2020.5.18

[vol. 032]

ハンディ18のゴルフを遊ぶ


旅するひと = 石津祥介いしづ・しょうすけ

1935年岡山県出身。ファッションディレクター、石津事務所代表。明治大学文学部中退後、桑沢デザイン研究所を卒業。その後、婦人画報社『メンズクラブ』編集部を経て1960年、株式会社ヴァンヂャケット入社。創業者の父・石津謙介氏と共に創り上げたVANが黄金期を迎え、1965年の著書『TAKE IVY』はアイビースタイルのバイブルと称された。日本メンズファッション協会常務理事、日本ユニフォームセンター理事を歴任。ボタンダウンクラブ主宰。ゴルフ歴55年、ベストスコア79。

コンペ旅行の3つのルール

何度も通った栃木県のゴールド佐野カントリークラブ(旧・ヴェルデ佐野カントリー俱楽部)。コースを見渡すクラブハウスも居心地がいい。

普段、東京で生活しているゴルファーにとって、ゴルフとはすなわち旅。関東一円、どのコースに行くにも旅支度のひと手間と移動の時間がかかります。地方にお住まいで近くにゴルフ場があり、朝、天気がいいとキャディバッグをクルマに積んでふらりと出かける、そんなクラブライフを楽しめる方達とは環境が異なります。
1日がかりでせっかく旅に出るのですから、その日を遊び尽くさなければもったいない。それにはちょっとした工夫も必要だと思うのです。

今から20年ほど前、『ボタンダウンクラブ』という会を結成しました。父・石津謙介に倣い、遊ぶの大好き、食べるの大好き、アメリカンカルチャー大好きな仲間達のクラブです。もとはVANの社員の集まりでしたが、いつしかファッション関係者やタレントさんなど外からの入会希望者が増え、大所帯になりました。

この会で年に2回くらいのペースで続けていたのが『ゴルフを遊ぶ』という催しです。スコアを競うのではなく、ゴルフだけをしに行くのでもない。B.D.クラブ流に1日を大いに楽しみます。場所は、当時のゴルフ場オーナーがB.D.クラブの会員でもあったことから、栃木県のヴェルデ佐野カントリー俱楽部(現・ゴールド佐野カントリークラブ)をよく使わせてもらいました。
そこはフラットなコースで、もとは採石場だったこともあり、ところどころ岩山を残してホールデザインのアクセントにしています。コースコンディションがよく、何度行っても球趣の尽きないゴルフ場です。佐野通いはその後、10年ほど続きました。

『ゴルフを遊ぶ』のホールアウト後の様子。テラスからアプローチ競争に興じ、日が暮れたらバーベキューパーティで盛り上がる。赤いブレザーはB.D.クラブのユニフォーム。

『ゴルフを遊ぶ』には3つの決め事がありました。[1]朝ゆっくり家を出て、貸し切りバスでみんなが一緒にコースに向かう。[2]ラウンド後はパーティで大いに盛り上がる。そのためにはゴルフをハーフで切り上げることがあってもよい。[3]各賞はスコアよりもその時のテーマを重視して決める。この3つです。

都内の集合場所から途中休憩をはさんで片道およそ2時間。サロンバスに乗り込むと同時に旅は始まっていて、飲んだり食べたりと、それは賑やかです。
遊びに一生懸命な人間の集まりですから、ホールアウト後まで趣向を凝らすのは言うまでもありません。佐野のクラブハウスは1階のレストランにテラスがあり、そこから地続きでパッティンググリーンがあるという、願ってもないレイアウトになっています。
これをフル活用して、『プレー後はバーベキューパーティで思い切りおいしい肉を食べよう』をテーマにした回もありましたし、『テラスから練習グリーンを直接狙うアプローチ合戦』で盛り上がったこともありました。

アプローチ合戦は子供用のおもちゃのクラブや飛ばないプラスチックの穴あきボールを使います。クラブの代わりに手で投げたこともありました(ハンドウェッジと呼んでいました)。これなら上級者ばかりに賞品が行くこともなく、誰もが、もしかしたら自分もと希望が持てるでしょう? それに、コンペというとどうしても同伴者どうしで行動することが多くなりますが、19番ホールに時間をたっぷり使うことで他の組のみんなとも交流できるようになるのです。

