2019.10.28

[vol. 024]

楽園・バミューダの休日


旅するひと = 後藤陽次郎ごとう・ようじろう

デザインプロデューサー。1946年生まれ。博報堂を経て株式会社デザインインデックスを設立し、商品開発、広告制作、空間デザインなど幅広い分野で活躍。1994年に『ザ・コンランショップ』を日本に導入。以来スーパーバイザーとしてショップ全体の監修を行う他、CF『ペプシマン』、ホテル『二期倶楽部東館』(栃木・那須)、ゲーティッド・ゴルフコミュニティ『富津ブリストルヒル』(千葉・富津)などのプロジェクトを手がけてきた。ゴルフ歴約40年、最高ハンディ10。

絶景を独り占め

ポートロイヤルGCの絶景ホール。グリーンの奥に鮮やかなグラデーションを描く海が広がる。撮影/後藤陽次郎

今から10年ほど前、コンランさん(※Sir Terence Conran=世界を代表する家具、インテリアデザイナーであり、レストラン、ホテル、ザ・コンランショップのオーナー、著述家)のお嬢さんの結婚式に呼ばれました。招待状に書かれていた場所はなんとバミューダの高級リゾート。北大西洋に浮かぶ小さな島にありました。

バミューダ諸島はイギリスの海外領土のひとつです。欧米では保養地として人気が高く、豪華客船クルーズの寄港地にもなっています。ロンドンから空路約7時間、ニューヨークやワシントンD.C.からなら2時間ほどで行けるのですが、日本からは米国内で乗り継いで、丸1日たっぷりかかります。しかし、めったに行く機会のない場所です。出席の返事を出し、早速チケットを手配することにしました。

私以外の出席者はほとんどがファミリーという結婚式は、とてもあたたかな雰囲気の中、行われました。パーティのあとは3日ほど自由時間があり、皆、思い思いのバカンスを楽しむことになっています。そこで私は1人でのんびりゴルフをしようと思い立ちました。なにしろ英国領のリゾート地ですから、島にはゴルフ場がいくつもあります。ホテルでおすすめの3コースを手配してもらい、3日連続でラウンドすることにしました。

左上=客船の寄港地、キングスワーフ。周辺はレストランや店が建ち並ぶ。右上=リデルズベイG&CCのドライビングレンジ。左下=滞在したヴィラの庭先にはハンモックが。右下=ラウンド中に出会ったアメリカ人夫婦と。

ゴルフをしないコンランさんから「付き合えなくて残念だけど、楽しんできて」と送り出され、まず向かったのはバミューダきっての本格派、ポートロイヤル・ゴルフコースでした。米ゴルフダイジェスト誌で世界最高のパブリックゴルフコースのひとつにランクされ、2009年から6年間にわたってPGAグランドスラムの舞台にもなったコースです。また、この2019-2020シーズンからは新設トーナメントのバミューダチャンピオンシップを開催することが決まっているそうです。

ポートロイヤルはコースもハウスも隅々まで手入れが行き届いて快適でした。ラウンド中、目に飛び込んでくるエメラルドグリーンとブルーの海は言葉では言い尽くせない美しさで、グリーンに上がってもパッティングをするのを忘れ、呆然と見惚れていたこともしばしばでした。次の日からは、1922年開場とバミューダで最も歴史のあるリデルズベイ・ゴルフ&カントリークラブと、古都セントジョージにあるリゾート内のコース、セントジョージズ・ゴルフ&カントリークラブをプレーして、楽園での1人ラウンドを満喫しました。コースはどこも空いていて貸し切り状態。実に贅沢な時間を過ごすことができた3日間でした。

心を豊かにするデザイン

ブリストルヒルGCのゲート。ここにもトウキョウサンショウウオのシンボルマークをあしらった。

インテリア、グラフィック、プロダクトなどのデザインやプロデュースをしている仕事のせいでしょうか、どこへ出かけて行っても施設のディスプレイやサインのデザインが気になります。ゴルフコースをラウンド中も目に付いたものは何でも写真を撮るのがクセになっていて、バミューダでもクラブのマークがデザインされたピンフラッグやティマーク、コース内に置かれたベンチ、ユニークな形の立ち木、色とりどりのトロピカルフラワーなどをカメラに収めてきました。

