2022.8.8

[vol. 13]

心に残るゴルフの一冊 第13回


もうレッスンプロは必要がない。
超シンプルなことを実践するだけで上手くなる!

『クォンタム・ゴルフ 究極のゴルフ上達法』
シェール・イエンハーゲル著 山本光伸訳 春秋社刊

仕事仲間でゴルフ友達でもあった人間から「上達するには最高の本、究極のレッスン本だよ」と薦められた『クォンタム・ゴルフ』。かれこれ20年以上も前になるだろうか。購入はしたものの、わけのわからないタイトルと、ほとんど文字だけの中身に難しさを感じたのか、本棚の奥に仕舞われていた。
しかし、クラブオノフでゴルフ本のコラムを書いているうちに、この本のことを思い出し、奥から引っ張り出した。黄色の帯にはこう書いてある。
「世界的ティーティング・プロが明かす『量子物理学的ゴルフ上達法』の秘密!古典的練習法とは全く異なったTM(超越瞑想)応用テクニックで、あなたのスイングは一変。著者の指導で、ワールド・チャンピオンを含む数多くのプロ・アマが成果を上げたその画期的方法を今、紙上伝授!」
この帯の文句、「量子物理学的ゴルフ上達法」の一言で私はこの本を敬遠したに違いない。何せ、物理は高校時代に挫折した科目だったから。しかし、帯の裏を見ると、1976年USオープンの覇者、ジェリー・ペイトが「本書の発想は実戦で確かな効果を発揮する」と賛辞しているし、LPGAチャンピオンのジョアン・カーナーまで「素晴らしい効果があった、とりわけ競技の場で」と褒めている。
ならば、とにかく読んでみるかと本書を開いた。最初に著者、スウェーデンのティーチングプロであるシェール・イエンハーゲルの謝辞がある。ウォーレス博士という分析科学者の知識と経験によって『クォンタム・ゴルフ』ができあがったと書かれている。
「クォンタムQUANTUM」とは量子のことである。つまり「クォンタム・ゴルフ」とは「量子ゴルフ」=「量子物理学的ゴルフ」ということになるのだろう。難しい話なら、すぐに読むのは辞めようと、次のプロローグを読み始める。するとどうだろう。すごく楽しそうな物語が始まるではないか。言ってみれば大人のゴルフ童話といった面持ちだ。

マンハッタンで活躍している秀逸のビジネスマン、ジョン・ポール・スミスは全米でも有名なゴルフスクールに通い、新素材の高額なゴルフクラブを手にしているが、一向にゴルフが上手くならない。池にボールを入れるや「もうたくさんだ!」と叫んで残りのクラブをバッグごと池に放り込んでしまう御仁。
よろめきながらクラブハウスに戻ると、クラブプロが一言。「アイオワに行け!」そこには凄い先生がいる。知る人ぞ知る名コーチで、行った一人はハンデ15が0になった。「クォンタム・ゴルフ」というものを教える。「きっとお前さんを助けてくれる」というわけである。
まるでお伽話の始まり、魔法のような話の始まりである。ジョンは瞞されたと思いつつ、アメリカ中西部に位置するアイオワに旅立つ。それもフェアフィールドという巨大な牧畜農場のある辺鄙な田舎町。「クォンタム・ゴルフ」を教えるプロはすでに隠居の身で牧場経営をしているリンク・セント・クレアなる人物。
こんなとこりにゴルフ場があるのかと思いきや、ロイヤル・マスターズという素晴らしいゴルフ場があり、多忙なジョンはすぐにでもレッスンをして欲しいと支配人に頼むが、「予約が4年半先までいっぱい」と断られる。自分の知らないプロなのにそこまで人気があるとはと驚くが、たまたまキャンセルが出てレッスンしてもらえることに。
いよいよクレアが登場、「クォンタム・ゴルフ」のレッスン開始となる。

