2020.8.18

[vol. 035]

東西リンクス紀行《後編》


旅するひと = 大江 旅人おおえ・たびと

アートディレクター。音楽、映像、ファッションなどのブランディングやデザインを数多く手がけ、オノフのブランドプロデューサーも務める。2018年、沖縄県那覇市天久にオノフのショップ&カフェ『houseONOFF』をオープン。ストレンジ・フルーツ代表。ゴルフ歴34年、ベストスコア72。

ブルーキャニオンCCにて

加藤嘉一さんの思い出

ブルーキャニオンCC。起伏や池、窪地をそのまま活かしたナチュラルハザードの先に高速グリーンが待ち受ける。

オノフを立ち上げる際にインスピレーションを得たゴルフ場は東南アジアにもあります。タイ、プーケット島のブルーキャニオン・カントリークラブ。プーケットというとカジュアルなリゾートコースのイメージがあるかもしれませんが然に非ず。「アジアで最も難しく美しいコース」と評されるほどタフで、大自然と隣り合わせのゴルフを満喫できるコースです。
ヨーロピアンツアーの開催地にもなったこの名コースを設計したのは、タイに移り住み、プーケットに骨を埋めた日本人設計家の加藤嘉一さんです。彼は私にとって兄のような存在であり、ゴルフを語り合う佳き友でもありました。

沖縄本島にあるザ・サザンリンクスゴルフクラブも、表向きの設計者は開場当時の経営会社の名前になっていますが、実は加藤さんが手がけたものです。50メートルはあろうかという断崖の上に展開する18ホールは国内でも希少な本格派シーサイド。2ホール連続で海越えを配したダイナミックな演出と緻密なホール立ては見事としか言いようがありません。

サザンリンクスを設計した後、加藤さんはプーケット島北部に新たに造られることになったゴルフリゾート、ブルーキャニオンの日本人開発者に乞われてタイに渡りました。1991年に完成したキャニオンコースはすぐさまコースランキングの常連となり、2年連続でアジアナンバーワンにも輝いています。
また、1994、1998、2007年には欧州ツアーのジョニーウォーカー・クラシックの舞台にもなりました。プロ入り2年目のタイガー・ウッズがアーニー・エルスとのプレーオフを制し、大逆転勝利を飾った98年大会をご記憶の方も多いと思います。タイガーが池越えの右ドッグレッグをショートカットしてワンオンした13番パー4はタイガーホールと呼ばれ、今も世界各地から訪れるゴルファーの記念撮影スポットになっています。

加藤さんの誘いを受けて私もブルーキャニオンに入会し、奇数月になると1週間から10日ほど滞在するのが習慣になっていきました。顔を合わせれば話題はゴルフ場に関することばかりで尽きることがありません。加藤さんからコースデザインについてレクチャーしてもらった時はそのお返しとして、ワインとシガーの愉しみ方を私が伝授するのが決まりでした。
加藤さんはその後もプーケットに残り、トレジャーヒル・ゴルフクラブ(1994年)やブルーキャニオン・レイクスコース(1999年)、カビンブリ・スポーツクラブ(2007年)などを設計。タイのゴルフ界に大きな足跡を残されました。

ブルーキャニオンCCにて。肖像画の3人は左からグリーンキーパーの藤井弘毅氏、設計家のピート・ダイ氏、加藤嘉一氏。

滞在中は敷地内にあるヴィラに泊まります。専属のキャディに声をかけておくと朝6時には準備をして待ってくれていて、ドアを開けたらすぐにスタートできるのです。キャニオンコースは歩きが基本なので、ホールアウトは9時前後。この時間帯にラウンドしているのはたいてい顔見知りの人たちです。ヨーロッパからの長期滞在者やタイに駐在しているビジネスマンもいて、早朝のひと時を思い思いに楽しんでいます。
私はホールアウト後、プールでクールダウンをして朝食をとり、そのあとで仕事をするのがいつものパターン。ヴィラにキッチンが付いているので夕方は近くのマーケットへ買い出しに行き、行きつけのレストランで教わったタイ料理を仲間に振る舞うこともありました。

