2022.9.14

[vol. 053]

ペブルビーチ~パサティエンポ、そしてノースベリック


旅するひと = 岩崎 美紀いわさき みき

眼科専門医、両国眼科クリニック院長。東京女子医科大学卒業後、同大学眼科学教室に入局。済生会川口総合病院、朝霞台中央病院に勤務した後、2000年から東京女子医科大学助手。六本木ヒルズクリニック創設時より眼科医長を務め、2012年から現職。専門は緑内障、人間ドック健診。ゴルフ歴15年、ベストスコア93。

ダウンベストと日焼け止め

アリスター・マッケンジー設計の名コース、パサティエンポ・ゴルフクラブ。地元サンタクルーズ出身でコースの隣に住んでいたジュリ・インクスターのホームコースでもある。

子育てを終えてから本格的に始めたのでゴルフ歴はまだ15年ほど。でも、それなりに内容の濃い15年だったと思います。
コロナ前までは毎年2回ほど、友人達とゴルフのためだけの旅に出かけてきました。なかでもよく行くのがアメリカ西海岸。ペブルビーチを中心に周辺を巡ります。旅行会社のパッケージプランとは無縁の個人旅行なので、予約も移動もみんなで手分けして、自力で行うのが恒例になっています。

2012年に行った時は友人ご夫婦と一緒に、ペブルビーチにある4つのコースのうちのザ・リンクス・アット・スパニッシュベイとペブルビーチ・ゴルフリンクスをまわりました。
スパニッシュベイはコースからずっと海が見えるのですが、スコッティッシュリンクスのようにちょっと先の見えないホールがあったりして、ここはイギリスかしら?と思うほど。
一方のペブルビーチは柵のない海際にホールが続いてとにかく開放的です。日本にもシーサイドコースはいくつもありますが、ペブルビーチは海にとても近く、もしこれが溢れちゃったらどうするんだろうと心配になるくらい。海面からフェアウェイまでの高低差が数メートルしかありません。

ペブルビーチGLはパブリックですがコース内のホテルに宿泊するのがエントリーの条件になっていて、1泊すると1ラウンドできるというシステムでした。最初にラウンドした1994年当時はリゾートの中でなくカーメルのホテルに滞在していたのですが、電話1本で地元の方の組に入ることができました。昔はそのくらい気軽にラウンドできるところだったんです。
子供やゴルフをしない大人達はプールに行ったりエクササイズをしたり買物をしたり、敷地内の施設も充実していて、そこからも海がきれいに見えます。
コースは常に風が吹いていてとても難しく、刻々と変わる状況に応じた技術が問われます。といっても私はスコアよりもコースを楽しむことを優先しているので深刻になることがありません。上手くなろうという気持ちがここまでない人も珍しいとよく言われますが(笑)、ゴルフコースにいること自体が大好きなのだと思います。

ペブルビーチ・ゴルフリンクス。左下は17マイルドライブの観光名所、ローン・サイプレス。崖上に杉の木が1本だけ立つ様子はペブルビーチのロゴにも使われている。

2012年の旅ではペブルビーチから17マイルドライブを通ってモントレーへ。そこから少し北に行ったサンタクルーズにあるパサティエンポ・ゴルフクラブに行きました。
スペイン語で趣味や気晴らしという名前のゴルフ場は1929年開場の歴史あるセミプライベートクラブ。ロイヤルメルボルンやサイプレスポイント、オーガスタナショナルなどを手がけたアリスター・マッケンジーの設計です。西海岸に住んでいた友人が手配をしてくれて、この時、初めてラウンドすることができました。
モントレー湾を見下ろす丘の上のコースは、距離はそれほどありませんがグリーンまわりのアンジュレーションがものすごく、グリーンやバンカーの形状もとても複雑です。コースの傍らにはマッケンジーの終の棲家となったコテージも残されていました。

この時は5月の連休を利用した旅行でしたが、街中では革ジャンを着ている人がいたほどの寒さで、私もダウンベストを着込んでラウンドしました。どこへ行くにも帽子とサングラスと日焼け止めは必携ですが、着る物はいざとなったら現地調達と決めていて、それも旅の楽しみのひとつになっています。

パサティエンポ・ゴルフクラブで。ボビー・ジョーンズはここをラウンドして感銘を受け、アリスター・マッケンジーにコース設計を依頼。その結果、オーガスタナショナルが誕生したという。