「クォンタム・ゴルフ」は淀みなく流れるようなスイングをもたらす

クレアは練習場で綺麗なフォームで300ヤード先の目標に飛ばしていた。引き締まった体、赤銅色の肌、青い目をしていて、歳は25歳にも60歳過ぎにも見える不思議な人物。しかし、ジョンは長年のビジネスの経験からすぐに知性と行動力のある成功者だと見抜く。彼の言うことなら信用できるかも知れないというわけだ。
クレアは「あなたのスイングを見せてもらいましょう」と言い、ジョンはドライバーでボールを強打。真っ直ぐ飛んで右に曲がり、距離は170ヤードだった。それを見たクレアは「7番アイアンで打ってみてください」と言い、ジョンは150ヤードを飛ばしたが、そのショットは大きくばらついた。
要は力の入りすぎだというわけだ。クレアは言う。
「ダンスを思い浮かべてください。音楽のリズムに乗って軽快にステップしますよね。ゴルフスイングもそれと同じです」
つまりは、力を抜いてリラックスしてスイングすること。流れに乗った自然で無理のないスイング。そうしたスイングはエネルギーを消費するのではなく獲得できる。だから、力を入れなくても遠くまでとばすことができ、疲れない。そう。クレアは言うわけだ。
そのためにはスイングの細部に注視せず、全体像を見ること。心の内的リズムを体の外的リズムにもたらすこと。それには振り子をイメージすること。クラブのグリップエンドを2本指でつまみ、ぶらぶらと振り子のように振ってみる。そのリズムでスイングする。つまりは振り子スイングをしなさいとクレアは薦めるのだ。
スイングの細部に注視してチェックしていくのを、クレアは古典的ゴルフと呼び、そこから脱却した全体像を見るリズミカルなスイングを「クォンタムゴルフ」と呼んでいる。
少しだけ量子物理学の話も出るが、頭に入れなくて全く構わない。要は「力を入れずに流れるようなリズミカルなスイングをする」とただそれだけだ。別段新しいことでもなく、分かりきっている話だが、それが「クォンタム・ゴルフ」の精神であり、最も大事な大前提なのである。だからこそ、しっかりと認識しておきたい。わかっているのに忘れ、ついつい力を入れて飛ばそうとするのが我々のゴルフなのだから。
ジョンは3番ウッドでは自然に「クォンタム・ゴルフ」ができるため、力を入れてしまうドライバーは封印。クレアによって片付けさせられた。

