
端整な顔立ち、シックな着こなし、尊厳なるプレーぶり。富裕層で大学でのインテリ。なのに、プロゴルファーとなったヘンリー・コットン。
20世紀前半での英国では、賞金で生活をするプロゴルファーは卑しい職業の者と見なされ、クラブハウスに入ることさえ許されなかった。
それ故、プロの地位を向上させようとした米国人のウォルター・ヘーゲンは、ロールスロイスでクラブハウスに乗り付け、車内で豪華なウェアに着替えてプレー、全英オープンに優勝して、プロの力を見せつけた。
しかし、本当の意味でプロの権威を獲得したのは、自らが英国人であるヘンリー・コットンだった。彼は、1921年から’33年まで米国に持ち去られた我が母国の全英オープンカップを取り返したからだ。
’34年、ロイヤルセントジョージズで開催された全英オープン。コットンは正確無比なショットで初日67、2日目65という驚異的なスコアを叩き出して、圧勝した。

特にパッティングは感性を研ぎ澄ませて打つものだけに、見ている者の心を震わせた。そんな彼が言った言葉が次のこと。
「パットラインを読み取るのは、常に第一感が正しい」
確かに第一感を信ぜずに、考え直したラインでカップインすることは、我々アマチュアレベルにおいても稀だ。人間には思考よりも優れた感性が内在しているということなのだ。その感性を鋭敏にさせることこそ、パット上達の近道である。
コットンは生涯で3度の全英オープンに優勝している。「笑わない男」と言われ、ミラクルパットでバーディを奪っても、表情1つ変えず、ガッツポーズもしなかった。それはプレーに集中し、己を見失わないためだった。