
常にピンしか見ていない。
16歳でプロデビューして以来、セベ・バレステロスのゴルフはいつも攻撃的だった。曲がることなど怖れず、激しく飛ばし、ピンを狙った。錆びた3番アイアンがオモチャだった彼はどんな難しいショットも遊び感覚で打てた。曲げる球など自由自在、アプローチだってどんなライからでもチップインを狙えた。だから、19歳で史上最年少の欧州ツアー賞金王となり、その翌年の1979年には全英オープンを制してしまう。
それも最終日の16番(コースはトイヤルリザム・アンド・セントアンズ)で、誰もがアイアンで刻むところをドライバーを手にして右に大きく曲げて駐車場に打ち込み、ボールは車の下に。誰もが万事休すと思ったところで、セベは車をどけさせて見えないグリーンを狙ったのだ。それもベアグランドから絶妙のアイアンでピン4mに。これを難なくカップに沈めてバーディ。メジャー初勝利をたぐり寄せてしまったのである。
ドライバーは曲げたが、7色のアイアンショットでリカバリーする。だからギャラリーは熱狂してしまう。

’80年のマスターズ史上最年少優勝にしてもそうだ。2日目の17番で今度はドライバーショットを左に曲げて隣の7番グリーンにオン。そこから17番グリーンにオンしてこれまたバーディを奪ってしまったのだ。絶体絶命のピンチから奇跡のバーディ。なんでそこまでしてピンを狙うのか?セベは笑っていった。
「ゴルフはピンを目がけるゲームだろう?違うかい?」
スペイン生まれだけに闘牛士と呼ばれ、獲物を狙う狩人のようにピンを目がけたゴルフを行った。
そんなセベが2011年の5月に54歳という若さでこの世を去った。脳腫瘍だった。チャンピオンズツアーでも「ピンデッドゴルフ」を見せて欲しかったのに。