2020.6.15

[vol. 033]

今日も取材の現場から


旅するひと = 伝 昌夫でん・まさお

フリーランス フォト&ライター。1961年生まれ。週刊アサヒゴルフ編集部(廣済堂出版)、月刊ゴルフマガジン編集部(ベースボール・マガジン社)を経て91年、フリーランスのフォト&ライターに。2005年から5年間にわたり国内男子ツアー全試合の取材皆勤記録を樹立。その後、PGAオフィシャルライターとなり、CLUB ONOFFでもプロインタビューを連載している。著書に『ツアープロが明かすゴルフ上達メソッド108ヶ条』(スキージャーナル)。ゴルフ歴30年、ベストスコア76。

旅の相棒

愛車に撮影機材を積んでどこへでも。クラシック・ミニのユーザーは連帯感が強く、道ですれ違うと手をあげて挨拶するのが決まり。ファンイベントもたびたび開催されている。

思い返してみると、最近はプライベートで旅行らしいことをまったくしていない。何しろシーズン中はほとんどトーナメント会場にいる。それだけで十分、旅から旅の連続である。
仕事の内容にもよるが、プロや関係者にゆっくり会えるのは練習日ということが多いから、たいていの場合は開催週の月曜か火曜に現地入りし、最終日まで取材と撮影を続ける。
そして原稿と画像を雑誌社や新聞社に送ったら、また次の開催地へ。例年であれば3月から12月まで30数週間、こんな生活が続く。

旅の相棒はミニ ジョン・クーパー1300S。かつてはビートルズやポール・ニューマンも乗っていたクルマで、僕は愛情をこめて「JOHN」と勝手に呼んでいる。コンピュータ制御の今のクルマと違い、あらゆる面で手間はかかるが、実に可愛いヤツである。
ステイホーム期間中は久しぶりに塗装をし直した。粗目のサンドペーパーから徐々に細かくしていって下地調整し、きれいに洗い上げてから刷毛で塗る。もうこれで4度目だから作業はスムース、今回もきれいに仕上がった。

ただ、Johnは言うことを聞かないわがままなところもあって、時々ヒヤリとさせる。忘れもしない2016年6月、石川県の朱鷺の台カントリークラブで行われたISPSハンダグローバルカップ最終日の取材に行った時のこと。土曜深夜に埼玉県内の自宅を出発し、途中で休憩を入れながらJohnを500kmほど走らせて、早朝、朱鷺の台に到着。取材は順調に進んだ。

翌週は長嶋茂雄招待セガサミーカップの取材の予定が入っていたので、終了後はすぐさま福井県の敦賀港へ。新日本海フェリーで北海道の苫小牧東港に渡り、そこから千歳にあるザ・ノースカントリーゴルフクラブに行く計画である。

左=苫小牧、右=大洗。福井から日本海を北上、北海道にいったん上陸して今度は太平洋を南下。愛車と共に本州をぐるっと半周した。

敦賀港に向かう高速は空いていて、Johnも快調な走りを見せていた。ところがだ。インターが近づいてきたので減速しようとしてもブレーキペダルがスカスカで反応がない。さっきパーキングで見た時はどこもおかしいところはなかったのに。
料金所を過ぎた先の道は日本海に向かって下り坂が続く。サイドブレーキを引いたり戻したり、1速・2速を繰り返したりと、あらゆる手を尽くして何とか30~40㎞/hくらいまでスピードを落とし、結局、最後は運良く見つけたコンビニの駐車場に滑り込ませて停めることができた。

クラシック・ミニには”主治医”が必ずいる。僕は電話で診断を仰ぎ、フェリーの乗船手続きをしてJAFを呼んだ。見るからにクルマ好きなJAFのお兄さんは言った。「この先、下船するまでのあいだにオイル漏れがなければ大丈夫。でも朝になって、もし、お漏らししていたら、またJAFを呼んでください。あとは、とにかく運次第ですね♥」と。

26時間後、幸いオイル漏れはなく、僕とJohnは無事に千歳に到着し、1週間、コースとホテルを往復した。札幌にいる主治医の師匠(ミニの神様と呼ばれている)にも診てもらってJohnは完全復活。僕は大事な家族が元気になって戻ってきたような気分になった。
帰り道は太平洋ルートで苫小牧から商船三井フェリーに乗り、18時間ほどで大洗に上陸。北関東自動車道経由で埼玉に帰ったのだった。

