2023.11.1

[vol. 13]

9ホールプレーで見えてくるもの


日本最東端に位置する9ホールのリンクス『根室ゴルフクラブ』(9H・3199Y・P36)

「スコアではない、夢を追え」。これはオノフが以前、展開した広告のキャッチコピーです。
ゴルフの本来の楽しみとは何か。数字にとらわれない自由さがもっとあっていいのではないか。今回はそんなことについて、ちょっとお話ししたいと思います。

きっかけは『脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット』という1冊の本でした。著者は『ピーターたちのゴルフマナー』で知られるマナー研究家・鈴木康之氏。氏はこの本の中で、ゴルフにはスコアよりももっと大切なことがあると説き、クラブの本数やコースのホール数といった数字にもとらわれない、ゴルフの本来の楽しさについて軽妙に綴っています。

私自身、コンペの時以外はスコアをつけなくなって何年にもなります。今ではマスター室でスコアカードすら取らなくなり、ホルダーの中はからっぽ。ホールアウト時に、その都度いくつと同伴者に伝えるのみです。もともとスコアをつけていた時も、目的は打順のためでしたから、集計はしていませんでした。

それは、この本に書かれているように「人のプレーも見てないで、グリーンを下りるたびに『君、いまいくつだった?』と取り調べをするようなゴルフ」がいやだったからでもあります。

やがて私は「ここは強烈なフックを打ってやろう」とか、「バンカーのふちをぎりぎり越える高さで打とう」とか、「残り100ヤードで30ヤードくらい花道を転がしてやろう」といった具合に、小難しいショットにも人知れずチャレンジするようになりました。
人知れずというのは失敗することが多く、それがチャレンジした結果の失敗であることを周囲に気付いてもらえないからなのですが、ともあれ、スコアをつけないことで自由を手に入れた気持ちになれているのは確かです。

さて、この本に茨城県の日立大甕ゴルフクラブ(現・大みかゴルフクラブ)について書かれたこんな一節がありました。

 全部で六ホールズなのですが、井上誠一設計を復元、常連たちに親しまれているコースです。その一番ティに僅かに傾斜した雨どいのようなボール置きがありました。(中略)着いたら自分のボールをその傾斜溝の上側に置く。それがスタート順です。
 理に適ったそのシステムもさることながら、そこに並んでいるボールを見て、嬉しくなりました。みんな、私のボールも気安く仲間入りできるような、よく使い込まれ、擦り傷がついていたり、色がくすんでいたりのボールたち。ここの常連たちの質素が窺えました。

―――『自分のため世のため ゴルフを安く』より

規模は小さいながらも長く地元に愛されてきたコースには、ここに書かれたような素敵な大人達が多いような気がします。
そしてこういったゴルフ場はプレー代もたいてい手頃です。食堂も価格が抑えられていることが多いので出費がかさばらずに済みます。浮いたお金は次回のプレー代の足しになり、この先も通う回数を増やしていくのです。

左=1956年開場の歴史ある9ホール『伊豆大島リゾートゴルフクラブ』(9H・2715Y・P35)
右=愛好者による手造りコース『八丈島シーサイドゴルフクラブ』(9H・1000Y・P28)


このページでは9ホールのゴルフ場の魅力をたびたび取り上げていますが、本書にも9ホールに関する記述がいくつか出てきます。そのひとつをご紹介しましょう。

 私には「おらが村さの九ホールコース」という理想像があります。ゴルフが日常もっと近場で、もっと手軽に安く、もっと頻繁に、もっといい加減に楽しめたら理想的です。いい加減にという意味は、前々から日を決めて、丸一日潰すというゴルフばかりではなく、朝の散歩代わりに四ホール、ひょいと腰を上げて夕飯前に子どもや孫と三ホール、という日常化したゴルフが定着すると、ゴルフする者はもっと幸せになります。(中略)
 日常のゴルフには噴水池もビーチバンカーも華美なクラブハウスもいりません。手軽さと低廉がほしいのです。

―――『おらが村さは九ホールで十分』より

近場の9ホールがあればゴルフをいつも身近に感じていられる。ゴルフ好きにとって理想的な環境です。
朝、天気がよければクラブ数本を入れたゴルフバッグを担いで自転車で出かけ、途中のカフェでコーヒーとサンドイッチを食べながら友人を待ち、連れ立ってコースに向かう。
打順は準備ができた人から。スコアはつけず、数えもしない。プレー後は夕焼け前の海でぷかぷかとサーフボードにまたがる……。これが私の理想です。

贅沢なもてなしをゴルフ場に望むようなことはもちろんありません。質素なクラブハウスがあり、その先に仲間の待つ草原が広がっている。
それで十分、幸せになれると私も思います。

文(一部写真も)/オノフ担当 朝岡郁雄

左=都民のオアシス『東宝調布スポーツパーク』(9H・1545Y・P30)
右=湘南葉山のミドルコース『葉山パブリックゴルフコース』(9H・1479Y・P30)



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『脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット』

鈴木康之 著/ゴルフダイジェスト社/2009年9月28日発行