2023.7.20

[vol. 24]

心に残るゴルフの一冊 第24回


『ゴルフは音楽だ!サム・スニードの知恵と洞察』
サム・スニード著 大地舜・赤山雅彦訳 小池書店
スニード本人と友人たちが明かす
史上最高のスイングの秘密

サム・スニードはタイガー・ウッズが2019年に並ぶまでPGAツアー史上最多の82勝を挙げた名選手である。186cm、86kgの立派な体躯でパーシモンウッドと糸巻きバラタボールで300ヤード以上をコンスタントに放った飛ばし屋でもあった。マスターズと全米プロを各々3勝、全英オープン1勝、全米オープンこそ獲れずにキャリアグランドスラマーにはなっていないが、2位が4回もある。
プロでの勝利数は何とLPGAツアーで優勝も成し遂げており、シニアツアーなどを入れて165勝というとんでもない記録を打ち立てている。
1912年生まれで、ベン・ホーガンとバイロン・ネルソンと同年齢。3人は個性こそ違えど、常に優勝争いを繰り広げた永遠のライバルだった。今回紹介する本『ゴルフは音楽だ!』は、この3人の中で最もエンターテイメント的な人気があり、理想のスイングと言われたサム・スニードの自叙伝である。ちなみにスニードは2002年89歳で逝去、今も尚世界の多くの人々に偲ばれているゴルフ界きっての大スターである。
正式な書名は『ゴルフは音楽だ!サム・スニードの知恵と洞察』。原書は“The Game I Love”で、亡くなる3年前の85歳の時にフラン・ビロッツォーロというライターにインタビューを受けて翌年刊行されたものである。85年間のゴルフ生涯を語ったものであり、それに加えてライバルや後輩たちによるスニードという人物評や思い出話もあり、彼の偉業がどのようにして成されたかが存分にわかる仕上がりである。
特に我々一般のアマチュアが大いに参考となるゴルフ上達のエッセンスが豊富で、なるほどと読んでいて膝を打つことも多い。それもああ打てこう打てといった細かな技術ではなく、リズムやテンポ、フットワークといった、彼のスイングが今尚ゴルフ史上最高のものであり、究極のスイング、完璧なスイングと謳われている秘密が明かされている所が出色。しかもコラム形式で一つの事柄が簡潔に書かれているのでとても読みやすい。故に、このコラムを読まれる皆さんの心にも必ずや響くものであると思っている。

スイングは個性的でいい。大事なのはワルツのリズム

 サム・スニードのスイングが史上最高と呼ばれたのは音楽が奏でられているようなリズムとテンポがあったからで、そのことはジャック・ニクラウスやトムワトソン、アーノルド・パーマーなど歴代のレジェンドが証言している。では、リズムとテンポについてスニード本人はどのように言っているのか。
「私と親しい人なら誰でも知っているが、私は大の音楽好きだ。私はスイングのリズムを保つのに音楽を使っている。私の場合、正しいゴルフスイングのテンポにはワルツの三拍子が最高だ。コースではよく口笛を吹いたが、これがタイミングとリズムを融合させるのに役立ったと思う」
 スニードは「ワルツかもしくはフォックストロット(ゆったりした4拍子や2拍子)のように滑らかで流れるようなフォームで、自然に行われるべきだ」と友人のトニー・ペナにアドバイスし、スイングに悩む彼を見事に立ち直らせている。スニードはバンジョーなどの楽器をいくつもこなし、ダンスも上手だった。頭の中にいつもワルツの音楽を鳴らしてプレーしていた。
 スニードのスイングの虜になったトム・ワトソンは「練習場に行って彼がボールを打つ所をずっと見ていた」と回想する。「スニードのスイングを見ているだけでボールを打つときのリズムと技術が改善された」と証言している。ワトソンのスイングリズムはスニードよりも遙かに速いが、スニードのお陰で滑らかなスイングができるようになったと言う。