鏡のような池にフェアウェイの立木がくっきり。毎週のようにコースを歩いていると、こんな景色に出逢うこともある。

待つのも仕事

僕がご覧のとおりの風貌ということもあって、尾崎健夫プロには弟のように可愛がっていただいている(と、勝手に思い込んでいる)。ある時、僕がハンチングをかぶっていたら、「それ、どこで買った?」と尋ねられたので、「アメ横の○○で買いました」と答えたことがあった。次の試合でふと見ると、なんとジェットさんが同じのをかぶっている。それも、ウェアに合わせて染め直したというこだわりようだ。いつもお洒落でユーモアがあって、やさしい兄貴。ここ数年はシニアトーナメント開幕戦でIDカードにサインをしていただくのが儀式となり、僕の大事なコレクションになっている。

レギュラーツアーでは昨シーズン、浅地洋祐プロが2勝を挙げる大活躍を見せた。もともと日本ジュニアの優勝者で、杉並学院高校2年の時にはダイヤモンドカップに出場してトップ10に入ったこともある逸材だ。あの試合で2日目を終えて2位につけたことで注目を集め、翌2011年にプロ宣言をするのだが、僕はその頃から浅地選手とある約束を交わしていた。

それは、「いつかシード選手になったら、その時は僕が最初に取材をさせてね」というものだった。

約束はあっという間に実現した。プロ入り2年目の2012年、浅地プロはチャレンジ初勝利を挙げ(19歳14日での優勝は当時最年少記録)、レギュラーツアーでも最終盤のカシオワールドで9位タイに入り、初シードをつかんだのだ。
晴れて僕は、いの一番に話を聞くことができた。忘れもしない高知からの帰り道、羽田空港からプロのお母さんが運転するクルマに同乗させてもらい、都内にある浅地家の自宅まで、後部座席でプロとサシのインタビューが実現した。今も忘れられない思い出だ。

左上=PGAのIDカード。左はジェットさんのサイン入り。右上=19年はダイヤモンドカップとANAオープンに優勝、賞金ランキング9位に入った浅地プロ。左下=ISPS・ハンダカップ・フィランスロピーシニアトーナメントでコリン・モントゴメリー選手と。右下=ANAオープンの舞台、札幌ゴルフ倶楽部 輪厚コースは大好きなゴルフ場のひとつ。

この稼業は待つのが仕事。コメントを取るにしても撮影するにしても、タイミングの大切さをつくづく実感する。日が傾き始めたコースで息をひそめ、カメラを構えていると、フェアウェイにいい具合に木の影が伸びてきて、「よし、今だ!」という瞬間が訪れる。でもそんな時に限って選手がフェアウェイに打ってくれない。「なんでラフ……?」と心の中でつぶやくこともしばしばだ。
グリーン上を撮影する時はあらかじめ芝目や傾斜を頭に入れておき、あの選手の球筋で、あそこからこのピンポジに打ってくるならここしかないと、ベストな撮影ポイントを予測して待つ。トーナメントのカメラマンにゴルフの上級者が多いのは、こんなふうにプロのスウィングをつぶさに観察し、コースマネジメントを常日頃から疑似体験しているからなのかもしれない。

待つといえば、こんなこともあった。ダンヒルカップの取材でセントアンドリュース・オールドコースに行った時、ギャラリーのいないところで撮影をしようと12番方向にひとりで向かい、選手が来るのを待つことにした。ただでさえ寒いスコットランドの11月。その日は特に天気が悪く、聞こえてくるのはゴォーッという風の音と波の音だけ。あたりに人の気配はない。
極寒の中、待ち続けた僕は、まさか自分が遭難しかけていたなんて気づきもしなかった。たまたま通りかかった現地のカメラマンから「何やってるんだ。こんなところにいたら死ぬぞ」と声をかけられてようやく事情が呑み込めた。どうやら僕はひとりで八甲田山状態に陥り、同じところをぐるぐる歩き回っていたらしい。彼は「とにかくこれを飲め」と、持っていたポットからあったかいコーヒーを注いで渡してくれた。それまでの人生で最高に温かく、そして美味しいコーヒーだった。

