2023.8.3

[vol. 059]

クルーズとゴルフのいい関係


旅するひと= 上田寿美子さん

うえだ・すみこ/クルーズライター。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて35年。日本を代表するジャーナリストとして海外でも幅広く活動、客船や旅行会社などのクルーズセミナー講師も務める。日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。著書に『ゼロからわかる豪華客船で行くクルーズの旅』(産業編集センター)、『上田寿美子のクルーズ!万才』(クルーズトラベラーカンパニー)など。ゴルフ歴約20年、ベストスコア87。

海上のニアピンコンテスト

英国船クイーン・メリー2。全長345m・12階建ての船内には洋上最大規模のボールルーム(ダンスルーム)や洋上唯一のプラネタリウム、スポーツセンター、ゴルフシミュレーターなどが揃う。

本格的な外国客船に初めて乗ったのは1972年のこと。祖母と両親との家族旅行でした。当時高校生だった私にとってそこはあまりにも優雅で素敵な世界。帰宅後も興奮冷めやらず、翌年の大学進学後すぐにアルバイトをしてお金を貯め、今度は友人と2人で同じ船に乗りに行ったのでした。

やがて1989年から90年にかけて、『飛鳥』や『にっぽん丸』といった戦後初の国産新造客船が相次いでデビューし、日本のクルーズ元年と呼ばれる時代がやってきます。いつしか船旅が趣味になっていた私のもとに、当時創刊したビアージェという船旅専門誌(現・クルーズトラベラー)から、船旅のことを書ける人を探しているというお話があり、お手伝いをさせていただくことになりました。

以来、国内外のいわゆる豪華客船を使った船旅を取材するようになって、もう35年になります。はっきりと数えたことはありませんが80カ国以上は出かけているでしょうか。船のこと、各国の港町のこと、自ずと詳しくなっていきました。

『洋上の宮殿』と称されるクイーン・メリー2。上は華やかな内装のブリタニア・レストラン。本格的なコース料理を味わえる。左下は乗客を出迎えるグランド・ロビー。

これまでに経験した中で一番長いものでは120日間の船旅がありました。クイーン・エリザベスで英国のサウサンプトンを出港し、大西洋を横断して北米各地とカリブ海の島々へ。その後、パナマ運河を越えて南太平洋、アジア、中東の国々を訪ね、サウサンプトンに戻る世界一周クルーズです。

1月に日本から英国に飛び、帰国するとお花見の時季も終わっていて、少々“今浦島”状態になりましたが、クルーズ中は毎日が充実していて退屈な思いをすることがありません。それぞれの寄港地から景勝地を巡ったり遺跡を訪ねたり、船に戻れば趣向を凝らしたパーティーやイベントも日夜行われています。

かといってせわしない思いをすることもなく、この街は以前行ったことがあるのでツアーには参加せずのんびり過ごそうとか、自分達だけでちょっと出かけてみようといった具合に旅のペースを自由に調整することが可能です。この辺が団体旅行やパッケージツアーと大きく異なる点だと思います。

左=客船ノルウェイジャン・ジョイの船上で雪山と海を背景にパターゴルフ。アラスカクルーズでの1コマです。右=PGAプロによる船上ゴルフレッスンを受けられることも(写真はいずれも本人提供)。

クルーズ中はゴルフに関連したお楽しみも少なくありません。船上の広大なパターゴルフコースで大会が開かれたり、ゴルフケージで海の景色を楽しみながらショット練習をしたり、時にはそこでPGAのプロによるレッスンが行われることもあります。

クイーン・メリー2というクイーン・エリザベスと同じ会社の英国客船に乗った時、ゴルフシミュレーターを使ったニアピンコンテストが行われ、私も参加したことがありました。こういったイベントは船内新聞のお知らせ欄で随時告知されています。

