最終日の逆転劇ほどギャラリーの興奮を掻き立てるものはないが、マスターズでの記録は52年もの長きにわたって破られていない。それを打ち立てたのがテキサス生まれのジャック・バーク。1956年のマスターズで、ケン・ベンチュリーとの8打差をひっくり返してマスターズ初優勝を遂げてしまうのだ。
バークは「スイングのプリンス」と呼ばれていたほど、スイングの綺麗なプレーヤーだった。当時のアメリカツアーはベン・ホーガンやサム・スニードが隆盛の極みで、素速いスイングからボールを叩きつけるようなスイングが流行だった。ボビー・ジョーンズのような「歌うようなスイング」は古いものとされていたのだ。
ジョーンズの時代はシャフトがヒッコリーだったために、自分の腕もしなやかに使わなければボールは遠くへ飛ばなかった。ところがシャフトがスチールとなって、思い切り叩けるようになったわけである。
ところがバークのスイングはこの時代には珍しく美しいものだった。しなやかで流れるようなリズムがあった。特にトップでの一瞬の間は息を呑むような雰囲気があった。今は亡き金田武明さんが目撃している。 「クラブに体がぶら下がっているようなトップだった」 体から余計な力が抜けた、完全にリラックスしたスイングだった。バーク自らも言っている。
「スイングで使う筋肉は2割でいい」 飛ばそうとして力んでばかりいる御仁はこの言葉を頭に置きたい。「スイング王子」のように2割の力でも十分なのである。