2018.5.28

[Season.2-4]

イップスになる人の性格についての決めつけについて


こんにちは。ハバナトレーナーズルームの石原です。ゴールデンウィークも終わり、まもなく梅雨の時期に入りますね。そして梅雨が終わるとあっという間に夏です。2018年も何だかあっという間に、半分過ぎてしまいそうですね。今年は既に平昌オリンピックでの日本選手団の大活躍に、野球のメジャーリーグでの大谷翔平選手の鮮烈デビューなど、スポーツ界の明るいニュースが続いていますが、6月にはロシアでサッカーワールドカップが開催されるなど、まだまだスポーツから目が離せませんね。

さて、今回のコラムも、コラムシーズン1の実践編、Oさんのケースを振り返り、イップスの「よくある疑問」について、Oさんのケースに沿ってお話させて頂きたいと思います。

これまで、シーズン1で12回に渡り、あれこれとイップスについてお話しさせて頂きました。シーズン1は、第一回目コラムから最終回の第十二回まで、一通りイップスの現段階での見方、考え方についてまとめてありますので、「イップスをしっかり理解したい」という方は、読み返して頂けたら嬉しく思います。

ただ、まだまだイップスは未解明なことだらけで、インターネット上の情報や、人々が作り出す印象が、多くの方にとってのイップスのイメージを作り出してしまっている状況は、残念ながら今も大きく変わりません。イップスの正しい理解に向けて、一つずつ、地道な取り組みをしている最も大きな理由の一つが、「イップスになる人の性格の決めつけ」を解消することです。

イップスは、「メンタルが弱い人がなる」「緊張しやすい人がなる」「神経質な人がなる」・・・現場では、他にも多くの声を聞きます。しかし、イップスの症状を研究し、また実際にイップスに悩む方の相談を受けてきた経験上、イップスになる方に、性格の特徴はないと考えています。

「完璧主義の方がイップスになりやすい」という専門家の方のご意見もあります。確かに、私の尊敬する先生も、この「完璧主義」とイップスの関係については、言及されておりますが、あくまで「こんな傾向もあるかもしれないね」と言った程度です。

先日実践編のコラムで出ていただいたOさんも、カウンセリングや実打、改善プログラムを通したコミュニケーションの中で、「完璧主義」という印象は受けませんでした。実打を重ねる中で、一つの失敗に「引っ張られ」たり、イライラしたり、とりわけしていたわけでもありませんでした。

それでは、イップスになる人の特徴や傾向はどんなものがあるのでしょうか。

その答えを探るのに、非常に重要になるのが「認知」というものです。「認知」。聞きなれない言葉だと思います。似たような言葉に、「心理」というものがあります。一般的に、心理とは「心の働きや、状態や変化」などを表します。例えば、ゴルフをプレーしている際に、天気が悪かったり、寝不足だったり、何となく気持ちが落ち込んでいるような状態や、やる気が起きなかったりすることも、「心理」と考えることができます。

それに対して、「認知」は、主に視覚などを通して受け取った情報に過去の体験や記憶のフィルターを通して、言語などにより意味づけする役割のことを言います。心理は「状態」、認知は「働き」と区別することもできるかもしれませんね。例えば、ゴルフをプレーしている時に、コースを見て、「これは難しいコースだな。」などと考えるのは、心理ではなく、認知です。それができるのは、過去の記憶や体験などがあるからこそ「難しい」と言語で意味付けできるのであって、ゴルフの経験がない人には、そう認知することができません。

イップスは、私は、経験からもたらされる「認知」の働きによって、「心理」に不安状態など、何らかの影響が及ぼされ、動作の遂行に影響が及ぼされるのが、イップスではないかと考えています。

つまり、イップスの入り口は「認知」なのではないか、いうことです。性格や人格の傾向を捉えることが重要なのではなく、アドレスにいざ入った時の、ショットに対する認知を変えなくてはならないのです。実際に、Oさんには、ショット、スイング動作に対する認知の仕方を自然と変えていくようなお話もしました。短時間ではありましたが、「考え方」に一定の変化はあったようでした。

イップスになる人の性格や人格を決めつけることの価値は、それほど高いものではないということにお気づきいただけたでしょうか。今まさに、悩んでいる方には、特に今回のコラムは読んでいただくことをお勧めしたいと思っています。

それではまた次回もよろしくお願いいたします。

1982年群馬県生まれ。2007年早稲田大学スポーツ科学部卒業。現在、ハバナトレーナーズルーム恵比寿・代表。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者(JATI-ATI)トレーナーとして、数多くのアスリートのトレーニング、コンディショニングをサポートする他、アスリートのフィジカルコンプレックスをなくすことを目指し、キューバスポーツ研究、イップス研究を行っている。また、柔道グランドスラム・キューバ代表サポート(2011年~)、ワールドベースボールクラシック2013・キューバ代表サポートなどの活動を行っている。
著書『イップス スポーツ選手を悩ます謎の症状に挑む』(大修館書店)