グリップは柔らかく握れば、リストも腕もしなやかに使える

サム・スニードはクラブを振るときは「ナイス&スムーズ」を心掛けろと言う。そのためにはまずはグリップを柔らかく握ること。よく彼が「小鳥を潰さないような力で」と言ったと伝えられているが、本書ではこう語っている。
「グリップの握り加減はとても大切だ。つまり指で握るグリップだ。豚を絞め殺すような力でクラブを握ってはダメだ。小鳥をつかむような気持ちで、やさしく、それでいてしっかり握る。小鳥に逃げられてもいけないし、かといって窒息させるのはかわいそうだ。適度な強さで握られたグリップを最初から最後まで保てれば、スイングそのものが安定する」
 柔らかく握ればリストが柔らかく使える。手首が固くなっているスイングではヘッドは走らない。腕も鞭のようにしなやかに使えるようになるからよりヘッドスピードがアップするのだ。
スニードはヴァージニア州の山岳地帯に生まれ育った。子供の頃から木を切って薪にしていた。鉈(ナタ)を使って薪にするには手首を柔らかくして鉈の刃を鋭い一撃にしなければいけない。当然鉈を握り締めていてはそうした鉈使いはできない。スニードは子供時代から自然に手首のスナップの使い方を、鉈を柔らかく握ることから学んでいたに違いない。
 実際にスニードはこのコツを友人のプロたちにも教えて、彼らに勝利を与えたりしているのだ。
 しかし難しいのはせっかく柔らかく握っても、いざボールを打とうとするときにギュッと強く握ってしまうことがアマチュアには多い。スニードは言う。 「アドレスし、その場に立っているだけで、手と手首と腕に余計な力が加わる。これではゆったりと、しかもスムーズにクラブを引き上げるのが難しくなる。力を抜き加減にして小さくフォワードプレスすれば、スイングは上手く始動する。だがこれを上手に行うアマチュアをあまり見たことがない。アベレージプレーヤーがこの初期動作を体得すれば、数段の進歩が望める」
 このことはワッグルを行うことで、余計な力を抜くことを覚えると考えてもいいだろう。クラブを柔らかく握り、ワッグルし、フォワードプレスからバックスイングを始める。「ナイス&スムーズ」のスターティングである。
 ちなみにサム・スニードは生涯、手にマメを作ったことはなかったそうだ。

インパクトでクラブフェースをスクエアにする

 サム・スニードがスイングにおいて重要視していたのは、インパクトでフェースがスクエアであることだった。なぜなら、それができれば目標にボールを飛ばすことができるからだ。インパクトでフェースがスクエアであれば、スイングがアウトサイドインならば打球はスライスして目標に落下し、インサイドアウトなら打球はフックして目標に落下するからである。要は空中での弾道が変わるだけで、結果は大して変わらない。もって生まれた自然なスイングを行えば、スイング軌道は安定し、球筋も安定する。インパクトでフェースがスクエアなら問題ないというわけだった。
 しかしこれを行うにはヘッドをコントロールできなければならない。スニードは本書で語っている。
「シャフトとヘッドがどの位置にあるのかを感じながらクラブを振るのが最も基本的なことだった。タイミングがずれると探しに行く気すら起こらないような林の奥へとボールが飛んで行ってしまったからだ」
 スニードはこの感覚に抜群の冴えを持っていた。それは子供の頃からの体験による。スニードがゴルフを始めたのは7歳のとき。12歳上の兄と一緒に曲がった棒きれで石ころを打った。地面にトマトの空き缶を埋めて4ホールを作り、何時間もカップインさせたのだ。曲がった棒きれで上手く石ころをヒットするには打点に敏感にならざるをえないというわけである。
 また、子供時代はヒモの先に石をくくりつけてブルンと振り、リリース前に石がどの位置に来ているかを手の感触で確かめてもいた。
「これが私には大きなプラスになった。タイミングの取り方やテンポを覚え、クラブヘッドの感触をつかむのに役立ったと今でも信じている」
 さらにスニードの父が彼のために作ったお手製のクラブがある。それは古い自動車用アンテナに木のヘッドをくくりつけたものだった。スニードは言う。 「手と目が連動する感触を確かめ、タイミングを身につけるのにはなかなかいい練習道具だった」
 自動車用のアンテナは細く柔らかい。そんなものでボールを打つのだから、ゆっくりと振らなければヘッドは戻らない。飛ばそうなどと速く振ってはヘッドは戻りきらず、空振りになってしまう。スニードのゆったりしたスイングリズムはこのアンテナシャフトが生み出したと言ってもいいし、ヘッドがどこにあるのかを常に意識するようにもなったと言っていいだろう。それが「手と目の連動する感触」と「タイミング」なのである。
 さらにスニードが本格的にゴルフを始めた頃のクラブシャフトはヒッコリーであった。この木製のシャフトはしなりのある強くて柔らかいもの。パワフルなスニードが柔らかいシャフトを使いこなすには、ヘッドがどこにあるのかを知る感覚が鋭くしなければならないし、ゆったりと振るようにしてタイミングをとったのは当然のことだった。
 こうしたことからスニードはクラブヘッドのコントロールに長けるようになったのである。
「クラブヘッドがどこにあるのかを知り、クラブフェースの状態をつねにわかってなければいけない。奇妙なスイングでもクラブフェースをきちんとボールの所に運んでくることができる者がいた。偉大なプレーヤー同様、クラブフェースをボールにスクエアに持ってくることができた」
 松山英樹がグニャグニャシャフトを装着したアイアンで練習していると聞く。
それはヘッドコントロールを身につけるためであろうし、超高速のスイングでもそれをできるようにするためだったに違いない。
さて、このコラムを読むあなたはどれだけヘッドのある位置がわかっているだろうか。

