2020.05.14
昔むかし、羊飼いが暇にかまけて小石を杖で打ったのが、ゴルフの始まりだとされている。小石を上手く打つためには、杖をどう振ったら良いのか。そう考えられるようになって、どれだけの月日が流れただろう。ゴルファーの誰もが簡単に、すぐに上手く打てるスイング法は発見されただろうか。ボールをしっかり見て、クラブを振り上げ振り下ろしているのにボールの頭を叩いたり、手前をダフったりする。なぜだ? 「ボールにフェース面を当てに行くからですよ。フェース面を意識してスイングするからミスヒットになってしまうのです」。新たなスイング法に出合い、頭にガツンと一撃を受けたのだった。
昨秋のこと。オノフ主催ゴルフコンペが開催され、その表彰式でトークショーが行われた。最新クラブ事情とスイング変遷をテーマに興味深い話しが交わされ、その中でも衝撃的だったのは向江寛尚プロの話だった。
「フェース面を意識してスイングしたのでは、ミスショットが出やすい。体から最も遠い位置にあるクラブのソールを意識することでスイングが格段に良くなります。たとえば、バンカーショットは右腕一本で簡単に打ち出せます」。
まさか、砂の中のボールを片手打ちで打ち出せるなんて…。
トークショーが終わって、すぐに後日取材させて欲しいと願い出た。向江プロはニコリと笑みを浮かべ、快諾してくれたのだった。
ソールを意識してクラブヘッドを振ったことがあるかと問われれば「一度もありません」と即答できる。クラブヘッドを意識し、クラブヘッドの重さを感じられる速さでスイングしようとしたり、クラブフェースがどこを向いているかを考えながら振ったりしたことはある。しかし、ソールの位置や向きを察知しながらスイングしたことなどなかった。
向江プロはサンドウェッジを取り出し、クラブヘッドの形状から説明を始めた。
バンカーショット専用クラブとして開発されたサンドウェッジには独特なソール形状が施されている。ボールを直接ヒットせず、ボール後方の砂を爆発させ、その爆発力で打ち出すのがバンカーショット。砂を爆発させやすいようにソール後方部分を出っ張らせ、リーディングエッジ(フェース面側のソール)よりも先に接地するように作り上げられている。ソール後方部分が先に接地するため、ボール後方の砂を爆発させやすいだけでなく、ヘッドが砂の中に潜り込み(突き刺さり)にくい効果もあるのだ。
「バンカーショットの際、フェースを上方に向けるためにフェースを開きますよね。スタンスはオープン。アウトサイドにクラブを振り上げて振り下ろす。そんな風に思っていませんか」
向江プロからそう問われて「はい!」と元気よく答えた。
「サンドウェッジ独特のソール形状を考えてみてください。フェースは開かなくてもソール後方部分が先に接地するように作られているのですから、ボール前方のアゴが相当高くない限り、フェースを開く必要はありません。
むしろ、フェースを開いてしまうからボール後方の砂を爆発させられないのです」
バンカーからのショットでは、ボール前方のアゴのお陰で(?)通常ショット以上にボールを上げたい意識が強まる。そのためダウンスイングではインサイドから振り下ろし、「すくい上げる」スイングに陥りやすい。アウトサイドから振り下ろそうとは思っているのに…。しかも困ったことに、ボールを上げるためにサンドウェッジのフェースを開くとリーディングエッジはショットラインの右方向に向く。そのうえハンドファーストに構えたなら、リーディングエッジはさらに右を向いてしまう。
右に向いたリーディングエッジ向きをショットライン方向へ向ける修正作業。それがオープンスタンスを取ることだとされている。
「バンカーショットを苦手にしている人の多くは、打ち出し方の基本を知っていても実際は構えた時のフェース面に惑わされてしまっているのです。アドレス後、ボールとフェース面を注視したなら、どうしてもリーディングエッジに意識が行く。いくらオープンスタンスで構えたとしても右方向に向いたリーディングエッジによってインサイドにバックスイングしやすくなるのです。
スクエアスタンスで構え、ソールをアウトサイドに振り上げ、ボール後方へソールを振り下ろす。右腕一本でも簡単に打ち出せますよ」
向江プロの模範ショット。ボールはフワリと舞い上がった。「凄い!」。
「フェース面を意識するほどボールに当てる、合わせる意識が強まります。ドライバーショットでもパットでも手にしたクラブのソールを意識しながら振ることで、クラブヘッドで奇麗な円弧を描けるようになりますよ」。
向江プロの柔らかい笑顔が「そこ」にあった。