当日会場に行ってみるとアメリカ、イギリス、オーストラリア、オランダなど各国の腕自慢が参戦して、まるで国別対抗戦のようです。1人3球ずつチャレンジしたところ、女性の部の優勝はなんと私という結果に。思いがけない体験をさせていただきましたが、それにも増して参加された皆さんとその後、ゴルフの話題で会話が弾み、楽しい時間を過ごせたことが何よりの思い出になりました。

この船はアフタヌーンティーの素晴らしさでも知られていて、特にスコーンの美味しさは世界トップクラスと言われています。それを味わいながらのおしゃべりもまた格別。船と旅とゴルフ、世界共通の話題で話が尽きることはありませんでした。

テムズ川クルーズと宮殿のゴルフコース

アッパーテムズを航行するマグナ・カルタ。ベルギーで作業船として建造され、2001年、4室すべてがスイートルームの水上ホテルに改築された。

クルーズの取材に出かける際、私はゴルフボールとティ、マーカー、グローブをスーツケースに入れ、世界各地でのゴルフプレーのチャンスに備えてきました。

英国ではリバークルーズ船で行くゴルフも体験しました。マグナ・カルタという名の乗客定員わずか8名の小さな船で、ヘンリーオンテムズからハンプトンコートまでを6泊7日かけてクルーズします。乗客はアメリカから来たご夫婦と私の3人だけ。乗務員も船長、料理長、クルーズディレクターの3人と、とてもアットホームな雰囲気です。

旅は週末の午後、ロンドンの5つ星ホテル、ザ・スタッフォードから始まりました。ここでイングリッシュアフタヌーンティーを楽しんでいると船長さんが迎えに来て、船まで連れて行ってくれたのです。ヨーロッパ最古のボートレース、ヘンリーロイヤルレガッタで有名なヘンリーオンテムズからいよいよマグナ・カルタに乗船。シャンパンレセプションを受けて、リバークルーズがスタートしました。

船内の客室とサロン。右の写真はさよならパーティーの様子。王室が運営する『ウィンザー・ファームショップ』のチーズやワインで船長がもてなしてくれました。

今回参加したクルーズの旅程はカスタムメイド。係留地はほぼ決まっていますが、どこで何をするかは船長さんと相談して決まります。せっかく英国に来たのでゴルフをしたいと伝えたところ、予約を取ってくれたのがロンドンの中心街から20キロほど離れたヘンリー8世ゆかりの旧宮殿、ハンプトンコートパレスの敷地内にあるハンプトンコートパレス・ゴルフクラブでした。

レンタルクラブを受け取って1番ホールに向かうと、辺りを何頭もの鹿がのんびりとくつろいでいます。なかには宮殿に向かってティショットを打つホールもあって、まるでおとぎの国に来たようです。
旧宮殿は例年多くのツーリストが訪れる人気の観光地ですが、その一角でゴルフができることはあまり広くは知られていないようで、コース内は実にゆったりとした時間が流れています。しかも、ホールアウトしたらまた宮殿の前から船に乗るだけというのは本当に快適でした。

ハンプトンコートパレス・ゴルフクラブ(1895年開場。6514Y・P71)。船長さんによると英国内で唯一、王室の敷地内にあるゴルフ場だそうです。右下はハンプトンコートパレスの庭園(写真はすべて本人提供)。

船長さんはウェントワースゴルフクラブも予約してくれていたのですが、あいにくの大雨でキャンセルしてしまったのはとても残念でした。
マグナ・カルタではそれぞれの停泊地から有名なゴルフ場へ行き来するゴルフクルーズも行っており、ゴルフ三昧の旅をしたい方にはこちらがぴったりだと思います。

テムズ川上流を進むマグナ・カルタ(写真=本人提供)。

アフターゴルフは船上で

ハワイ・カウアイ島に停泊中のプライド オブ アメリカ号の船上から。港はニクラウスが設計したホクアラ・ゴルフコースの名物ホールの目の前(写真=本人提供)。

ゴルフをするのにクルーズはとても便利で快適な手段です。キャディバッグを部屋に置いたままコースの近くまで連れて行ってくれますし、ラウンド後も部屋に戻るだけ。飛行機の時間に合わせて行動する必要もありません。