帰り道もまた車内は大騒ぎです。東京に戻ってからさらに三次会をすることもあり、つくづくよく遊んだものだと思います。ともあれ、ここまで楽しませていただいたゴルフ場には感謝しかありません。

ゴルフと結婚は30を過ぎてから

石津謙介夫妻と愛車のAustin Mini Cooper 1000(1964年頃 羽田空港の駐車場で)。

言葉が通じない海外は少々苦手です。言葉を介したコミュニケーションがうまく取れないと、付き合いの度合いが半減してしまうように思うからです。父の謙介も同じ考えの持ち主でした。仕事での渡航歴は相当数に上りますが、観光目的の海外旅行はあまりしませんでした。
出張先で時間ができても有名な場所は最初から行く気などなく、食事も市場の中にあるお店や地元の人達が行くような町の食堂で済ませます。ですから帰国後、皆さんから「○○には行きましたか?」と聞かれても、その後の会話が弾むような土産話は持ち合わせていませんでした。

私はゴルフを30歳の時に始めました。遅いデビューになったのは、当時のVANに”30歳になるまでゴルフ禁止”という、父の決めたオキテがあったからです。ゴルフに夢中になりすぎて他の遊びが疎かになるからというのがその理由でした。遊び人でなければお洒落を楽しむことなどできない。仕事もゴルフもまたしかり。そのバランスを保てるようになるのは30を過ぎた頃から、というわけです。
そんな風に始めたので、スコアを追い求めるゴルフは当初から頭にありませんでした。80台前半でコンスタントにまわれるようになった時期もありましたが、そのうち、理想的なのは”ハンディ18くらいのゴルフ”なのではないかと考えるようになっていきました。誰とでも楽しく付き合うことができて、自分も楽しめる。ハンディ18のほどよい力加減はどんな遊びにも通じると思います。

ちなみにVANでは30歳まで結婚も禁止していました。若いうちに家庭を持つと遊ばなくなるからです。父は「30歳になるまでに3回、危うく結婚しそうになれ」とも言っていました(笑)。1人目の相手と勢いで決めてしまう結婚よりも、それを3回我慢して選んだ4人目の相手との結婚のほうがまちがいない、という理由でした。

石津謙介氏(1911-2005)。戦後、レナウン勤務後に独立して石津商店を設立させ、その後、VANブランドで知られる株式会社ヴァンヂャケットを創業。アイビースタイルはその後の若者達のライフスタイルや思想にまで大きな影響を与えた。『衣食住』や『TPO』の概念を日本に広めたことでも知られている。右の写真はグライダーを操縦する謙介氏。明治大学在学中に自ら設計し、その後、飛行教官として活動していた時期もあった。

本当の贅沢

川奈ホテルの展望台から見た景色。ホテル最上階からさらに階段を上って辿り着く展望台は知る人ぞ知る川奈の絶景スポット。海と2つのゴルフコースを360度見渡すことができる。

55年間ゴルフを続けてきてやっぱりいいなと思うのは、戦前から続くゴルフ場の凛とした佇まいです。その歴史と伝統に触れるたび、本当の贅沢とは何なのかを考えさせられます。特に思い出に残っているゴルフ場に神戸ゴルフ俱楽部があります。日本最古の倶楽部はハウスの雰囲気も実に素晴らしいものでした。
六甲山頂に広がる手造りのコースと、さらにその向こうの大阪湾までを見晴らす場所にあり、歴史的資料がさりげなく置かれたラウンジや、ハウスと18番グリーンをつなぐテラスはメンバーの憩いの場として使われています。競技で優勝した人はビールをみんなに1杯ご馳走するのが長年の習わしになっているそうです。米国人建築家W.M.ヴォーリズによる木造建築は質素でありながら、どんなに豪華なハウスも太刀打ちできない風格がありました。

そしてもう1か所。川奈ホテルも忘れることはできません。断崖に広がる2つのゴルフコースはこちらも手造りで、ホテルは最新式の客室を除けば、昭和のはじめの開業当初とほとんど変わらない様子で宿泊客を迎えます。
昔は幼かった息子(※石津 塁氏 クリエイティブディレクター)を前庭のプールで遊ばせて、大人はコースに出たものでした。 近年はホテル内に宿泊者専用の温泉施設ができて、さらに魅力が増しています。時に港まで出かけ、新鮮な魚を食べるのも旅の楽しみのひとつです。

