2019.6.6

「寅さん」こと中村寅吉は小柄故にドライバーショットは飛ぶほうではなかった。そこで寅さんはアプローチとパットに磨きをかけた。それがスコアメイクの鍵だからだ。

そうした猛練習によって、日本オープン3勝、日本プロ4勝の他に、現・ワールドカップであるカナダカップに優勝して世界一にまでなってしまう。

そんな寅さんがパットで遺した言葉は数あるが、その一番が「パットは気持ちをこしらえること」というもの。「一番嫌なパットって何だと言えば、それは1mちょっとのパットだろう。絶対に外したくない、しかし外すことも多々あるってパットだよな。パットの上手なプロはロングパット入れるプロじゃない。この短いのを絶対に外さないヤツよ」。

我々はとんでもない長い距離をたびたび沈める選手を驚きの目で見るが、寅さんは違うのだ。

「1mちょっと外しているヤツは決して勝てない。そんなヤツは心が弱いの。弱いっていうか、打つ前に気持ちをこしらえていないのよ。こしらえ方がわからねんだな」。

では、気持ちをこしらえるというのはどんなことだろう。

「1mちょっとの距離は誰でもドキドキすんだよ。だから、そうならないやり方を見つける必要がある。それが気持ちのこしらえ方よ。俺の場合はミミズとか羽虫みたいなものをグリーン上に見つけて、それが動いているのを確かめるのよ。それで俺は上がってないな、落ち着いているなって言い聞かせる。後はゆっくり慌てず、静かにパットするだけよ」。

なかむら・とらきち

1915年9月17日、神奈川県横浜市生まれ。2008年2月11日93歳で逝去。’35年プロに転向し、’50年に日本オープン初優勝。’57年にカナダカップに優勝して日本をゴルフブームに導く。