行きませんか?」と『ワッグル』の編集長から誘いを受けたのは一昨年のことでした。それまでの4年間のうちに、僕はスイングをダウンブローに変えていたので洋芝対策は万全です。粘り着く長い芝にいいようにやられた前回とは違うのです。「望むところ」と快諾しました。

迎えた当日、意気込んでスタートしたものの前半は調子に乗れず終了。しかし、ドラマは終盤に待っていました。湾に向かって打ち下ろす16 番パー5で僕は200ヤード近い3打目を乗せてパーを拾い、続く海沿いの名物ショート17 番では少々薄い当たりのショットがピンそばに寄ってラッキーバーディ。最終ホールはフェアウェイ右サイドからの2打目がたまたまピンに寄って連続バーディ。まさにミラクルでした。

容赦なく打ちのめされた6年前のあの日、求められた色紙に僕は、悔し紛れに『次回 倍返し!!』と書きました。まだクラブハウスの目立つ場所に掲げられていたその色紙を「もうしまっていただいてけっこうですよ」と支配人の最上さんに伝え、夏泊をあとにしたのでした。

お気に入りの宿『割烹旅館さつき』。温泉に浸かって新鮮な海の幸を堪能、静かでゆったりとした時間を過ごすことができる。

夏泊の話をしたら、浅虫温泉の『割烹旅館さつき』に触れないわけにはいきません。ちょっとひなびた感じが気に入って、もう何度も通っています。夏の朝など布団の中でまどろんでいると、仕入れから帰って来たバイクの音が遠くから微かに聞こえてきたりして、まさに正統派というべき日本の風情を味わえるんです。 温泉がいいし、獲れたての海鮮で腕をふるった晩餐も文句なし。ある時、僕の大好きな帆立を女将さんがゴルフ場に差し入れてくれたことがあり、あれには感動しました。家族経営のこぢんまりとした宿ですが、ゴルフを抜きにしてでもまた行きたくなる場所です。

二つの名門

樹齢を重ねた松がホール間をセパレートする古賀ゴルフ・クラブ。写真は9番パー4(419~300Y)。フェアウェイとグリーンまわりに配したバンカーが難度を高めている。

この次、リベンジをしに行きたいコースといえば、古賀ゴルフ・クラブでしょうか。この10月に3度目の日本オープン開催が予定されている九州きっての名門です。過去の優勝スコアは1997年がクレイグ・パリーの2オーバー、2008年は片山晋呉の1アンダーと、難易度の高さが際立ちます。普段は80台で回る僕の知り合いからも、まったく歯が立たず、あっという間に100叩いたと聞いていました。

訪れたのは昨年10月。その日もやっぱり雨が降っていました。初めて目にした古賀は、落としどころを絞り込んだフェアウェイ、小振りの砲台グリーンとそれをガードする深いバンカー。そして海からの風と、すべてが揃っていました。2打目でグリーンを狙うにはどこにティショットを置けばいいのか、どう攻略するのか、ゴルフ脳が試されます。

グリーンの芝も強く印象に残りました。当日の使用グリーンはベントから替えたというバミューダグリーンだったのですが、この芝がまた手強い。予想をはるかに超える転がりのよさで、出だしホールは下り約3メートルを1メートル以上オーバー。「しっかり練習してから出直してこい」と言われたようでした。

仙塩ゴルフ倶楽部 浦霞コースのクラブハウスは1952(昭和27)年に完成した建物。和食を中心としたレストランの料理は手作りの“おふくろの味”。どれも美味しいと評判だ。

最後に気になるコースをもうひとつ。宮城県の仙塩ゴルフ倶楽部浦霞コース。あの日本酒『浦霞』の醸造元が運営する東北最古のゴルフ場です。 重機を入れずに造成された9ホールは山岳コース並みの高低差と複雑なアンジュレーションがあり、攻略できそうで攻略できないもどかしさに挑戦意欲が掻き立てられます。

さして距離があるわけではありませんが、仙塩は実に面白いコースです。あの、味のある手作り感。戦前の町役場のような佇まいの古風なクラブハウスも居心地のいい場所でした。ここもまた文句なしに二度訪れたくなるゴルフ場のひとつです。(談)

協力/ワッグル

ちょっと寄り道 塩釜~石巻
  • 松島佐勘 松庵
    松島の絶景を望める落ちついた宿。行き届いたおもてなしと料理が素晴らしい。
  • 浦霞 酒ギャラリー
    県内限定の浦霞製品や宮城県在住の作家の酒器などを展示・販売。スタッフによる蔵ガイドも実施(事前予約制、参加費無料)。
  • 石ノ森萬画館
    仮面ライダーやサイボーグ009などで知られる石ノ森章太郎のミュージアム。貴重な原画や作品世界を立体的に再現した展示も。
  • 塩釜料理 翠松亭
    塩竃港に揚がった新鮮な海の幸を堪能できる、地元でもおすすめの店。
  • 丹六園
    塩竈神社の門前。享保5年(1720年)創業の老舗菓子店。銘菓『志ほがま』は塩釜土産の代表格。
  • 塩釜水産物仲卸市場
    店舗数と種類の多さで東北最大級。鮮魚や加工品などが揃う。ショッピングは午前中がおすすめ。
Find Information
夏泊ゴルフリンクス
18H 7192Y P72
開場/1992年 設計/海老原寿人
青森市街から約1時間。陸奥湾に突き出た半島の北端、三方を海に囲まれた丘陵地に展開する超本格派リンクス。95年に日本プロが開催された。
割烹旅館さつき
部屋数8室、定員約20名の小さな宿。毎朝、板長が仕入れてくる季節の食材を使った料理が評判。
古賀ゴルフ・クラブ
18H 6820Y P72
開場/1953年 設計/上田 治
玄海灘に面した屈指のシーサイドコース。2011年、国内で初めてバミューダ(Bグリーン)を18ホールに全面採用した。3度目の開催となる日本オープンは10月17日~。
仙塩ゴルフ俱楽部 浦霞コース
9H 2889Y P36
開場/1935年 設計/赤星四郎
「東北にもゴルフ場を」と佐浦家11代当主佐浦菊次郎が赤星四郎に設計を依頼して昭和10年開場。ラウンドは全組歩き。塩釜駅から約10分。
みやぎ観光NAVI
宮城観光の詳しい情報はこちらから。
Pickup Item

旅の途中のゴルフ。ボストンバッグは一足早く、送ってしまってもいいし、旅のバッグとして活用しても。オノフのボストンバッグは豊富なラインナップです。