元・日本山岳会副会長、山と溪谷社取締役編集本部長。現・日本ロングトレイル協会会長。明治大学山岳部OBで冒険家・植村直己さんの1年後輩にあたり、山に関係する雑誌、書籍、ビデオなどを多数手がけている。
シーズンインを富山で
我々“山ヤ”にとって晩秋は2度目のゴルフシーズン開幕の時季。山小屋の主が山を下り、山岳警備隊員も時間に少し余裕が生まれ、立山黒部アルペンルートの面々もほっとひと息ついて皆でコースへと繰り出します。以前は南の島のリゾートコースに定期的に出かけていましたが、最近はもっぱら彼らの地元、富山や高山が中心です。
東京から出向く私にとっても富山は馴染み深いところ。なかでも市内からアクセスのいい呉羽カントリークラブはもう何十回も通っています。山と海を望むロケーションに恵まれたゴルフ場で、2コース36ホールある中でも特に日本海コースから見る景色は格別です。
山小屋の主連中は夏のあいだ、コースに出ることはなかなかできませんが、私はそれを尻目に下山したその足で直接ラウンドということも。かつて山の雑誌を作っていた頃は山歩き用のストックをキャディバッグに入れておき、ラウンド終了後はカメラマンと落ち合って山の撮影といったこともやっていました。
その頃、仕事でゴルフに行くことができない、ある山小屋の主はゴルフ恋しさのあまり山上で一人、時間を見つけては素振りに精出していたそうです。通りすがりの外国人登山客から「グリーンはどっちだい？」なんてジョークを飛ばされることもあったようで、遥か下界を見下ろしてクラブをビュンビュンと振る彼の姿を想像するとなんだか楽しくなってきます。すこぶる豪快な男で、物資輸送に使っているヘリをチャーターし、私達をゴルフ場まで運んでくれたこともありました。
ヘリといえば、ゴルフ仲間の山岳警備隊の航空隊長が訓練中、私達がラウンドしているコースの上空を通過したことがありました。いつもより低空飛行をしてホバリングし、飛び去って行ったのですが、あとで「あのショート、誰もワンオンできてなかったじゃないか」と冷やかされました。面白かったのはその時のキャディさんの反応です。県警のヘリに手を振る私達を見て、次のホールから途端に口数が少なくなっていきました。東京から来た私を警察の偉い人と勘違いしたようでした。
我々のような山ヤは、一度見ただけで周辺の地形が頭に入ります。命にかかわることなので当然と言えば当然ですが、殊に私はその能力に長けているようで、実際に見た景色はもちろん、写真で見た山の形もほとんど忘れることがありません。
ゴルフ場も一度ラウンドするとコースの地形をだいたい覚えてしまい、あとで1番から18番までのロケーションを頭の中で3D映像のように自在にプレーバックすることが可能です。ただしなかには例外もあって、景色やデザインに表情のないコースはあまり記憶に残りません。そういうところはラウンドしていてもやはり物足りなさを感じてしまいます。
呉羽CC。富山市内から至近にあり、立山連峰を眺めてまわる気分は爽快。
プレー後、周辺の散策を楽しむなら北前船の寄港地、岩瀬港へ。贅を尽くした廻船問屋など古い建物が残って情緒たっぷり。新型路面電車のライトレールで行くことができます。
富山市の西隣、高岡市にある高岡CCとその周辺もおすすめ。加賀前田家2代目・前田利長の菩提寺、高岡山瑞龍寺は豪壮な伽藍（国宝）が見事。また、富山湾越しに立山連峰を望む雨晴海岸(あまはらしかいがん)も必見です。
高岡から車で30分ほどの南砺市井波は彫刻の町として知られ、瑞泉寺は彫刻が彩る名刹。門前の八日町通りには井波彫刻の工房が軒を連ねています。
“日本海の生簀”の幸を食べ歩く