設備の整ったブルーキャニオンのヴィラ。右下はプーケット滞在中によく行くタイ料理レストランKin Dee Restaurant。ここで教わったレシピはどれも好評。

ブルーキャニオンは来年、開場30周年。リゾートホテルが集まるエリアからはだいぶ離れた高台にあるため、いつ行っても喧騒とは無縁の穏やかで豊かな時間が流れています。

手塩にかけたコースの成長を見届けて、加藤さんは先年、永眠されました。仲間と一緒にプーケットにお墓を建てたのですが、残念ながら今年はお参りに行けそうにありません。状況が落ち着いたら、必ずまた会いに行こうと思っています。

ビンタンの名コースと、旅のこれから

リアビンタンGC。ゴルフ誌の世界のトップ100コースに入るなどこちらもランキングの常連で、ロケーション、コースコンディション共に抜群。

インドネシアのビンタン島にあるリアビンタン・ゴルフクラブも、オノフのロケーション撮影の候補地に挙げていたゴルフ場です。ゲーリー・プレーヤーの設計で、雄大な自然がそのまま残された、とてもフォトジェニックなコースなのですが、結局、暑さとスコールがネックになって撮影は断念しました。
そのかわり、ここはオノフのテストコースとして使っています。例年3月、新作クラブを持参して試打ラウンドを行うのです。長年通っているので定点観測ができ、データ分析に役立っています。

南シナ海に浮かぶビンタン島はインドネシア領ですが、地理的にはシンガポールの目と鼻の先にあり、シンガポールのタナメラ・ターミナルからフェリーで渡ります。ブルーキャニオンと違ってこちらはリゾートエリアにあるため、観光客に慣れたタクシーが足代わり。でも私はほとんど出歩くことがありません。
というのも、ビンタンのリゾートにマレーシアから来た顔なじみの料理人がいるからです。50種類以上のスパイスを使いこなし、好みに合わせて調理してくれる料理はどれも絶品。何日いても飽きることがありません。

ビンタンの腕利きスーシェフと。右は典型的なビンタンの定食。ビールが進みます。

ビンタンにも来年になったら再訪するつもりですが、これから先どうなるか、見当がつかない状況が続いています。プーケットもビンタンも観光で成り立っている島ですから皆さん大変な思いをしているはず。キャディやスーシェフたちと無事に再会できる日が来るよう、祈るばかりです。

観光客を受け入れる側も、そして観光という概念自体も、今後は変化が求められていくでしょう。ホテルやゴルフ場、飲食店はこれまでのように観光客だけを相手にするのではなく、地元や近隣の人たちも楽しめるような仕組み作りが必要になると思います。
私たちのゴルフと旅のスタイルも変わりそうです。コースや宿を選ぶ際の新たな基準が生まれたり、意外な場所の価値や魅力に気づくこともあるでしょう。どこへ、誰と出かけ、どんな風に充実したゴルフライフを送るのか。皆さんと共に私も考えていきたいと思っています。

ビンタン島の東に浮かぶ小さな島、ホワイトサンドアイランドと、シンガポール⇔ビンタンを約50分で結ぶフェリー。下はリアビンタンGC。敷地内に快適なロッジやレストランなどが完備し、温かなサービスを受けられる。

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ブルーキャニオン・カントリークラブ
36H キャニオンコース7179Y P72 レイクスコース7129 Y P72 開場/1991年 設計/加藤嘉一
自然の起伏と池をふんだんに取り入れた36ホール。練習場、ロッジ、長期滞在用のヴィラ、スパなど付帯施設も充実している。プーケット国際空港から車で約10分、パトンビーチへは約50分。
リアビンタン・ゴルフクラブ
27H 9457M P108
開場/1998年 設計/ゲーリー・プレーヤー
南シナ海を望むオーシャンコース18ホールと、木々の間をゆったり進むフォレストコース9ホール。世界トップ100やアジアベストコースなどを受賞している。シンガポールのタナメラ港からフェリーで約50分。
タイ国政府観光庁
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ビジットインドネシアツーリズムオフィス
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オノフの産みの親でもある大江氏。オノフのオリジンやコンセプトを色濃く表しているアイテムをご紹介します。