「スーパー・フルーィド・クォンタム・スイング」の実践

どのようにして「クォンタム・ゴルフ」をすることができるか。量子が自由に飛び回るように、淀みなく流れるようなスイングをすることができるか。ダンスをするように一定のリズムで気持ちよくスイングすることができるか。クレアはその答えを一つのフレーズを唱えることで達成させようとする。
「スーパー・フルーィド」
呪文である。「フルーィド」はFruidで流動的なという意味である。つまり超流動、量子の流動を言葉にしているわけで、この呪文を唱えれば、流れるようなスイングになるというわけだ。
振り子をイメージして、「スーパー」でバックスイング、「フルーィド」でダウンスイングする。さらにクレアは言う。
「息を吸いながら『スーパー』と唱え、息を吐きながら『フルーィド』と唱えるのです」
それまでにクレアは緊張して体が固くなったときには深呼吸をすること。そうすれば肩の力が抜けて良いスイングができるとジョンにアドバイスしていた。これはアドレスしてからでも良いわけだが、クレアは呼吸というものにそもそも注目していたことになる。
この呼吸をスイング全般に応用したのが、「スーパー・フルーィド」である。息を吸いながら「スーパー」と言ってバックスイング、トップに行ったら、息を吐きながら「フルーィド」と言い、フィニッシュで息を吐き切る。こうすれば体は緊張せずにリラックスできて、淀みない滑らかなスイングができるというわけである。
ジョンはこの呪文だけで素晴らしいスイングができるようになり、ボールが当たるようになった。おそらくそうなるだろうという気はするが本当だろうか。私もやってみた。
確かに素振りではスムーズに振れる。しかし、実際にボールを打つとなると、どうも上手く行かない。一つは「フルーィド」という言葉だ。日本人には言いにくい。そこで「フロー」という言葉に代えてみた。Flowであるが、これは流動する、流動という意味であり、「フルーィド」と変わらない。そこで「スーパー・フロー」と言い換えてやってみた。かなり上手くスイングでき、ボールにも当たるようになった。
しかし、切り返しの間というものが上手く作れない。クレアは「スーパー・フルーィド」と唱えながら切り返しの間をとらなくてはいけないと言っている。であれば「・」を間にしなければいけない。確かに切り返しの間があれば、トップオブスイングでのスムーズな切り返しができ、さらにスムーズなダウンスイングができ、フォローがとれ、フィニッシュをつくって息を吐き切ることができる。
そこで私には思い出したことがあった。それはゴルフの神様、トム・モリスの本を読んだときに彼が唱えていたスイングでの呪文である。それは次の呪文だ。
「ファー&シュア」
ドライバーではより利き目があるという「遠く、正確に」の言葉だが、これは、「&」があるために、切り返しの間がとりやすい。モリス翁が息を吸いながら「ファー」と唱えてバックスイング、「アンド」で切り返し、息を吐きながら「シュアー」とダウンスイングしたかはわからないが、私にはこちらの呪文のほうが良かった。ただ、ドライバーショットではいいが、アプローチやパットでは、意味が合わなくなる。飛んでしまっては上手く行かない。
となると、漫画『あした天気になあれ』の主人公、向太陽が唱えた「チャー・シュー・メン」もいいかもしれない。シューで切り返しの間を作るのだ。
「チャー」と息を吸ってバックスイング、「シュー」で切り返して、息を吐きながら「メーン」と唱えてダウンスイングする。やってみたが、これもなかなかいい。切り返しの間がたっぷり取れるので、トップが浅くなって早打ちする人にはかなり良いと感じた。
クレアはこの「クォンタム・スイング」ができたかどうかを、ショットごとにスコアカードに記せと言う。つまり、スコアカードにはいくつであがったかのスコアは書かず、呪文を唱えて滑らかなスイングが出来たか否かを記載する。最初はショットだけ、あとからパットも記す。80%以上、できれば限りなく100になるよう努力する。
さらに力を抜いた「クォンタムスイング」ができるよう、7番か8番アイアンで練習すること。それも両足を揃えて打つことを薦めている。また、グリップでは右手を下にずらして左手に重ねた団子握りにして打つことを薦めている。どうしても強くなりがちな右手のグリップ力を抑える効果があり、より振り子スイングになりやすい。やってみたがかなり良い感じでスイングできる。
クレアは言う。
「スイングの細部にはこだわらないこと。スコアもつけない。目的はひたすらスムーズな『クォンタムスイング』ができるかどうか。このスイングは最初は飛距離が落ちるが、目標にはかなり正確に打つことができるはず。やがて、飛距離もアップしてくるので心配は要らない」

(本書より抜粋)

