オノフのブランドプロデューサーである大江旅人さんは1年の半分を沖縄で暮らすデュアルライフを実践しています。地元ゴルファーの皆さんと一緒にボールを追いかけ、海を眺め、知られざるプライベートコースを探検し、離島に渡り……。そんな“超”ローカルな沖縄生活の話を聞いてきました。(聞き手/オノフ担当 朝岡郁雄)
――近頃は二地域居住生活を送る人をデュアラーと呼ぶそうですが、大江さんはいわばベテラン・デュアラー。東京と沖縄を行き来する生活を続けています。
1年の半分を沖縄で暮らすようになって8年が経ちました。ホームコースのカヌチャゴルフコースの近くに小屋を建て、そこで海を見ながら過ごしています。
カヌチャに通い始めたのは、オノフの初期モデルが出た頃だからもう20年くらい前。シーズン前の合宿で滞在していた辛 炫周(シン・ヒョンジュ)プロの撮影をしに行ったのが最初でした。
――沖縄本島北部の東海岸。那覇からはちょっと離れていますよね。
1時間以上かかるので、沖縄ではかなり遠い部類に属します。そのまま走れば『やんばるの森』ですからね。
1時間運転して、終わったらまた1時間かけて帰るっていうのは沖縄の人にとってはできれば避けたいところなんだろうけれど、それでも熱心なゴルファーは遠出をしてやって来ます。
リゾートコースという印象があるかもしれませんが、風やアンジュレーションが複雑で一筋縄ではいかない面白さがある。だから僕は車で3分のところに家を建てたんです(笑)。
――地元ゴルファーの皆さんのゴルフライフに本州との違いはありますか?
もううらやましい限りですよ。みんな思い思いにコースへふらっと出かけていくんです。メンバーシップを貫いているコースもなかにはありますが、たいていの場合はオープンですし、何よりもスループレーが基本というのが、ものすごく大きいですね。
午前組の最後が11時半ぐらいまでプレーして、そのあとから午後組がスタートするんですが、午前スタートの人が朝食がわりにスパムむすびを食べながらラウンドして、帰りに沖縄そばを食べて帰る。午後組の人はコースでランチをしてからスタートすることもあるけれど、家が近いこともあってほとんど食べずにさっとプレーして帰っていきます。
そもそもハーフで長時間ブレイクすること自体、世界的に見ても特殊なことなんですけどね。
――皆さんのプレーぶりはいかがですか?
ものすごく熱心ですよ。しかも猛者たちが多いです。ちょっと散歩する感覚でコースに来ている人もいますが、猛者の占める割合は本土に比べると断然多いと思います。みんな上手いし、熱心ですよ。
面白いのは、地元の人は暑い日でも短パンをはかないし、半袖のシャツも着ないこと。最近の若い人はさすがに時々見かけますが、たいていは長ズボンと長袖でプレーするんです。日焼けや暑さ対策なんでしょうね。農家の皆さんもそうですから。だから、うしろから見ていると前の組が地元のゴルファーかどうか、ひと目で分かります。
それと、若干プレーが遅いのも特徴のひとつかもしれません(笑)。みんなでおしゃべりを楽しんで、和気あいあいとラウンドしていますから。すると、Uターン組の人達は本土のペースに慣れているものだからイライラすることになる(笑)。いずれ慣れますけどね。
遅いといえば、車の運転も。1車線しかないから前にちょっと遅い車がいると、もう延々と繋がるわけですよ。でも先頭の人はちっとも気にしていませんし、オジイやオバアは、それはもう超遅いですから(笑)。これにも最近やっと慣れてきました。
軽トラの荷台にキャディバッグを積んでゴルフに行く人も多いですね。サーファーがボードを積んで海に行くのと同じ感覚で、これもローカルのひとつのスタイルだと思います。
また、ジュニアゴルファーに対する理解と教育の熱心さは目を見張るものがあります。みんなでサポートして育てているんです。カヌチャでも子供達がよくラウンドしていますが、みんな本当に上手ですよ。
――2018年には那覇市にオノフのショップ&カフェ『houseONOFF』がオープンしました。
ショップ、バー、ライブラリー、レッスンスペースなどを揃えた大人の隠れ家のようなところです。コロナの影響でフルオープンできない状況が続いていますが、再開後はどんなことをしようか、いろいろとアイディアを練っているところです。
バーは以前と変わらず地元の皆さんに気軽に集まっていただいています。ギアやコースの話に花が咲いたりとかね。ゴルフ好きがおいしいお酒を飲みに来る場所になっているんです。
結婚を機に帰ってきた人や、子育てのために移ってきた人とか、東京や大阪からのUターン組もいて、いろんな話を聞けるので面白いですよ。自由に旅行ができるようになったら、観光客の皆さんにも遊びに来ていただきたいですね。
――沖縄のゴルファーの皆さんの時間の使い方、楽しみ方が少しわかってきたような気がします。
やっぱり身近ですよね、ゴルフが。実際、ゴルフ場との距離が近いし行きやすいということもあるけれど、それ以上にゴルフに対するスタンスが違う。子供の頃から慣れ親しんでいる人が多いから特別なものではないのだと思います。
ゴルフがどんなに上手な人でも威張らないんですよ。もちろん競技で優勝したり上位に行ったりしたら大喜びするけれど、あいつはゴルフが上手いとか調子が悪いとか、そういう人の腕前の話をすることがないし、特別扱いもない。そして当の本人はむしろ上手であればあるほどそんな素振りを見せないんです。スコアやハンディキャップを気にするゴルフとは、ちょっと違うと思いますね。(次回に続く)
(プロフィール)
Profile
大江旅人
おおえ・たびと(写真左)
アートディレクター。音楽、映像、ファッションなどのブランディングやデザインを数多く手がけ、オノフのブランドプロデューサーを務めている。