
針の穴をも通すほど、正確なショットを打ったとされる中部銀次郎さん。しかし、その中部さんでさえ、完璧なショットは1ラウンドに1回か2回しか打てなかったという。
それほどにゴルフは難しく、ミスのゲームだといわれるのもうなずける。しかし、だからこそ、ショットを打つ前はゴルファーなら誰もが、上手く打てるかどうかの不安に駆られる。それは日本アマで前人未踏の6勝を成し遂げた中部さんでも同様であったのだ。
「スタートのティショットはいつでも緊張した。晩年は心臓がどきどきして、薬を飲んでからでないとボールが打てなかった」
中部さんの晩年は、日本アマの試合でそういった状況になっていたと告白している。心臓の薬を求めて、右往左往したことも語っているのだ。
つまり、正確無比なショットを打てる中部さんでも、大事な試合ではプレッシャーがのしかかり、不安に陥っていたというわけだ。

そして、そんな中部さんだからこそ、練習を十分に積んでいた。不安を払拭できるものは、練習以外に何もないことを十分に理解していたからだ。
「いかなる局面でも、自分を支えてくれる心の余裕は、最終的には自分が積んだ練習量から生まれてくるものである」
中部さんが遺したこの言葉は、練習量の多さと心の余裕の大きさが比例することを表しているところが秀逸である。練習をすればするほど不安が解消できるわけで、中部さんの練習量が自ずと増えていったことを物語る。
中部さんでもそうして精進したのであるから、ミスショットばかりで大きな不安に駆られる我々はもっともっと練習を積まなければならない。練習をしないで良いショットや良いスコアを求めるなど言語道断ということなのだ。