なかでもプライド オブ アメリカという船でハワイの島巡りをする7泊8日のクルーズはおすすめです。カウアイ島でホクアラ・ゴルフコース(旧・カウアイ・ラグーン・キエレコース)に手が届きそうなほどの港に停泊するのです。
海沿いの名物ホール16番ではティショットを自分の船に向かって打つことになり、これもまた一興でした。

ホールアウト後は部屋に戻ってシャワーを浴び、ベランダでルームサービスのサンドイッチとビールを片手に今ラウンドしてきたコースを眺めながらゴルフの余韻に浸れます。断崖の上のホールや海越えホールを海側から見ることができるのも船旅ならではの楽しみだと思います。

ハワイ諸島を巡るクルーズが人気の客船プライド オブ アメリカ。コース料理のレストランばかりではなく、船内にはカジュアルなアメリカンダイナーもあり、その時々の気分に合わせて選べます(中・右写真=本人提供)。

動くオーシャンホテルとも呼ばれる豪華客船。しかもこのホテルは滞在中に窓の外の景色や気候が時々刻々と変化していきます。時には目の前に突然クジラが現れたりと、雄大な自然を肌で感じることもできますし、そして目が覚めるとまた新たな場所に着いているのです。
世界各国からやってきた人達が同じ目的地に向かって何日間も旅を共にしていると、新たな出会いやドラマも生まれます。これもまたクルーズの大きな魅力だと思います。

クルーズで行く海外の人気寄港地
  • グレイシャーベイ
    米アラスカ州南端。標高3,190mのクリーブランド山をはじめとする山々とダイナミックな25の氷河、深く切り込んだフィヨルドが広がる。
  • コトル
    バルカン半島西部、モンテネグロの港町。複雑に入り組むコトル湾に面し、ヴェネツィア共和国時代に築かれた城壁が旧市街を囲む。世界遺産。
  • ヴェネツィア
    イタリア北東部、118の島々を無数の橋が結ぶ水の都。ヴェネツィア共和国の首都として栄えた時代から残る歴史的建造物も見どころ。世界遺産。
  • ドゥブロヴニク
    クロアチア南部の小さな港町。その美しさから『アドリア海の真珠』と呼ばれ、例年約140万人もの観光客が訪れる。旧市街は世界遺産に登録。
  • バルセロナ
    スペイン・カタルーニャ州。地中海クルーズの玄関口として知られ、街中にはガウディ作品が点在。サグラダ・ファミリアは2026年完成と言われている。
  • リスボン
    大航海時代に栄華を極めたポルトガルの首都。
    往時を伝える壮麗な建築物や情緒あふれる旧市街など見どころ多彩。丘の多い街の移動はトラムが便利。

※クルーズ旅行の口コミ・予約サイト「クルーズマンズ」がまとめた『寄港地ランキング』から一部抜粋

Find Information
QUEEN MARY 2(クイーン・メリー2)
エリザベス女王の命名で2004年に就航した洋上の宮殿。総トン数151,400t、乗客定員2,691人、乗組員1,250人。ペットと一緒に乗船できる唯一の豪華客船としても知られている(大西洋横断クルーズのみ。犬・猫限定)。
Magna Carta(マグナ・カルタ)
1936年建造の運搬船を改造、リバークルーズ船として2001年就航。総トン数225t、乗客定員8人、乗組員最大5人。7日間で5コースを回るゴルフクルーズや庭園を巡るガーデンクルーズなども運航中。
PRIDE OF AMERICA(プライド オブ アメリカ)
ホノルル発着のハワイ4島クルーズを通年運航。総トン数80,439t、乗客定員2,186人、乗組員927人。ドレスコード不要、食事時間も自由なフリースタイル。客室から火山やクジラの姿を目にすることも。
Pickup Item
クルーズ船の長旅。ゴルフを忘れないために、ちょっとしたものを持ち込みたくなりますね。練習施設があるとなると、グローブも持参して良さそうです。