フットワークとスニードスクワット

 サム・スニードのスイングで彼が重要視していたことにフットワークがある。
「私は下半身の動きが非常に重要だと考えている。フットワークも大切だ。だが、どちらもスイング中に強く意識してはいけないもので、ボールを打つときは頭の中をなるべく空っぽにしたほうがいい」
 本書でも冒頭で述べているものであるが、そう言われてもよくはわからない。
「下手なプレーヤーは主に肩と手と腕を使って激しくボールに攻めかかる」と言った上で、「いいゴルファーは膝から上でプレーし、偉大なゴルファーは踵から上でプレーする」と述べ、さらに「私はスイングを『地面から上』のものとして捉えようとした」とスニードは語っている。
 では、具体的にどうするかと言えばまずは足首である。
「足首を柔らかくして、足首を回転することからスイングを始める」
 つまり、スイング始動は上半身ではなく下半身だということである。足首を回すと同時に肩を動かし、膝を動かしながら腕を引き、腰を入れてトップを形作る。下半身リードで上半身が動くのがスニードなのだ。
 ヴァージニア訛り丸出しの軽妙なお喋りでも人気があったスニードはアイゼンハワー、ニクソン、フォードと言った大統領ともプレーした。なかでもアイクことアイゼンハワーは大のゴルフ好き。コンパクトなスイングを心掛けていたが、それでは当たっても飛ばない。そこでもっと体を使うようにスニードはアドバイスしたかった。こんなセリフを吐いた。
「大統領、『ケツ』を入れてスイングしないとだめですよ」
 失礼に当たる言葉遣いだったが、そうすれば自然と体が回ることをスニードは知っていた。「ケツを入れる」とは「シットダウン」である。座るように体を回すことなのだ。スニードのスイングではさらにここから膝を割って腰を落とすようにしてボールをヒットした。この動作は「スニード・スクワット」と呼ばれ、スニードスイングの代名詞のように言われたのだ。
 「ケツを入れたらスクワット」である。世のゴルファーのほとんどは手や腕の動きに着目してしまう。加えて肩を回す、背中を回すである。つまり腰を入れたり、尻を沈めたり、スクワットをすることを忘れてしまう。しかし、ここにこそ、サム・スニードの飛ばしの秘密があるのだ。
「『スニード・スクワット』は自分であれこれ考えた末にできたものではない。意識的にそうしているわけではないのだ」
 子供の頃に鉈を使って木を薪にしていたスニード。上手く木を割るには鉈を振り下ろすときに腰を入れて落とさなければいけない。これが「スニード・スクワット」である。両膝を割って両足を踏み込んで鉈を一気に振り下ろす。だからこそ、ビシッと木を縦割りにできるのだ。しかし、薪割りは薪割りであって、ゴルフスイングに応用しようと意識してはスイングがバラバラになってしまう。それをスニードはよく知っている。
「これまで一度として両足の動きを意識したこともなければ、体重移動に注意を払ったこともない。私にとっては歩くのと同じで、ごく自然な動作だったのだ」
 つまり、スニードのようなフットワークを身につけたいのなら、しっかりと地面を踏みしめて歩くこと。さらには薪割りを上手に行えるようになること。それだけでいいということなのである。

 そしてもう一つ。スニードのフットワークを身につける重要な練習法がある。裸足で練習することである。
「私はしょっちゅう裸足で練習した。そうすると、地面に食らいついているような感じがしたものだ。裸足でクラブを振ると、自分の足が地中に伸びていって地面をがっちりつかんで離さない根っこに思えたり、錨を降ろした船に思えたりする」
 スニードは子供時代、裸足で山を走り回った。だから裸足の練習も不自然なことではなく、スニードのまさに「地に足がついたスイング」が完成したのである。
 スニードの裸足のスイングをジャーナリストが信用せず、「そんなことをしたら足の指を折ってしまう」と言った。そこで、マスターズの練習日にオーガスタを裸足で2ホールをプレーした。スニードは1番でバーディを奪い、9番でもバーディを奪って記者たちを驚かせた。ジーン・サラゼンは「ハックルベリー・フィンがゴルフをやっている」と冗談を飛ばした。
 裸足の練習は足指が地面をつかむようになり、シューズを履いてもその感覚があってバランスのよいスイングができ、大きな飛距離も獲得できた。膝にも負担がかからず、息の長いゴルファーにもなれるのだ。
 現にこの本のインタビュー受けた85歳の時にも、スニードは毎日200球を打ち、週に3、4回はラウンドしていた。朝晩、腹筋100回、腕立て伏せ100回を欠かさず行っていた。ウルトラスーパー爺さんゴルファーだったのである。

文●本條強(武蔵丘短期大学客員教授)

※本書は1998年に刊行されました。新刊はないため、amazon などで中古本が購入できます。