富山を訪ねるもうひとつの魅力は食事です。なにしろ日本海の生簀と呼ばれているところ。これからの季節はズワイガニや寒ブリ、そして春はシロエビやホタルイカと、美味しいものに事欠きません。爽快な景色を見ながらゴルフをして、地元の食通お墨付きの店で旬を味わう。これも、オフシーズンを迎えた山ヤ達の大いなる楽しみのひとつです。
もちろん家族への土産も忘れてはなりません。富山と言えば鱒寿司が有名ですが、市内に店が40軒ほどもあり、皆それぞれに好みが分かれます。私のおすすめは高田屋。明治5年創業の老舗で、鱒の風味のよさに加えて寿司飯が抜群に美味しいお店です。新潟出身の私としてはやはりお米の味は譲れません。
ブリは富山湾を代表する冬の味覚。春はホタルイカや、これほど獲れるのは世界中でここだけというシロエビも絶品です。富山駅構内にはシロエビ料理の専門店があり、かき揚げ天丼と生ビールのセットで一杯というのが決まりです。
飛騨高山でもう1R
富山に行ったらちょっと足を延ばして飛騨高山に寄るのもおすすめです。富山から高山まで特急で85分。ゴルフ場も観光スポットも市街地から行きやすい場所にあり、もう1ラウンドという時に最適です。
よく行くゴルフコースはアクセスがよく景観もいい飛騨高山カントリークラブ。高低差のある土地ですが各ホールは地形をうまく使ってほぼフラット。ティから北アルプスを望む5番パー3など楽しみなホールが続きます。
高山市内は今も江戸時代の城下町・商家町の姿が保全されており、高山の奥座敷と称されるもうひとつの古い町並み、飛騨古川の辺りも風情があって街歩きを楽しめます。
飛騨高山CC。高山市内から約5キロと近く、コースから見る北アルプスの雪景色が最高です。
白壁土蔵や石垣を背景に川が流れる城下町・飛騨古川。四季折々の風情を感じられる場所です。
飛騨千光寺へは高山駅から車で約20分。円空上人ゆかりの寺として知られ、円空仏を60体以上所蔵する寺宝館を見学することができます。
ご当地グルメを楽しむなら飛騨牛ステーキや手打ち蕎麦、また、ちょっと変わったところではホルモンもおすすめ。神岡鉱山で栄えた神岡エリアの名物、とんちゃんは飛騨のソウルフード。ビールとの相性は抜群です。
Find Information
- 呉羽カントリークラブ
- 立山連峰を望んでのラウンドは気分爽快
- 富山県富山市三熊19-2
- 開場/1960年
- 設計/館 粲児、竹村秀夫
- 鮨 難波
- 市内で人気№1の名店。完全予約制です
- 富山県富山市公文名34-12
- 12:00～15:00 18:00～0:00（入店～22:00）月曜休
- 寿司栄 華やぎ
- こちらも評判の店。ほぼ毎年通っています
- 富山県富山市太郎丸西町2-7-1
- 12:00～14:00（LO） 17:00～21:00（LO）火曜休
- 鱒寿司 高田屋
- 旨味たっぷりの鱒と寿司飯のバランス◎
- 富山県富山市丸の内1-1-13
- 7:00～18:00（無くなり次第終了）
- 飛騨高山カントリークラブ
- コースから望む北アルプスが見事
- 岐阜県高山市石浦町1108
- 開場/1984年
- 設計/内田 繁
- 飛騨千光寺
- 円空仏の寺で知られる開山1600年の古刹
- 岐阜県高山市丹生川町下保1553
- 円空仏寺宝館 拝観期間4～11月（12～3月は冬季閉館）
- 9:30～16:30 火曜休
- たからや
- 神岡のとんちゃんで一番人気。焼肉も美味しい店
- 岐阜県飛騨市神岡町船津2053-1
- 18:00～21:30（閉店22：00）日曜・月曜休
Pickup Item
旅に持参するものはコンパクトにしたいもの。必携のカメラは、使いやすいアルティザン・アンド・アーティストのケースに。セーターも薄く暖かいものに。レインキャップは防寒にもなる便利なアイテムです。