自由旅と旅程表

ニューポートビーチにある日本食レストラン、ブルーフィンの店内から。

翌2013年も友人達と西海岸へ出かけました。車にキャディバッグを積み、観光をせず、荷物を解いては移動してひたすらコースを巡ります。今回は到着翌日のリビエラ・カントリークラブを皮切りに、ペリカンヒルの2コースをまわり、サンディエゴ郊外のラ・ホヤに移動しながら5コースをまわるスケジュールを組みました。

ラ・ホヤではアヴィアラがとてもいいコースでした。パーク ハイアット アヴィアラ リゾートゴルフクラブ&スパにある18ホールでLPGAツアーのJTBCクラシック(前・キアクラシック)の舞台にもなっています。池や小川などのウォーターハザードを取り込んだコースは美しく、手入れが行き届いて、とても居心地のいいところでした。
最終日はトーリーパインズをラウンドして帰国。今思い返してもよくまわったものだと思います。

パーク ハイアット アヴィアラ リゾート ゴルフクラブ&スパ。南カリフォルニアを代表するコースの1つとして知られている。

旅のスケジュールを組む際は、コースだけでなく、滞在先やレストランもとことん吟味して選びます。出発までにすべて決め、詳しい旅程表を完成させておくんです。
私は主にレストラン担当なので、知り合いに聞いたりネットで調べたりして、およそ10日間の夕食の場所を探します。ホテルに帰ってシャワーを浴びた後に行くにはどこが行きやすいかとか、この日はそろそろ日本食を食べたいなとか、グーグルマップをフル活用して調べます(笑)。本当に楽しいですよ。

ラ・ホヤでは私のいちばんのお気に入りのラ・バレンシア・ホテルにも1泊しました。とびきりゴージャスでスケールの大きなペリカンヒルとは対照的に、こぢんまりとして趣のあるホテルですが、1994年に行って以来、いつかもう一度泊まりたいと願っていたのがこの旅行で叶いました。

上段=調査して見つけた日本食レストラン、ブルーフィン。新鮮な魚介を使った寿司や料理を数々の銘酒と共に味わえる。左下=ラ・ホヤで最も長い歴史を誇るラ・バレンシア・ホテル。右下=手作りの旅の日程表。

スコットランドからアイルランドへ

ノースベリック・ゴルフクラブ。コース内のところどころを石垣が横切り、そこには「Don’t argue with the wall. it’s older than you.」(この石垣と渡り合おうなんて考えないほうがいい。あなたよりずっと年上なのだから。)という言葉が掲げられている。

スコットランドを旅した時はセントアンドリュース、カーヌスティ、ノースベリックなどをラウンドしました。スコットランド南東部の港町にあるノースベリック・ゴルフクラブは1832年設立。美しい海岸線を望むコース内には昔、牧羊のために造られたという低い石垣が残り、世界中のコースでコピーされているパー3、『レダン』(※)という名のホールがあるリンクスとして知られています。

(※)レダン方式=縦長のグリーンがティに対して斜めにレイアウトされ、
バンカーがガード。どこにカップを切っても距離感をつかみにくい。

セントアンドリュースでは、オールドコースをまわるためのくじ引きは残念ながら外れてしまいましたが、ニューコースを回ることができました。設計はオールド・トム・モリス。NEWといっても7コース中2番目に古く、130年近い歴史があります。

キャディは1人に1人ずつ付くのですが、ハンディが多い順に優秀なキャディを割り当てる決まりになっているようで、私にはプロも担当するような熟練のキャディさんが付いてくれました。
「○メートルこっちに」「君の技術だったら○番アイアン」という具合に付きっきりで面倒を見てくれて、あるホールでは「残り50ヤードだから、はいこれ」とパターを渡されたこともありました。
「スコットランド風のパターの使い方を教えてあげるから、素振りしてみて」と言うので振って見せると、「More!」と言ってなかなか打たせてくれません(笑)。最後は「もうなるようになれ」と力いっぱいストロークすると、ボールが傾斜を駆け上ってピンに寄って行くではありませんか。ちょっと厳しい人だったけれど、さすがの腕前に感心しました。

セントアンドリュースで。左上はオールド・ニュー・ジュビリーコース共用のクラブハウス。2 階にはTom Morris Bar & Grillがあり、コースを眺めながら食事を楽しめる。

スコットランドを旅していた時に、どうしてもアイルランドが気になって、実際にラウンドしてきたこともありました。グレートブリテン島だけじゃない、アイルランド島もあるなと思いつき、調べてみたら素敵なコースがたくさんあったんです。