上段:神戸ゴルフ俱楽部のクラブハウス。テラスの目の前は18番グリーン。下段:川奈ホテル。富士コース11番は灯台のあるホールとして知られている。温泉施設『ブリサマリナ』の露天風呂は開放感たっぷり。

ゴルフに行く日はお洒落も楽しみたいと思っています。クラブハウスではお気に入りのブレザーと、格式張らない程度にタイも絞めて。ゴルフウェアに上着を羽織っただけのスタイルはあまりおすすめできません。
プレーウェアのボトムスは白のパンツと決めています。仕事の時など、街中ではいつもグレーのパンツをはいているので、オンとオフを切り替える意味でも白を選ぶようにしています。時にはホワイトデニムの細身のパンツをはくこともありますが、ジーンズとはテイストが異なりますし、ベルトやシューズをきちんと選べば問題ありません。
トップスは、夏はラコステのポロシャツ、秋はラガーシャツを合わせるのが定番です。もともと白のパンツは何にでも合わせやすく、キャップも白系が多いので全身がすっきりまとまります。年齢に関係なく、どんな景色にもマッチするのでみなさんもぜひお試しください。

川奈ホテルの前庭にあるプール(夏期のみ営業)。25m・15m・子供用と3面あり、目の前は海、水はレストランの料理に使われているのと同じ天然水という贅沢さ。川奈の水は創業以来、12km離れた天城山中から引いて、味も絶品。

ちょっと寄り道 伊豆・伊東
  • 城ケ崎門脇つり橋
    全長48m×高さ約23m。城ケ崎海岸にあるスリル満点の絶景スポット。周辺はピクニカルコースや自然研究路が整備され、雄大な景色と季節の花々を眺めながらの散策を楽しめる。
  • 伊豆赤沢温泉郷
    化粧品メーカーのDHCが経営する伊豆高原のスパリゾート。太平洋を一望する日帰り温泉やホテル、海洋深層水を使ったタラソテラピーエステ・スパなど施設充実。
  • 伊東マリンタウン
    レストラン、ショップ、海が一望できる立ち寄り天然温泉や足湯、マリーナなどが揃う複合施設。 海中の景色を楽しめる遊覧船も運行している。JR伊東駅から徒歩13分。
  • 富士一丸水産(ふじいち)
    伊東港近くにある鮮魚と干物の店。2階は食堂になっていて新鮮な魚をリーズナブル価格で味わえる。物販6:30~18:00、食堂10:00~L.O.15:00(土日と夏季は別途)。
  • 東海館
    温泉旅館だった建物を市が改修。昭和初期の建築様式を残す観光・文化施設として一般公開している。内部見学の他、土日祝のみ営業の内風呂で日帰り入浴も可能。
  • ホール・イン
    ゴルフボールをモチーフにした伊東の銘菓。温泉で茹でた卵の黄身餡と白餡をホワイトチョコでコーティング、懐かしい甘さがあとを引く。御菓子処 梅家のロングセラー。
Find Information
ゴールド佐野カントリークラブ
18H 6948Y P72
開場/1994年 設計/大久保 昌
佐野田沼ICから5分。栃木では珍しいフラット&ワイドなフェアウェイに大小5つの池が絡み、戦略性を高めている。98~03年、日米大学ゴルフ選手権の舞台にもなった。
川奈ホテル
1936年開業。かつてマリリン・モンローも新婚旅行で滞在したホテルは全100室。ゴルフコースは大谷光明設計の大島コースとC.H.アリソン設計の富士コースの計36ホール。富士コースは今年も米ゴルフマガジン誌の世界ゴルフ場100選に選ばれた(56位)。
伊豆・伊東観光ガイド
伊東観光協会の公式サイト。詳しい観光情報はこちらから。
Pickup Item

オノフ中でもトラッドぽいアイテムを紹介します。シンプルなデザインがゴルフを楽しくしてくれそうです。