「Qポイント」「Qヴィジョン」「Qフォーミュラ」

呪文を唱えてリズミカルで滑らかなスイング、「クォンタム・スイング」ができるようになったら、次は「Qポイント」の実施である。この「クォンタム・ポイント」とはスイングの終わり、つまりフィニッシュをしっかりと決めることを意図する。それもいつも同じポイントになるようにする。これを心掛けて、「スーパー・フルーィド」と唱えて素振りをし、ボールを打つようにする。練習から癖を付けるということが大切である。
さらにクォータースイング、ハーフスイングでフィニッシュのポイントを決めて練習する。クレアは7番か8番アイアンで「Qポイント」を行うようにと言っている。ショットへの自信を深めることが大切で、そのうちに大きな自信をつかんだ自分、即ち「ビッグセルフ」になることができると言う。
パットに関しても、「スーパー・フルーィド」と唱えてスムーズなストロークを行うことを心掛ける。このとき「Qヴィジョン」を行うこと。それも「Qフォーミュラ」を使って行う。「フォーミュラ」とは一定法則のことで、ここではルーティンのことを言っている。
いつもと同じようにデータを収集してパットのラインをイメージできるようにする。ボールからカップまでの傾斜を見たら、カップの周辺の傾斜を見て、カップの後ろからボールを見てさらに細かく傾斜を確認する。これが「Qフォーミュラ」である。
こうして傾斜を確認し終えたら、ボールからカップまでのラインを描いて、ボールスピードもイメージする。イメージできたら、アドレスに入りそのイメージ通りに素振りする。このときにカップにボールがコロンと入る音までイメージする。これが「Qヴィジョン」である。心の目と言ってもいい。
クレアが練習方法を教えてくれる。最初は1フィートの短い距離をしっかりと「Qフォーミュラ」と行い、「Qヴィジョン」をつくってパットする。徐々に距離を伸ばして25ヤードのロングパットまで行うことと言う。
また、この「Qフォーミュラ」と「Qヴィジョン」はピンを狙うショットでも行う習慣を作れとクレアは言う。つまり、ピンを狙う場合、ボールのライを確認し、グリーン周りを確認、風を確認する。こうして打つべきショットをイメージしてからスイングするというわけだ。もちろん、ドライバーでもホールレイアウトを確認、フェアウェイバンカーや池などのトラップに入らないよう、目標を設定して球筋を決めてスイングせよというわけである。
クレアは練習法も教えてくれる。
まずはアイアンだが、これは7番か8番アイアンで3つのボールを並べ、最初のボールを75%の力で、2つめのボールをその75%の力で、3つめのボールをさらにその75%の力で打つ練習を行う。つまり、普段7番アイアンで140ヤードの距離なら1つめで100ヤードを打ち、2つめはほぼ半分の70ヤード、3つめはほぼ3分の1の50ヤードを打つようにする。この練習は方向性をよくすることはもちろん、距離勘を養う練習となる。

自分のゲームプランをつくり、独自のゲームを行う

「クォンタム・ゴルフ」の最後は「クォンタム・スイング」を使って、独自のゲームを展開するということ。クレアは言う。
「人間は百人百通りの個性があるように、スイングもゴルフも百人百通りの個性があります。その個性を大事に、自分がどのようにホールを攻めていけば良いかを考え、独自のゲームを行うのです」
このことはそもそも「クォンタム・ゴルフ」の大前提であったろう。淀みない流れるようなスムーズなスイングを行うためのレッスンがなされただけだから、当然、スイングは個性が尊重されている。理想とされるスイングに当てはめようとするレッスンでは決してないからスイングは画一的にはならない。まさにそれこそが人間が行うスイングであると、私も同感し、納得できる。
我々は「クォンタム・ゴルフ」を基に、自分のスイングによって出現する自分の弾道でコースを攻めていく。自分だけの独自のゴルフで勝負していくのだ。
クレアは言う。
「人真似をすればすべては崩壊する。自分で考え、考えたらすべてを忘れて、『クォンタム・スイング』を行うだけ。それがあなただけのゴルフになり、結果として素晴らしいスコアを生み出すのだ」
クレアの言う通りに「クォンタム・ゴルフ」を実践していったジョンはすぐに70台が出し、最後はパープレーでもラウンドできたのである。ハンデ19のゴルファーが「クォンタム・ゴルフ」を習っただけで、ベストスコアはもとより、シングルハンデのプレーヤーになることができたというわけだ。
この本の内容はフィクションかも知れないが、実際に大いにあり得る出来事のような気がする。私もさっそくトライしてみたいと思った。難しいことは一切ない。誰でも出来る単純明快なゴルフ理論である。皆さんも読まれて納得できたら、ぜひとも挑戦してもらいたいと思う。

文●本條強(武蔵丘短期大学客員教授)

※本書は1991年に刊行されました。新刊はないため、amazon などで中古本が購入できます。