2016年の夏休み、ロンドン経由でアイルランドの首都ダブリンに到着した私達は、まずドルイド・グレン・リゾートに滞在してラウンド。1995 年オープンとまだ新しいですが、すでに何度もアイリッシュ・オープンの舞台になっているコースです。
次に、アイルランドきっての名城をホテルにしたというアッシュフォードキャッスルに移動して、森を散策したり、敷地内にあるコースをラウンドしたりとお城での滞在を楽しみました。ちなみにここは2017年にロリー・マキロイ選手が結婚式を挙げた場所です。

最後にダブリンに戻り、ザ・Kクラブへ。ここもいいコースでした。アーノルド・パーマーの設計で、2006年にはアイルランドで初めてライダーカップが開催されています。池をふんだんに使ったホールやスコティッシュリンクスのようなホールもありましたが、それほど荒々しい印象はなく楽しめました。

アイルランドは緑が豊かなことからエメラルド・アイランドとも呼ばれる美しい島国です。少し車を走らせると有名な『モハーの断崖』をはじめとする数々の絶景にも出会えますし、名コースもたくさんあります。
いずれはバリーバニオンやラヒンチ、北アイルランドのロイヤル・カウンティダウンやロイヤルポートラッシュなどで、リンクスの魅力にもっと触れてみたいと思っています。

アイルランドで。左上=ドルイド・グレン・ゴルフリゾート、右上=ザ・Kクラブ。下段=アッシュフォードキャッスル。伝統的なスポーツ、鷹狩りも体験しました。

アイルランドの絶景スポット
  • ダブリンの中心地にあるトリニティ・カレッジ。
  • モハーの断崖
    世界中から観光客が訪れるアイルランド西岸の絶景スポット。高さ200メートルの断崖が8kmにわたって連なる光景は圧巻。大西洋からの海風に吹かれてハイキングも楽しめる。
  • トリニティ・カレッジ
    重厚な建物が並ぶ石畳のキャンパスは一部を除き見学が可能。なかでも旧図書館のロングルーム(写真)は映画のモデルになったこともあり、多くの観光客が訪れる。
  • シュケリッグ・ヴィヒル(スケリッグ・マイケル)
    南西沖に浮かぶ孤島に遺された修道院の遺跡。12世紀頃まで使われ、近年は映画『スター・ウォーズ』のロケ地として注目を集めた。アイルランド共和国に2つある世界遺産のうちの1つ。
  • ジャイアンツ・コーズウェイ
    5000万~6000万年前の火山活動で生まれた六角形の玄武岩がおよそ4万本連なる北アイルランド屈指の絶景スポット。巨人が造った石道など数々の伝説がある。世界自然遺産に登録。
  • ブルー・ナ・ボーニャ
    世界文化遺産に登録されている西ヨーロッパ最大の巨石遺跡群。新石器時代の石室墳や立石などの遺跡が90か所以上に点在し、なかにはガイド付きツアーでしか立ち入れないエリアも。
  • ダンルース城
    北アイルランド北部の断崖に佇む16~17世紀の城跡。映画やドラマのロケ地に使われることがあり、内部は見学も可能。歴史的・考古学的な展示物が公開されている。
Find Information
パサティエンポ・ゴルフクラブ
18H 6495Y P70
開場/1929年 設計/アリスター・マッケンジー
カリフォルニア州サンタクルーズ。特定のスタート時間をメンバー以外にも開放しているセミプライベートクラブ。ハウス内にはカジュアルレストラン『マッケンジー バー&グリル』がある。
パーク ハイアット アヴィアラ リゾートゴルフクラブ&スパ
18H 7007Y P72
開場/1991年 設計/アーノルド・パーマー
カリフォルニア州カールスバッド。200エーカーの敷地にパーマーの最高傑作といわれる18ホールやホテルなどが点在。327のスイートや客室からはコースやラグーンを望むことができる。
ブルーフィン
カリフォルニア州ニューポートビーチにある日本食レストラン。寿司のほか、新鮮な魚介にイタリアンやフレンチのアレンジを加えた創作料理も人気。
アイルランド観光局
アイルランド政府観光庁の公式日本語ウェブサイト。見どころやおすすめのモデルコースなど旅行者向けの情報を掲載している。
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仲間との旅ゴルフ。思い出がたくさん作れそうですね。何十年後かにまた同じメンバーで同じ場所へというのもロマンチックですね。