行きつけの店

那覇にある居酒屋、木精夢者(きじむなあ)のソーミンチャンプルー。本当は誰にも教えたくないくらい美味い。

同じトーナメント会場に長年通い続けていると、その土地の情報にも詳しくなってくる。滞在中の最大の楽しみは食事。日本の南と北に特に気に入っている店がある。
1軒目は、沖縄・那覇の泊港の近くにある木精夢者(きじむなあ)という居酒屋。昨年までは女子ツアーとシニアツアーの開幕戦(ダイキンオーキッド、金秀シニア)、11月のHEIWA・PGM CHAMPIONSHIPの年3回、沖縄で試合があったので、そのたびに食事に行っていた。
麩やそうめんのチャンプルーもいいが、モヤシを使った炒めものがとびきり美味い。ただし大将が納得する食材が手に入らなかった日は作ってもらえない。
お客さんは地元の人ばかりで、新型コロナ感染禍の現在は人数を制限しているという。当面のあいだ、一見さんは残念ながら入店できないそうなので、いずれ事態が落ち着いて制限が解除になったらぜひどうぞ。見た目も愛想も決して良いとは言えないけれど、実はとっても気さくで優しい大将が本当の沖縄料理を食べさせてくれる。

そして宮崎の行きつけは、おぐら本店。フェニックスカントリークラブに行くと必ず寄りたくなる洋食店だ。いまやすっかりメジャーになった宮崎のローカルフード、チキン南蛮の元祖とされていて、これでもかとかかっているタルタルソースがたまらない。

ゴルフ場にも名物がある。北の1軒目は札幌ゴルフ俱楽部輪厚コースのレストラン。ここの『輪厚ラーメン』をぜひおさえておきたい。ANAオープン開催中は特設コーナーもできる名物メニューで、胡麻の香りをきかせたピリ辛の味噌スープが麺に絡み、トッピングの岩海苔がいいアクセントになっている。ギャラリープラザに行列ができるのも納得の味だ。

最後にもう1軒。千歳にはツアー関係者におなじみの藤花(ふじはな)がある。ANAクラウンプラザホテルの最上階に入っている寿司店で、味も夜景が広がるロケーションも文句なし。店内が静かでゆったりしていることもあって、大事な話やちょっと内緒の話もしやすい。トーナメント期間中はプロもよく利用している店である。

ツアーが再開されたら、また旅が始まる。旅に出ると空気も食べ物も習慣も、行く先々でみんな違って、その刺激がまた次の旅のエネルギーになる。相棒のJohnをピカピカに磨いて、そろそろ準備を始めようと思っている。

左上=沖縄・木精夢者のトーフチャンプルー。右上=宮崎・おぐら本店のチキン南蛮。左下=北海道・札幌GC輪厚Cの輪厚ラーメン。右下=北海道千歳・藤花の刺身盛り合わせ。

ちょっと寄り道 北海道・北広島~千歳
  • 支笏湖
    日本最北の不凍湖。平均水深約265mと国内では田沢湖(秋田)に次いで2番目に深く、透明度も抜群。水質は11年連続日本一を誇る。新千歳空港から約40分、札幌中心部から約1時間。
  • パレットの丘
    幌加地区にある美しい波状丘陵地帯。緑肥用として植えられたヒマワリの満開時期は特におすすめ。例年9月下旬~10月中旬に見頃を迎える。※ヒマワリ畑への立ち入りは禁止。
  • サケのふるさと千歳水族館
    淡水では日本最大級の水槽を有する水族館。千歳川の中を真横から観察できるゾーンも見ごたえあり。敷地内に道の駅も隣接している。新千歳空港から車で約10分、札幌から約60分。
  • くるるの杜
    ホクレン直営の『食と農のふれあいファーム』。農畜産物直売所やレストラン、農作業・調理加工体験施設、カフェなどが揃う。新千歳空港から車で約30分、札幌駅から約35分。
  • 竹山高原温泉
    北広島市郊外の森の中にある一軒宿、竹山高原ホテルの天然温泉施設。日帰り入浴(10:00~最終受付21:00、大人700円)が可能で地元客にも人気が高い。新千歳空港から車で約30分。
  • エーデルワイスファーム直売店
    こだわりのハムやベーコンで知られる工房の敷地内にある直売店。食のイベントも開催予定。札幌GC輪厚Cから徒歩約15分、札幌市内、新千歳空港から車で各40分。
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木精夢者(きじむなあ)
泊港近くのビル2階にひっそり佇む居酒屋。大将(写真)が作る料理はどれも絶品。現在、入店制限中のため事前に必ず問い合わせを。18:00~23:00(L.O.22:00)、日祝休。TEL 098-861-5383
おぐら本店
チキン南蛮の今のスタイルを作った有名店。洋食メニューも充実。
藤花(ふじはな)
ANAクラウンプラザホテル千歳11階にある寿司・海鮮焼の店。
きたひろ農学校
北海道北広島市の観光情報はこちら。
千歳観光連盟
北海道千歳市の観光情報はこちらから。
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