あるゴルフ場で見かけたベンチはメンバーからの寄贈によるもので、クラブや親しい人へのメッセージを刻した小さなプレートが埋め込まれていました。このようなメモリアルベンチは英国の庭園によく見られ、ロンドンの王立植物園、キューガーデン(1759年創立。世界遺産)が発祥とされています。この素敵な習慣を私もいつか取り入れたいと考えていました。

後年、私は東京クラシッククラブ(千葉県千葉市)でインテリアの家具をプロデュースすることになり、長年温めていたアイディアを実現することができました。皆さんも東京クラシックでメモリアルベンチを見かけたらぜひ腰かけてみてください。心和むひと時を過ごしていただけると思います。

上段・左下=ピンフラッグやメモリアルベンチ、コース内の立ち木などを今後の参考に。バミューダのゴルフコースをラウンド中に撮影した写真ストックから。右下=ブリストルヒルGCのクラブハウスレストラン。

2009年の秋にオープンした千葉県の富津ブリストルヒル ゴルフ&レジデンスでは、総合プロデューサーとしてクラブハウスの建築やインテリアデザイン、ディスプレイ、サインデザインなどを担当しました。クラブのシンボルマークに選んだのはトウキョウサンショウウオ。絶滅危惧種に指定されている体長10センチ程の両生類です。ブリストルヒルのおよそ43万坪もの広大な敷地には自然観察エリアがあり、この小さな生き物が生息しています。その環境を維持しながら人が暮らし、楽しめる空間を演出する。これまで各地を旅し、見聞きしてきた経験はこんなところにも役立っていると思います。

旅の目当て

その時季やその土地の味を満喫するのも旅の楽しみのひとつ。

これまで訪れたゴルフ場のシンボルマークの中でも、私が特に気に入っているのが香港ゴルフクラブのドラゴンのマークです。1997年の返還時にロイヤルの称号が取れましたが、基本的なデザインはそのまま。これが何とも格好よく、キャップやポロシャツはロイヤルが付いていた時代のものからコレクションし、実際にコースで着ています。

香港ゴルフクラブにはメンバーの友人がいるので、秋から冬にかけ、キャディバッグ持参で訪れるのが恒例になっています。1889年に創設されたアジア有数の名門クラブは、コースはもちろんクラブハウスの雰囲気もよく、テラスやラウンジなどでまさに至福のひとときを過ごせます。

ゴルフのあとはジュエリーデザインをしている妻に付き合って、ジェイドストリート(翡翠通り)をそぞろ歩くのも楽しいものです。マンダリンオリエンタルの最上階にある広東料理レストランではそろそろ上海蟹がメニューに載る季節。これもまた旅の目当てのひとつです。香港が早く落ち着いて、また訪問できるよう願っています。

上段・左下=香港GCにて。ハウスは1911年に造られた歴史的建造物。右下=マンダリンオリエンタル香港の広東料理レストラン、文華(マンワー)。料理はもちろん、内装デザインの素晴らしさでも知られている。

Find Information
Port Royal Golf Course
ポートロイヤル・ゴルフコース
18H・6539Y・P71
開場/1970年 設計/ロバート・トレント・ジョーンズSr.
バミューダ諸島を代表する高級パブリック。USPGAツアーの新設トーナメント、バミューダチャンピオンシップは10月31日~11月3日開催予定。
Bristol Hill Golf Club
ブリストルヒル ゴルフクラブ
18H・7020Y・P72
開場/2009年 設計/ロドニー・ライト
ゴルフコースにレジデンスが点在。ゲーティッド・ゴルフコミュニティの中にある18ホール。都心からおよそ1時間。
Hong Kong Golf Club
香港ゴルフクラブ
エデンコース:18H 6106Y P70 開場/1970年 設計/ピーター・トムソン
オールド・ニュー・エデンの3コース54ホール。欧州・アジアンツアーの共催競技、香港オープンは11月28日~12月1日開催予定。
Mandarin Oriental Hotel Hong Kong
マンダリンオリエンタルホテル香港
香港島・中環(セントラル)地区にある5つ星ホテル。ミシュランの星を獲得した3つのレストランなど食も充実。
香港政府観光局
香港の情報はこちらから。
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今年は季節の進みが早そうです。初冬までの支度がそろそろ必要なようですね。